先天性胆道拡張症に対する治療の基本は外科手術です。診断後はできる限り早く手術を受けることが望ましいとされますが、実際には患者さんの容体に応じて手術時期を検討していく必要があります。術式は拡張した胆管を切除し、新しく胆汁の通り道を作る“分流手術”が適応となり、近年では、傷あとが目立ちにくい腹腔鏡下で手術が行われるケースも増えてきています。本疾患に対して腹腔鏡下手術を積極的に導入している埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長の川嶋 寛先生に、腹腔鏡下手術の特徴や術後の注意点についてお話しいただきました。
基本的には先天性胆道拡張症と診断がついた時点で、可能な限り速やかに手術を行うことが望ましいといわれています。ただし、まったく無症状の状態でたまたま先天性胆道拡張症が見つかった患者さんの場合は、学校の夏休みなどの長期休暇期間まで経過観察とし、予定入院のうえで手術を実施する場合もあります。
診断時にタンパク栓*が詰まって膵炎や胆管炎を起こしている患者さんは、そのままの状態で手術を行うと、手術中に膵臓付近を触ることで膵炎が悪化してしまう恐れがあるため、炎症が治まってから手術を行います。ですので、たとえばタンパク栓が原因で膵炎をきたしているような患者さんには、絶食期間を設けて膵炎の症状が落ち着くまで待ってから手術を行うようにしています。あるいは、年齢が高くて体がある程度大きい患者さんであれば、こちらのページでお話ししたERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)でタンパク栓を取り除いて症状を治めてから手術をするケースもあります。
*タンパク栓:膵液中のタンパク質が胆汁と混じることによってできた固い塊で、やがて膵石となる。
上述したように、患者さんの状態によっては手術時期を延期する可能性はありますが、最終的にはほとんど全ての患者さんが手術の適応となります。
ただし例外的に、膵胆管高位合流*のように膵・胆管合流異常症はあるが胆道の拡張がみられないというタイプ場合は先天性胆道拡張症に対する術式を適応せず、胆嚢摘出術のみが適応されます。
*膵胆管高位合流:胆管と膵管の合流部がわずかにずれているタイプの膵・胆管合流異常症で、胆道拡張を伴わない。
先天性胆道拡張症に対する標準的な術式は肝外胆管切除術および肝管空腸吻合術という方法です。これは、胆管と膵管が十二指腸の手前でくっついているために胆汁と膵液が混ざってしまうので、胆管側の出口を別の位置に新しく作成して、胆汁と膵液が流れる通り道を分けるというものです。肝臓と膵臓の出口を分けるという意味から、“分流手術”とも呼ばれます。
胆道拡張症手術では、まず、拡張した胆管と胆嚢を切除します(肝外胆管切除術)。その後、膵管の出口はそのまま十二指腸につながるようにして、膵液だけがそこに流れるようにします。一方、残った胆管は空腸(小腸の一部)とつなぎ、そこから直接空腸に胆汁が流れるように胆汁の通り道を新しく作ります(肝管空腸吻合術)。
当院では胆道拡張症手術に関して、腹腔鏡下手術を積極的に導入しています。以下に、腹腔鏡下手術のメリットとデメリットについてご説明します。
第一に、創が小さくて目立たない点です。
当院での分流手術は、おへそ・おへその脇・みぞおちの3か所に小さな穴を開けるのみで施行しますから、術創(傷あと)もほとんど残らずに手術をすることが可能です。
第二に、患者さんの負担が少ない点です。
腹腔鏡下手術は一般的に小さな傷に、細い器械を挿入して行います。
開腹手術に比べ、腹壁の筋肉を切ることがほとんどないので、患者さんの負担が大きく軽減され、術後の経過も早くなります。また大きな開腹を行わないことで、術後の癒着を最小限にすることができますので、術後合併症の予防にもつながります。
第三に、術後の回復が開腹手術に比べて早い点です。
これは小児外科医である私の経験上の感覚ですが、開腹手術の場合、手術を終えて食事がきちんと取れるようになるまでには、おおよそ1週間から10日程度はかかることが多いように感じます。これに対して腹腔鏡下手術の場合は、おおよそ術後2日目頃に歩行できるようになる患者さんもいらっしゃいますし、術後4~5日には固形の食事が取れるようになります。
