インタビュー

腸閉塞(イレウス)の原因や症状-嘔吐や腹痛、腹部膨満感がサイン?

腸閉塞(イレウス)の原因や症状-嘔吐や腹痛、腹部膨満感がサイン?
石部 敦士 先生

横浜わたなべ消化器内科・内視鏡クリニック 鶴見院 院長

石部 敦士 先生

この記事の最終更新は2017年06月21日です。

腸閉塞(イレウス)とは、腸管の癒着や血流障害により、腸管の内容が流れなくなる状態を指します。一般的によく知られている状態名ですが、実はその原因は多岐にわたっています。最も多い原因は、腹部手術による腸管の癒着であるといわれていますが、なぜ腹部手術を受けた患者さんは腸閉塞になりやすくなるのでしょうか。

今回は、横浜市立大学附属病院の石部 敦士先生に、腸閉塞の原因や症状についてお話しいただきました。

腸閉塞(イレウス)とは、腸管の癒着や血流障害により、腸管の内容が流れなくなる状態を指し、大きく分けて機械的イレウスと機能的イレウスに分類されます。

機械的イレウスとは、腸管が狭窄(きょうさく:狭くすぼまること)や屈曲(くっきょく:折れ曲がってしまうこと)するなど、器質的な病変によって腸管の内容が通過しない状態をいいます。

一方、機能的イレウスとは、腸管の麻痺やけいれんなど腸がスムーズに動かなくなることによって、腸管の内容が流れない状態のことを指します。その名称の通り、腸管の機能に何らかの障害が発生する点が特徴です。

これら機械的イレウスと機能的イレウスのうち、より頻度が多いものは機械的イレウスです。

腸閉塞の原因と種類は多岐にわたる点が特徴ですが、主に以下のようなものがあります。

機械的イレウスのなかで最も多いものは、主に腹部手術が原因となり生じる癒着性イレウスです。腸閉塞の患者さんのうち、約6割は、この癒着性イレウスに該当するといわれています。

また、腸管の閉塞に加え、腸管の血流障害を伴う腸閉塞を絞扼性(こうやくせい)イレウスと呼びます。絞扼性イレウスの原因には、まずヘルニアがあります。これは、腸管がヘルニア内に入り込むことで腸管を閉塞してしまうことにより生じます。また癒着により形成された索状物(バンド)によって腸管が締め付けられることもあります。ほかにも、腸管がねじれる腸捻転や、腹部に発生した腫瘍による閉塞などが挙げられます。

また、子どもであれば腸重積(腸の一部が、同じ腸のなかに入り込んでしまう疾患)や先天性の疾患なども原因になり得ることがわかっています。このように、腸閉塞の原因は多岐にわたる点が大きな特徴です。

機能的イレウスには、麻痺性イレウスやけいれん性イレウスがあります。このうち、割合としては麻痺性イレウスが多いでしょう。これは、主に腹部手術を原因としています。手術中に使用する麻酔の影響や術中に腸管を物理的に触ることで、腸管のむくみにつながったり、腸の蠕動(ぜんどう:腸が収縮・弛緩をくり返すことで内容物を運ぶ動き)が悪くなったりするケースがあるからです。そこから腸管の器質的な病変がないのに腸管の麻痺につながり発生する腸閉塞を指します。

素材提供:PIXTA

お話ししたように、腸閉塞のなかで最も多いものは、機械的イレウスのひとつである癒着性イレウスです。

癒着性イレウスとは、主に腹部手術を原因として腸管同士、腸管と隣接する臓器、または腸管と創部(手術による傷)が癒着することにより生じる腸閉塞です。

なんらかの腹部手術を受けると、50〜90%の方は腸管の癒着を起こすといわれており、この癒着により腸管が狭窄、閉塞しやすくなるため腸閉塞が生じやすくなるのです。

腸管の癒着は術後当日から始まり1〜2週間ほどで起こってしまいます。一度癒着が起こると、そこから数か月~2・3年で癒着性イレウスの状態になる方が多いでしょう。まれに10年以上たってから癒着性イレウスを発症する方もいます。

