2017年初頭、保険証ではなくマイナンバーカードを利用して保険資格の有無を確認することができるようになるとの報道がありました。しかしこれは、「マイナンバーカードだけで医療を受けられる」ということではありません。一部では誤解を招きかねない報道もなされているマイナンバーカードと医療等ID導入後の保険証の関係性や具体的な利用法について、日本医師会常任理事の石川広己先生にお伺いしました。
記事1『医療等IDとは?なぜ、マイナンバーとは異なる医療等分野専用の番号が必要か』では、医療等IDのひとつである資格確認用番号により、異なる地域での医療情報連携も可能になるとお話しました。
この資格確認用番号は、患者さんの希望などにより変更することが可能な医療等IDです。また、保険者(健康保険事業を運営する協会や組合)は転職されたときなどに変わるものです。退職などに伴い、一時的に保険資格を喪失することもあります。
こういった保険資格の有無などの情報を管理しておくのが、保険等資格確認プラットフォーム(以下、保険等資格確認PF)です。
今後、現行の健康保険の仕組みにも変更が加えられる見通しが立てられています。日本には現在たくさんの保険者が存在しています。
冒頭で述べたように、ある人が転職すると、加入する保険者も新たな会社が設立する組合などに変わります。しかし、現在日本の医療機関が保険証を確認するのは、便宜上(※)月に1度だけであることが多く、月の途中に退職された方が新たな保険者から発行された保険証を提示しなかった場合、保険料が支払われず損失が発生することもあります。
※法律上は、毎回の受診の度に提示し、医療機関が確認することが義務付けられています。
現在検討されている医療等IDが導入されれば、こういった事態を防ぐことにも繋がると考えられます。
記事1『医療等IDとは?なぜ、マイナンバーとは異なる医療等分野専用の番号が必要か』では、Key-IDより生成される資格確認用番号付きの保険証を用いた医療等IDの発番・運用の方法についてお話ししました。この場合、患者さんは保険証と受診する医療機関ごとの診察券2つを持参し、提示することで医療を受けられます。
現在、もうひとつの運用法として、マイナンバーカードに格納されている公的個人認証を利用して、保険資格確認を行い、医療機関を受診するという方法も検討されています。
これは、患者さんが医療機関に診察券とマイナンバーカードを持っていき、後者をICカードリーダーにかざして、オンラインで医療等ID発番・管理PFから保険資格を確認するというものです。電車やバスに乗車するときに使用する”Suicaカード“などをイメージしていただくと、理解が進みやすいでしょう。
ただし、マイナンバーカードを医療機関に受診する際には、カード裏面のマイナンバーが外部に見えないようカードケースに入れてもらうなど、患者さんご自身の工夫も必要になります。
また、実現のためには次項以降で述べる様々な課題を解決していかねばなりません。
医療等IDを利用できる医療提供機関のなかには、大学病院などの大きな施設から、町の小さな診療所や薬局、歯医者さんなど、様々な施設があります。全国全ての医療機関にICカードリーダーなど、マイナンバーカードのICチップを読み取ることのできるデバイスを置いてもらうのは難しいでしょう。また、これらデバイスの設置には、膨大なお金もかかります。さらに、カードリーダに対応するためのシステム改修も必要です。
また、カードリーダーを置いている医療機関と医療等ID発番・管理PFの間には、センシティブで機微性の高い個人情報を伝送するための、セキュリティの高い回線がなければなりません。
現在、各医療機関や各介護施設は、独自の情報伝達回線を持ち、情報のやり取りをしています。これらはセキュリティは高いものの100%安全とはいえず、また細いパイプで繋がれているような状態であり、多数の情報をスピーディーに送ることはできません。
今後は、公平に使用でき、セキュリティが極めて高く、なおかつスピーディーに情報伝達できる太いパイプが必要になります。
このような課題点は短期的に解決できるものではないため、医療等IDの導入が実現された後もしばらくの期間は、(1)資格確認用番号付きの保険証を利用する方法と、(2)マイナンバーカードを利用する方法の2本立てで運用を進めていくことになると考えています。
人口一億人を超える大きな国では、所得や税金を管理するうえで番号があったほうが利便性や公平性が高くなります。このような理由から作られたものが、日本ではマイナンバーと呼ばれる国民番号です。
しかし、日本人は諸外国の人々に比べ、番号で管理されることに対する警戒心が強い傾向にあり、マイナンバー法が成立するまでの間にも様々な議論がなされました。
医療等IDの導入に関しても、同様の心理的抵抗を感じる方はいらっしゃるでしょう。こういった不安を取り除くためには、情報の安全性を担保する仕組みを作ることだけでなく、既に医療等IDのような医療などの分野専用の番号を作り、運用している国の実例を知ってもらうことも重要であると考えます。
ドイツやイギリス、フランスでは、所得などと結びつく国民の番号(日本におけるマイナンバー)と、医療の番号をわける方法を採用してます。このようなセパレートタイプを採用するの国のほかに、国民の番号1つで医療情報も税収等の情報も管理している国もあります。
後者の管理法を採用している国家のなかでも最も有名な国はエストニアです。
エストニアでは国民一人ひとりに11桁の国民ID番号が付与され、番号が掲載されたICチップ付きのカード(日本におけるマイナンバーカード)1枚で、医療機関を受診することも買い物をすることも公共交通機関を使用することもできます。このカードにはその方の持つあらゆる資格も登録されているため、運転免許証などとしても利用できます。
日本では、生命や身体、健康など、機微性の高いセンシティブな情報を扱う医療の番号は、マイナンバーと分けなければ危険であるという考えから、前者のセパレートタイプを採用する方向で検討を進めています。
医療等IDに限らず、これからの医療情報には遺伝子情報が含まれてくるため、法整備を徹底するなど、情報漏えいが起こらないよう万全の準備を整える必要があります。
疾患を発症する確率などがわかってしまう遺伝子情報と個人名が流出すると、結婚差別や就職差別など、本来起こってはならない個人の人生を左右する事態が起こる可能性もあります。
ですから、個人を特定できるマイナンバーと、医療情報を扱う医療等IDが直結するような形で付与されることは、あってはならないのです。
また、医療情報のなかにはご本人が忘れたいもの、知られたくないものも含まれます。
そのため、医療等IDを付与した情報については、原則としてご本人がアクセスできる仕組みを作り、不都合を感じた時点で情報などが検索できなくなる仕組みも担保することとしています。
具体的には、医療等IDを変更可能なものとするだけでなく、アクセスコントロール権を患者さんご本人に付与するという方法を検討しています。
ただし、患者さんの命や健康を守るための診療に必要な情報まで秘匿されてしまわないよう、一定の制限や第三者の審査・確認などの仕組みを組み込んでいく必要もあるでしょう。
私たちが取り組んでいる医療情報や医療の電子化に関するインフラ整備には、このようにバランスのとり方が難しい問題も多いため、実現を急くのではなく、現場で十分に議論を重ねていくことが不可欠であると考えます。
日本医師会 常任理事、千葉県勤労者医療協会かまがや診療所 院長
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