このように、手術からの身体的回復が早い点は腹腔鏡下手術の大きな特徴であり、身体的な負担が少ないという面で患者さんにとってのメリットになると考えます。
腹腔鏡下手術全般に該当することですが、開腹手術に比べて手術時間が長くかかります。
ただ、それでも傷あとの大きさや回復の早さを考慮すると、患者さんの負担は腹腔鏡下手術のほうが少ないと考えます。
胆道拡張症手術は基本的に合併症が少ない手術ではありますが、長期的には胆管炎、肝内結石、胆管がんなどが発生する可能性があります。
術後に癒着性腸閉塞を発症した場合、腸内の雑菌が胆管側に逆流して胆管炎が起こることがあります。また、胆管空腸吻合で胆管と腸管をつないだ吻合部が狭窄したときにも同様に、胆管炎を起こしやすくなります。
肝内結石は、こちらのページでご説明したIV-Aタイプの先天性胆道拡張症に多くみられる合併症です。特に、肝臓の末梢部分まで肝内胆管が拡張しているようなIV-Aタイプの患者さんは肝内結石の合併が多いといわれています。肝内結石の発生を防ぐためには、定期的に検査を行い胆道の状態を確認することが大切です。
長期的に注意が必要な合併症です。手術を行うまでに胆管障害がどれだけ強くなっているか、つまり、どのくらい長い期間胆管が膵液にさらされていたかによって胆管がんの発生率は変わり、期間が長ければ長いほど、胆管がんの発生率は高くなると考えられています。たとえば、同じ手術を受けたとしても、小児期に手術を受けた方と成人になってから手術を受けた方では、後者のほうが胆管がんの発生率が高くなるといえるのです。このため、診断後はできる限り早いタイミングで手術を行うことが胆管がんの予防につながります。
患者さんには、手術後も生涯にわたって定期受診し、血液検査と超音波検査を受けていただくようにお願いしています。この理由は、術後の経過が長ければ長いほど胆管がんの発生率が上がるためです。
当院の場合、術後の受診のペースは術後1年間が3か月~半年、術後1年~2年間は半年ごと、術後2年以上経過して異常がみられなければ1年ごとを目安にして、徐々に間隔を延ばしていきます。
当院は小児病院であるため、成人後は原則的に患者さんの住む地域の医療機関を紹介してそちらに通院していただきますが、大きな合併症もなく1年に1回の定期検査だけが必要だという方の中には、成人後も引き続き当院で診療を続けることがあります。
小児科から成人科への移行をスムーズに行うことは、患者さんが継続的に受診をするうえでも大切です。当院には移行期医療をサポートする“埼玉県移行期医療支援センター”という部門を設けており、患者さんに適切な成人病院を探索・提案しています。こうした取り組みにより、「どの病院に行けばよいのか分からない」「どこに相談すればよいのか分からない」という患者さんと相談をしながら、スムーズな移行ができるように努めています。
退院後、日常生活上での制限は基本的にありません。ただし、食事のスピードには注意が必要です。
術後の先天性胆道拡張症の患者さんは胆汁の流れ道が通常とは異なっているので、胆汁が消化管内の食べ物に届くまでに通常よりも時間がかかります。このため、油っこいものを一気に食べると消化不良や下痢を起こす場合があります。
また、胆道拡張症手術は腸に触れる手術であるため、術後は癒着により腸の動きが制限される場合もあり、焦って食べると食物をうまく処理しきれずに癒着性腸閉塞が起こる可能性があります。
これらを防ぐために、急がずゆっくりと、よく噛んで食べるようにしていただくとよいでしょう。
近年では先天性胆道拡張症に対する腹腔鏡下手術が広く普及し、傷あともほとんど目立たないように治療することが可能となりました。地域の医療機関で先天性胆道拡張症の可能性があると診断された方や、腹腔鏡下手術を希望する方は遠慮なくご相談ください。どのように治療を進めていくか、私たちと一緒に考えていきましょう。
埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長
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