インタビュー

口腔内、口周り、耳周囲の腫れ・しこりや痛みの原因にも–唾液腺腫瘍とは?

口腔内、口周り、耳周囲の腫れ・しこりや痛みの原因にも–唾液腺腫瘍とは?
国際医療福祉大学三田病院 頭頸部腫瘍センター長・頭蓋底外科センター長、国際医療福祉大学 教授 三浦 弘規 先生

国際医療福祉大学三田病院 頭頸部腫瘍センター長・頭蓋底外科センター長、国際医療福祉大学 教授

三浦 弘規 先生

唾液腺腫瘍にはさまざまな種類があり、それぞれ発症年齢や特徴が異なる幅広い疾患です。良性・悪性があり、良性であっても再発を起こすことがあるため、しっかりとした手術による治療と経過観察が推奨されています。

今回は国際医療福祉大学三田病院 頭頸部腫瘍センター長・頭蓋底外科センター長の三浦弘規先生に唾液腺腫瘍の種類や分類、原因などについてお話いただきました。

唾液腺腫瘍とは? 症状・種類・悪性の割合について

顎を抑える人

唾液腺腫瘍とは、唾液を作る唾液腺に腫瘍が生じてしまうことです。症状として下記のようなものが挙げられます。

<唾液腺腫瘍の主な症状>

・口腔内、口周り、耳周囲の腫れ・しこり

・痛み

・顔面神経麻痺

・皮膚の発赤 など

唾液腺腫瘍によるしこり.png
唾液腺腫瘍によるしこり 三浦先生より提供

 

唾液腺腫瘍による顔面麻痺.png
唾液腺腫瘍による顔面麻痺 三浦先生より提供

 

唾液腺腫瘍は種類が多い。しかし悪性の確率は10%ほど

唾液腺腫瘍には良性と悪性があり、比率をみると良性が90%、悪性が10%と、良性である場合がほとんどです。さらにいくつかの組織型(腫瘍の病理学的な分類)に分類されています。現在は良性腫瘍が10種類、悪性腫瘍が23種類ほどに分類されていますが、2017年にはガイドラインの改正が予定されていますので、大きな変化が見受けられるかもしれません。

<唾液腺腫瘍・主な良性腫瘍>

・多形腺腫

・ワルチン腫瘍 など

<唾液腺腫瘍・主な悪性腫瘍>

・粘表皮がん

・腺様嚢胞がん

・多形腺腫由来がん

・唾液腺導管がん など

また23種の悪性腫瘍のなかには、一つの組織型のなかで「低悪性度」「中悪性度」「高悪性度」に悪性の程度によりさらに細かく分類が存在するものもあるため、「唾液腺腫瘍」と一言にいっても実に幅広い種類があることがわかります。

唾液腺の種類-耳下腺・顎下腺・舌下腺・小唾液腺

唾液腺は大きく2つに分けられます。左右3対の大唾液腺と、口腔内粘膜下に600〜1,000個存在する小唾液腺です。大唾液腺はその位置によって3つの種類に分類されます。

<大唾液腺の種類>

・耳下腺

・顎下腺

・舌下腺

大唾液腺

どこに腫瘍ができるかによって悪性のリスクが変わる

唾液腺腫瘍は耳下腺・顎下腺に発症する頻度が高く、その割合は全体の80〜90%です。また、耳下腺、顎下腺、舌下腺、小唾液腺のどこに腫瘍ができるかによって良性・悪性の割合も大きく異なります。

耳下腺・顎下腺・舌下腺・小唾液腺のうち、悪性の確率が最も低いのは耳下腺で、およそ20%です。続いて顎下腺の腫瘍だと40%ほどが悪性、小唾液腺だと50%が悪性といわれています。最も悪性腫瘍である可能性が高いのは舌下腺といわれ、90%とされています。

本記事では最も発症の頻度が高い耳下腺・顎下腺を中心に大唾液腺の唾液腺腫瘍についてお話していきます。

唾液腺腫瘍の有病率、発症年齢は?

