子どもの腹痛の大半は、便秘や胃腸炎など心配のないものですが、中には重大な病気が隠れていることがあります。あいち小児保健医療総合センター救急科医長の伊藤友弥先生に、自身のご経験も交えてお話しいただきました。
子どもの腹痛で重要なポイントは、「手術などの外科的処置(外科的介入)が緊急で必要なもの」をきちんとみつけることです。重症の腹痛は、外科医との連携も必要になってきます。例えば、急性虫垂炎、腸管の捻じれを伴う腸閉塞(イレウス)、腸重積、鼠径ヘルニア嵌頓、腹部外傷などといった疾患がこの部類に入ります。
では、重症の疾患には、どのようなサインがあるのでしょうか。
●腸閉塞(イレウス)のサイン
腸閉塞は、何らかの原因で腸の通り道が塞がってしまう状態です(年齢によって原因は様々)。腹痛、嘔吐、お腹が張ってパンパンになるなどの特徴的症状があります。閉塞してから時間がたつと嘔吐物にも変化がみられますが、初期ははっきりとわからないこともあるため、時間経過をみて症状が悪化しないか注意します。直ちに外科的な治療が必要です。
●腸重積のサイン
腸重積は、腸の一部が重なり合ってしまう状態で、2歳くらいまでに多く、進行すると腸組織の壊死を起こす可能性がある深刻な疾患です。10~30分間隔で非常に激しい腹痛を訴え、血便が出ることもあります。痛みを訴えられない年齢の子どもが多いため、泣き方、機嫌の悪さ、ぐったり感などに注目します。血便は腸重積の有名なサインですが、意識障害を起こしてぐったりし、お腹が張っているだけの場合もあります。
私の経験で、1日に3人の腸重積の子どもが受診されたことがありますが、3人とも異なる症状であったのは非常に印象的でした。1人は機嫌が悪く血便が出た乳幼児、1人は意識障害で運ばれてきてお腹がパンパンに張っていた乳幼児、1人は学童で、腹痛および緑色の嘔吐を訴えていたケースでした。このように、人によって様々な症状が現れるので、おかしいと感じた場合は病院を受診してください。
●そけいヘルニア嵌頓(かんとん)のサイン
そけいヘルニアは、股の付け根(そけい)あたりに腸管などの腹部内容が脱出してしまう状態です。内容物は自然に出たり元に戻ったりを繰り返すことがあり、元にもどる場合は慌てる必要はありません。嵌頓(かんとん)とは、この脱出した部分が元に戻らなくなり、締め付けられて血液の流れが行かなくなってしまう状態です。すぐに受診して処置をする必要があります。乳幼児の場合は、自分で症状が訴えられないため不機嫌なだけであるかもしれません。股のつけねが盛り上がって赤くなっていないか確認しましょう。子どもがオムツをしていれば下げて、陰嚢が腫れていないかをみることも重要です。
●精巣捻転のサイン
学童期から思春期の男児に多い、精巣を栄養する血管がねじれてしまう状態です。陰嚢の痛みを訴えればよいのですが、気持ち悪い・お腹が痛いという症状だけしか訴えないこともあります。精巣捻転では精巣にいく血液の流れが滞ってしまい、早く手術しなければ精巣が機能しなくなってしまうため、できるだけ早く(6時間以内に)みつけてねじれを解除する必要があります。
●急性虫垂炎のサイン
急性虫垂炎とは虫垂(盲腸)に起こる炎症を指します。放っておくと腹膜炎などの重症な状態になるため、外科手術などの治療が必要になります。ポイントは、「痛みがどんどん強く大きくなっていくか」「時間がたつにつれて痛みが一点(多くは右下腹部)に集中してくるか」の2点です。
他にも、嘔吐、下痢、発熱、食欲不振などの症状を伴うことはあります。しかし、典型的ではない経過をたどることもあり、慎重な対応が必要とされます。
●腹部外傷のサイン
子ども(学童期まで)の腹部外傷は、大人よりも臓器損傷になりやすく、かつ重症化しやすいことが知られています(記事1『子どもが急に腹痛を訴えたとき どのような場合が緊急なのか』を参照)。
腹部外傷の特徴的なサインを挙げるのは難しいですが、お腹をぶつけたことはないか、どこかで転んだ際にお腹を打ってないかなどのエピソードを確認しましょう。
重大な腹痛かどうかを見分けるのは、医療者でも難しいところです。先述したように、腹痛を訴えているけれども、じつは心筋炎や糖尿病性ケトアシドーシスなど他の重症疾患が隠れていることもあります。
私が印象的だったのは、腹痛・嘔吐・頻脈(脈がはやい)などの症状で心筋炎を疑われて紹介された子どもが、検査をしてみたら吐物が緑色で腸閉塞だったという場合がありました。また、非常に強い腹痛を訴えて受診した子どもで、最初は我々も原因がわからず、時間がたってから足に出血斑・紫斑がでて、アレルギー性紫斑病であったとわかることもありました。このように、腹痛の原因を見極めることは、非常に難しいといえます。私たち医療者は、腹痛で想定できる疾患についてあらかじめ鑑別を考え、問診や検査をしていきます。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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