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小児の鼠径ヘルニアの診断と治療――鼠径部切開法と腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について解説

小児の鼠径ヘルニアの診断と治療――鼠径部切開法と腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について解説
川嶋 寛 先生

埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長

川嶋 寛 先生

目次
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鼠径(そけい)ヘルニアは、小児外科疾患の中で頻度の高い病気の1つです。脱出した臓器が元に戻らない嵌頓(かんとん)の状態になると臓器が壊死(えし)する恐れがあるため、場合によってはすぐに手術を行わなければなりません。しかし、急に手術と言われると戸惑ってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。

今回は、埼玉県立小児医療センター 小児外科の科長である川嶋 寛(かわしま ひろし)先生に、小児の鼠径ヘルニアの診断と治療についてお話を伺いました。

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画像提供:PIXTA

鼠径ヘルニアは、主に鼠径部の視診と触診で診断を行います。女の子は、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)と呼ばれる腹膜の袋の中に飛び出している臓器が、卵巣なのかリンパ節なのかこれらの検査では判別することが難しいため、そういった場合には超音波検査を実施します。

基本的に鼠径ヘルニアは視診と触診で診断を行うため、臓器が脱出していないタイミングでは診断することが難しいのが現状です。しかし、臓器が飛び出ているときの写真があるとこういった場合でも診断につながることがあるので、鼠径部の腫れなどに気付いたときはスマートフォンなどで写真を撮っていただき、来院時にご持参ください。

鼠径ヘルニアの治療としては手術が第一選択ですが、お子さんの年齢によって少し選択肢が異なります。

1歳までは自然治癒することがあるため、1歳未満で鼠径ヘルニアを発症したお子さんに関しては基本的に経過観察を行います。生後2・3か月で鼠径ヘルニアが見つかったお子さんの場合、生後9か月ほど経過を見て治らなければ手術を選択することになります。

腹膜鞘状突起へ飛び出した臓器が戻らなくなる嵌頓(かんとん)の状態にならないように、経過観察中は脱出した臓器をまめに元の位置に戻していただくように親御さんにお願いをしています。

目安としてはおむつ替えのたびに必ず鼠径部を触って、臓器が腹膜鞘状突起に入っていたら袋の中から出すようにしてください。

1歳以上のお子さんは手術が治療の第一選択肢となり、その手術方法は鼠径部切開法と腹腔鏡下鼠径(ふくくうきょうかそけい)ヘルニア修復術の2つに大きく分けられます。

鼠径部切開法

MN作成

鼠径部切開法は、鼠径部を2~3cmほど切開し、腹膜鞘状突起を直接縛っていく方法です。傷は1か所ですが、その傷が腹腔鏡下手術に比べるとやや大きいために術後に傷あとが残ってしまう手術方法といえます。また、切開部が大きいことで痛みを伴うだけでなく、鼠径管の周りの操作が多いため周囲の臓器を傷つけてしまう恐れがあります。特に男の子の場合には、腹膜鞘状突起に精巣血管や精管が付いているため、それらを剥がす際に損傷しないように注意を払いながら手術をしなければなりません。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術

MN作成

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(LPEC(エルペック))は腹腔鏡というカメラを用いてお腹の中を観察ながら行う手術です。カメラを入れるためにおへそを4~5mmほど、鉗子(かんし)と呼ばれる手術器具を挿入するためにおへその横を1か所2~3mmほど切開します。そして、鼠径部に医療用の針を刺し、特殊な糸を用いて袋状になっている腹膜鞘状突起の入口を縛ります。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は切開部が小さいため、術後に傷あとがほとんど目立たないことに加え、精巣血管や精管、卵管などの周囲の臓器を損傷するリスクを抑えられる点はメリットといえるでしょう。また手術の特性上、手術する側の逆側にも腹膜鞘状突起がないかを腹腔鏡で確認することができるため、症状が出ていなかった方でも袋が見つかった場合は両方併せて手術をすることが可能です。

なお、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は技術を要するため、どの病院でも必ずしも実施している手術ではないということはご理解いただきたいと思います。

1歳前後までは経過観察をするのが一般的ですが、例外もあります。それは、嵌頓を繰り返している症例や、飛び出している臓器が卵巣である症例です。特に、卵巣が脱出している場合には嵌頓を起こすと卵巣が壊死してしまい、妊孕性(妊娠するための力)が損なわれるためすぐに手術を行います。対して、精巣は嵌頓していても構造上、妊孕性に影響が及ぶ可能性が低いため、急いで手術をしなくても問題ないとされています。

基本的には鼠径部切開法と腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のどちらの方法でも手術することができるので、親御さんと相談しながらどちらの方法で実施するかを決めていきます。ただし、未熟児で腹膜鞘状突起が大きい場合には、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術では手術が難しいため、鼠径部切開法を選択する場合があります。

なお、手術を日帰りで行っている施設もあれば、入院で実施している施設もありますので、詳しくは診察時にご確認ください。

手術前には症状がなかった左右逆側の足の付け根に、手術後鼠径ヘルニアが出てしまうこともあります。手術直後のこともあれば、数年経ってから起こる場合もあり、患者さんによってまちまちです。

当院では、手術した側と左右逆側に術後症状が出る可能性を説明し、反対側の腹膜鞘状突起を見つけたらそちらも併せて手術するかどうかを親御さんに手術前に選択していただくようにしています。その際に、女の子の場合、腹膜鞘状突起をそのままにしておくと卵巣が飛び出て、妊孕性に影響を及ぼす可能性があることを十分に説明するようにしています。一方、男の子の場合は腹膜鞘状突起から精巣血管や精管の剥離(はくり)をするのに伴い、何らかのトラブルが発生する可能性があるので、その点も考慮して反対側も手術するかを検討する必要があることをお伝えしています。

お子さんの手術となると、不安に思う親御さんも多いでしょう。特に1歳未満の乳幼児では手術も麻酔も難しく、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。そのため、小児外科学会認定の小児外科専門医がいる病院で手術を受けることをおすすめします。

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  • 埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長

    川嶋 寛 先生

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