10万人に0.4〜13人が発症

唾液腺腫瘍は10万人に0.4〜13人発症するといわれている疾患で、決して患者さんの数が多い疾患とはいえませんが、実は気付かれていないだけで有病率はもっと高いともいわれています。近年、検診で行われるPETによって、良性であっても集積を認める耳下腺腫瘍が発見される機会が増えています。また唾液腺腫瘍には良性・悪性の区分がありますが、悪性腫瘍だけに絞ると、頭頸部がんの6%を占め、全悪性腫瘍の0.3%ほどです。

最も多い発症年齢は50〜60代

唾液腺腫瘍に罹患する患者さんの年齢層は、腫瘍の種類によって大きく異なります。唾液腺腫瘍全体でみると、最も罹患率が高い年齢層は50〜60歳代ですが、良性腫瘍である多形腺腫や悪性腫瘍の粘表皮がん、腺房細胞がんなどは20〜30歳代の患者さんに多いという特徴があります。さらに粘表皮がんのなかでも悪性度の低い腫瘍は若い患者さん、悪性度の高い腫瘍はご高齢者の患者さんに多いといわれています。

唾液腺腫瘍に罹患する患者さんの男女比に関しても、良性腫瘍である多形腺腫は女性に多く、ワルチン腫瘍では男性の患者さんが多いといった具合に、腫瘍の種類によって違いのあることがわかっています。

唾液腺腫瘍の原因は?

喫煙

ほとんどの原因は不明。しかし喫煙や被爆が影響することも

唾液腺腫瘍に罹患する原因は、現在のところほとんどが不明です。しかし、一部わかってきていることもあります。

たとえば良性腫瘍であるワルチン腫瘍は喫煙者の男性が罹患する確率が高いということが知られています。非喫煙者に比べ喫煙者は8倍ほどワルチン腫瘍に罹患するリスクが高いと報告されています。またヒロシマ・ナガサキの原爆被爆は良性腫瘍であるワルチン腫瘍や悪性腫瘍の粘表皮がんに罹患するリスクが通常の3〜4倍高いこともわかっています。

さらに海外ではアスベスト・ニッケル・クロム・セメントなどを使用している職場に勤める方が唾液腺腫瘍に罹患しやすいという報告もあります。

(出典:Grahams S, Blanchet M, Rohrer T. Cancer in asbestos mining and other areas of Quebec. J Natl Cancer Inst1977;59(4):1139-1145/Dietz A, Barme B, Gewelke U, et al. The epidemiology of paroid tumors. A case control study. HNO 1993;41(2):83-90/Leon Barnes, Surgical Pathology Of The Head And Neck.より)

唾液腺腫瘍の治療方法は?

基本的には手術、悪性の場合は術後に放射線治療を行うことも

唾液腺腫瘍の治療の基本は手術です。良性腫瘍であれば手術のみで治療可能です。しかし、悪性腫瘍の場合には再発・転移を防ぐため、術後に放射線治療を勧めることがあります。

また、場合によっては保険の適応外になりますが、重粒子線治療を勧めることもあります。

手術やその他の治療方法に関しては、詳しくは記事2『唾液腺腫瘍の診断と治療-手術は必須?転移や再発を防ぐために』で述べています。

代表的な良性の唾液腺腫瘍–発症年齢や好発部位、特徴は?

唾液腺腫瘍として頻度の高い代表的なものをそれぞれご説明します。

最も多いのは多形腺腫

唾液腺腫瘍の70%は多形腺腫です。多形腺腫には下記のような特徴があります。

・発症年齢は20〜30歳代、女性の罹患者が多い

・良性だが10〜20年放っておくと約5%の患者さんが悪性化してしまう

・良性だが手術後2%の患者さんが再発してしまう

多形腺腫は良性の腫瘍ですが再発の可能性があるため、手術時には細心の注意を払う必要があります。たとえば大唾液腺に発症した場合、腫瘍は唾液腺の皮膜に包まれていますので、この皮膜を破らず皮膜ごと腫瘍を切除するようにします。万一手術で皮膜を破ってしまうと、腫瘍の細胞が漏れ、術後に再発してしまうことがあるからです。

喫煙者に多いワルチン腫瘍

ワルチン腫瘍は唾液腺腫瘍全体の10%を占めています。ワルチン腫瘍の特徴は下記の通りです。

・40歳以上の高齢喫煙者の男性に多い

・耳下腺、耳下腺周囲に生じる

・複数個の腫瘍ができる場合がある

ワルチン腫瘍は両側の耳下腺に発症するなど、複数個の腫瘍ができる場合があり、数回に分けて手術を行うことがあります。複数個の唾液腺を切除すると、唾液の分泌に影響が出るのではないかと懸念する方もいらっしゃいますが、切除して唾液が出にくくなるというような問題はほとんどありません。

代表的な悪性の唾液腺腫瘍–生存率、特徴は?