繰り返しになりますが、術後に腸閉塞になるケースが最も多いため、腸閉塞の患者さんは何らかの腹部手術歴のある患者さんが多いでしょう。

腹部手術では、大規模な手術になるほど癒着も大きくなるため、特にがんの患者さんには、癒着性イレウスになる方が多いことがわかっています。そのため、がんに罹患しやすい60〜80代の患者さんが多い点が特徴です。

また、理由は定かではありませんが、現状では男性のほうが罹患しやすいということもわかっています。

素材提供:PIXTA

腸閉塞の主な症状は、腹痛や腹部膨満感(腹満)、排便の停止、さらに嘔吐になります。腹痛や腹部膨満感、排便の停止は現れない方もいますが、嘔吐の症状が現れる方は多いでしょう。そのため、腸閉塞の典型的な症状は、嘔吐になります。

絞扼性イレウスは治療に緊急を要し、緊急手術になることが多いです。絞扼性イレウスは、突然の腹痛で発症し、前兆がほぼ現れない点が特徴です。腹痛に加え、嘔吐や発熱、腹部膨満感が現れるケースもあるでしょう。絞扼性イレウスは、腸閉塞のなかでも特に強い腹痛を伴うため、激しい痛みを訴える方も少なくありません。

腸閉塞の患者さんのなかには、腸閉塞が原因となり亡くなる方が稀にいらっしゃいます。腸閉塞全体であれば6.7%、癒着性イレウスでは1.4%、絞扼性イレウスでは7.4%ほどであるといわれています。

死亡にいたる原因は術後の合併症である縫合不全、術後肺炎敗血症(血液中に病原体が入り込み、重篤な全身症状を引き起こす症候群)などが挙げられます。

たとえば、腸閉塞の典型的な症状のひとつである嘔吐を繰り返すことで誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)に罹患し、重症化する場合があります。また、縫合不全により腹膜炎を発症し、悪化してしまうケースもあります。

近年は、術後管理も進化しており重症化する方は少ないといわれていますが、重症化しないためにも症状が現れた場合には、早めの受診が重要になります。

腸閉塞を予防するために、いくつか有効となるものがあります。たとえば、手術時の癒着防止シートなど、術後の腸管の癒着を防ぐ医薬品もでてきています。

また、術後の早期離床は腸閉塞を防ぐために有効であるといわれています。昔は術後の一週間はベッドで安静にしていることが推奨されていたのですが、近年では手術の翌日から歩行することを推奨しています。それにより腸の蠕動運動がしやすくなり、癒着防止につながることがわかっています。

素材提供:PIXTA

最も多いといわれている癒着性イレウスでは、腸管の狭窄が原因となることが多いといわれています。このため、一度に大量の食事を摂取することや繊維の多い食物を多く摂ると狭窄部で内容物がつかえてしまい、腸閉塞へと進行しやすくなってしまいます。

よく間違われるのは、便秘の治療では繊維質を多く摂取することが有効となるイメージがあるかもしれませんが、腸閉塞では逆なのです。

もともと便秘気味の方は、繊維質を控えながら緩下剤や漢方薬で腸の運動を整えることも、腸閉塞予防には効果的であるでしょう。

また、腸閉塞は繰り返し罹患する方が少なくありません。それは、腸閉塞には「腸閉塞の治療を受ける度に再発しやすくなる」という特徴があるからです。

ここでは癒着性イレウスについてお話しします。保存的治療により腸閉塞の状態が治ったとしても腸管の癒着自体は治りません。そのため、食事の摂り方などによっては再度、腸閉塞の状態になることがあります。

また、癒着性イレウスの狭窄は、繰り返すごとに炎症が強くなり、狭窄も強くなるという特徴があります。腸閉塞の回数とともに再発のリスクが上昇するという報告もあり、腸閉塞は一度その状態になったら繰り返さないことが何よりも重要になります。

記事2『腸閉塞(イレウス)の手術と保存的治療-主な治療法や診断方法とは?』では、腸閉塞の診断や主な治療についてお話しいただきます。

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