現在、日本では医療や介護などの分野で使用される番号「医療等ID(仮称)」の導入に向けた議論が重ねられています。私たち日本人の大半は、一生涯のうちに異なる地域の複数の医療機関を受診します。受診した病院Aには血液検査結果などの医療情報が蓄積されていきますが、これらの情報を新たに受診した病院Bが照会するためのシステムは、十分に整備されているとはいえません。医療等IDには左記のような問題を解消し、スムーズな医療情報連携を促す役割があります。マイナンバーとは異なる番号を用いる特徴的な仕組みとして、現在検討されている医療等IDに関する日本医師会の考えついて、日本医師会常任理事の石川広己先生にお伺いしました。
現在の医療界では、医療情報連携の促進が求められています。たとえば、医療機関Aにかかり続けていた患者さんが医療機関Bを受診したとき、Aが持つ血液検査結果や処方した薬剤のデータをBも参照できる仕組みがあれば、患者さんにとってよりよい医療が提供できるようになります。このようなスムーズな情報連携は、今後医療分野だけでなく、介護分野などでもますます重要になります。
現在、複数の医療機関を受診すると、各医療機関からはその医療機関の診察券番号が発番されます。そのため、医療機関Bが医療機関Aにある患者さんの情報を求めるときに使うことができず、迅速な医療情報連携に支障が生じています。
こういった問題を解消する一事例として、一部の病院では同一人物の異なる診察券番号を突き合わせるシステムやソフトを導入し、活用しているようです。本記事でご解説する医療等IDが導入されれば、このような突き合わせにも対応できます。
もし、患者さんごとに発番される番号が全国の病院で統一されていれば、データのやり取りに関しては非常に便利になるでしょう。こういった素朴な発想から、「既存のマイナンバー(個人番号)を使用するのがよいのでは」「マイナンバーカードの普及にも繋がるのではないか」という意見が出されることもあります。
しかし、所得などの情報と密接に結びついたわずか12桁の番号が記載されたカードを、診察券や保険証と同じように用いることは非常に危険です。
マイナンバーカードの裏面には、上記イメージのように12桁のマイナンバー(個人番号)が掲載されています。このカードを診察券や保険証のように医療機関の窓口に提出してしまうと、医療情報だけでなく、あらゆる個人情報が漏洩するのではないかという、患者さんの不安を煽ることにもなりかねないのです。
しかしながら、医療の質の向上や医療情報連携の強化のためには、なんらかの共通番号があったほうがよいこと自体は間違いありません。具体例を挙げつつ、その理由を以下に記します。
慢性疾患のうち成人してから発症することの多い慢性腎炎の患者さんには、幼少期の頃から疑わしい小さな症状があるといわれています。
しかし、現時点の制度では幼少期にかかっていた病院の診療記録と、成長してから受診する病院の診療記録の突合が難しいことなどから、学生時代あたりを境に患者さんを追うことができなくなることがほとんどです。
また、検診に関しても、乳児検診から高齢者の検診まで同じ番号で行うことができれば、国民一人ひとりの生涯管理が可能になり、公衆衛生の更なる向上にも繋がります。
そこで日本では現在医療等IDという、医療や介護等の分野における専用の番号の導入に向け、検討を重ねています。
先に述べたマイナンバーの特徴のひとつに、唯一無二性というものがあります。マイナンバーは、国民1人につき1つの番号が付番され(1対1番号)、その12桁の番号は生まれてから亡くなるまで、特別な理由がない限り変わることはありません。
また、マイナンバーは、ご本人やお勤めの職場、行政庁などが使用できるよう視認性(見える)という性質を持っています。
一方、現在検討されている医療等IDは、マイナンバーのように唯一無二性を持つIDではありません。個人一人に対して、地域医療連携や保険資格の確認などの目的別に複数の医療等IDを付与できる点が、最大の特徴といえます。
個人一人に複数の医療等IDを発番するための仕組みを作るにあたり、重要な概念となるものが「Key-ID」です。
Key-IDとはほかの医療等ID全ての元となるIDであり、記号や数字を複雑に組み合わせて生成される、容易に書き写すことのできない膨大な桁数の文字列です。
Key-IDは、医療等IDを発番し、管理するプラットフォーム(以下、医療等ID発番・管理PF)のなかで生成され、医療等ID発番・管理PFのみで管理されます。そのため、そのIDを付与されたご本人にも見ることや知ることはできません。
Key-IDは原則1人につき1つ生成され、変更はできません。このKey-IDから、視認性の番号である資格確認用番号が生成されます。
資格確認用番号とは、日本医師会の提案では以下に掲げるイメージのように、現在の保険証に印字されることを想定した医療等IDです。
資格確認用番号は、保険資格の有無の確認などに利用できます。つまり、患者さんは保険証に記載された資格確認用番号と、従来の各医療機関から発番される診察券番号で医療機関を受診できるというわけです。
保険証と各医療機関から発行された診察券をセットで提示するという従来の受診法は変わらないため、患者さんの負担や手間は増えません。
また、資格確認用番号は視認性のIDであり、様々な医療機関に提示するものであることから、定期的な変更や患者さんの希望による変更ができるIDとして発番されることを想定しています。
では、資格確認用番号が印字された保険証を提出することにより、どのようなメリットが生じるのかを、図を用いて説明します。
資格用確認番号という医療等IDは、他の目的別医療等IDの発行要求にも利用できるIDです。この他の目的別医療等IDのなかに地域医療連携用ID(図中ではID-Zと表記)というIDがあります。
例として、医療機関Aにかかっていた患者さんが、医療圏を越えて転居をされ、医療機関Bを受診するようになったとしましょう。
医療機関Bは、患者さんから受け取った保険証上の資格確認用番号を医療等ID発番・管理PFに送付することで、ID-Zという地域医療連携用IDを受け取ることができます。
ID-Zは、Key-IDから生成されて紐付け管理される医療等IDであり、医療機関Aにも送付されます。
このID-Zによって、地域医療連携Bシステムは、医療機関Aが地域医療連携Aシステムに送付したその患者さんの連携用診療情報を受け取ることができます。
医療機関Bは、その患者さんのID-Zと医療機関Bの診察券番号があれば、地域医療連携Bシステムから連携用診療情報を閲覧できます。
つまり、医療等ID発番・管理PFが介在することで、異なる複数の診察券番号が存在していたとしても、医療機関Bは資格確認用番号と自らの施設で発番した診察券番号のみで、他の医療機関の連携用診療情報を照会することができるようになるというわけです。
これら医療等IDの間での情報の突合は、原則患者さんの同意を得て行われます。
日本医師会 常任理事、千葉県勤労者医療協会かまがや診療所 院長
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