悪性で最も多いのは粘表皮がん

悪性の唾液腺腫瘍のなかで最も多いのは粘表皮がんで、唾液腺腫瘍全体の3〜15%を占めています。粘表皮がんは下記のような特徴を持っています。

・低悪性・中悪性・高悪性と悪性度がさらに区分される

・低悪性・中悪性は女性、高悪性は男性に多い

・生存率は全体で90%、しかし高悪性だけに絞ると40%ほどになる

粘表皮がんは以前、良性腫瘍として診断されていました。しかし研究が進むにつれ、転移を起こし、生存率も格段に下がる高悪性度のものが存在するということがわかり、悪性腫瘍に分類されるようになりました。

そのため粘表皮がんといっても低悪性のものはほとんど良性腫瘍と変わりはなく、手術で取りきれた場合には追加治療を行いません。しかし高悪性の場合には手術を行っても、がん細胞が残っている可能性もあるため、手術自体が大きな切除となったり、必要に応じて術後の放射線治療を行ったりすることがあります。

経過の長い腺様嚢胞がん

唾液腺腫瘍の悪性腫瘍で次に罹患率が高いのは腺様嚢胞がんで、唾液腺腫瘍全体の5〜10%を占めています。腺様嚢胞がんの特徴は下記の通りです。

・篩(ふるい)状・管状・充実の3種類の型に分類され、充実型が最も悪性度が高い

・経過が長く、10〜20年という単位で腫瘍がゆっくり増大し、時に再発する

・がん細胞が神経を伝って広がりやすい

・肺に転移しやすい

腺様嚢胞がんは神経を伝って離れた場所に伝播しやすいという特徴があります。そのため手術で腫瘍部分を健常な周囲組織で包んで切除しても、そのさらに周囲の神経内に神経を伝ったがん細胞が残っている可能性が高いために、術後の放射線治療を強く推奨しています。放射線治療が有効というエビデンスはまだ確立していませんが、経験的に放射線治療を行なったほうが、進行を遅くらせ、再発しにくいとされているからです。

5年生存率は50〜80%ほどですが、経過が長いという特徴があり、10年生存率は50%、15年生存率は20%といわれることからも長い期間の経過観察が必要です。

多形腺腫から発展する多形腺腫由来がん

前述の通り多形腺腫は良性腫瘍の1つですが、10〜20年放っておくと5%ほどの確率で悪性化することがあります。これが多形腺腫由来がんです。多形腺腫由来がんは唾液腺腫瘍全体の3%程度といわれています。多形腺腫由来がんの特徴は下記の通りです。

・低悪性・高悪性の分類がある

・低悪性の場合、手術のみで治療

・高悪性の場合、予後が悪く術後の放射線治療を行う場合が多い。

多形腺腫由来がんの低悪性・高悪性の区別は、大唾液腺の皮膜を腫瘍がどの程度破っているかで判断されます。腫瘍が皮膜を著しく破っている場合、悪性度が高いということになり、手術後放射線治療などで周囲に散らばっている可能性のあるがん細胞に対処する必要があります。

実は意外と多かった?唾液腺導管がん

三浦弘規先生

近年まだ臨床研究の段階ではありますが効果的な治療方法があるのではないかと注目されているのが、悪性腫瘍の1つである唾液腺導管がんです。唾液腺導管がんは60〜70歳代の男性に多い唾液腺腫瘍ですが、もともとは唾液腺腫瘍全体の2%程度といわれ、比較的罹患率の少ない腫瘍であるであるとされていました。しかし近年、本疾患の認知度があがったことで、唾液腺導管がんと診断される機会が増え、実際はもっと多くの患者さんが罹患しているということが明らかになってきました。

また、悪性度が非常に高いことでも知られており、一度罹患すると手術をしても再発しやすく、局所再発10%、リンパ節再発が15%、遠隔転移が40%といわれています。特に肺、肝臓、骨に転移することが多く、むしろ肺や骨のがんが先にみつかり、詳しく調べたところ唾液腺導管がんであったというケースもしばしばあります。そのため、唾液腺悪性腫瘍の中でも著しく予後は悪いことが特徴です。

乳がん・前立腺がんの治療として知られるホルモン治療が有効

近年の研究でこの悪性度の高い唾液腺導管がんが、乳がん・前立腺がん治療で使用されている分子標的薬や、ホルモン治療を応用できる可能性があることがわかってきました。乳がんや前立腺ガンでは分子標的薬やホルモン治療によって腫瘍の進行を食い止める方法があります。実は唾液腺導管がんも乳がんでみられる分子や、男性ホルモンにがんの発生や増殖が依存している性質があり、同じ治療で腫瘍の進行を食い止め、場合によっては腫瘍を小さくすることさえできるということがわかったのです。

当院でも多田雄一郎医師がこの研究を熱心に行なっています。この治療方法は現在まだ臨床試験中で、標準治療として保険適用化されるまでにはもう少し時間がかかると思いますが、すでに良好な効果を得られた患者さんが確認されているため、今後の進展が期待できます。