概要
先天性胆道拡張症とは、胆汁の通り道である胆管が先天的に正常よりも拡張している病気です。胆のうには肝臓で産生された胆汁が蓄えられており、胆のうが収縮することで胆汁は胆管を通って十二指腸に流れ込みます。この胆のうと胆管を合わせて胆道と呼ばれています。
小児期における繰り返す腹痛の原因となる病気の1つですが、成人になってから初めて指摘されることもあります。また長期的な視点でみたとき、先天性胆道拡張症により胆道がんの発生リスクが上昇することが知られています。患者数を見ると、1:3の割合で女児に多いことがわかっています。また東洋人に多くみられることも、この病気の特徴の1つです。
小児の腹痛はまれなことではありません。しかし腹痛を何回も繰り返すときには先天性胆道拡張症も疑い、医療機関を受診することが重要であるといえます。
原因
食べ物の消化に重要な役割を果たす胆汁は、肝臓で産生され胆管を通って十二指腸へと分泌されています。同じく消化に重要な消化酵素は膵臓で産生され、こちらは膵管を経由して十二指腸へ分泌されます。
この胆管と膵管の合流の仕方に異常があると、消化酵素の流れが合流異常部位から上流にかけて滞ってしまいます。その結果として、胆道が拡張してしまうと先天性胆道拡張症を発症することとなります。膵管と胆管の合流異常は膵胆管合流異常と呼ばれ、赤ちゃんがお母さんのお腹にいるときに生じる異常であると考えられています。
症状
先天性胆道拡張症では腹痛、黄疸、腹部腫瘤(拡張した胆管が腫れあがり、外側から固い腫瘤が触れる状態)が自覚症状としてみられます。実際に病気を発見されるきっかけとしては、腹痛など自覚症状と血液検査にて判明する肝機能異常および高アミラーゼ血症になります。
腹痛の出現には、膵管中に形成される蛋白栓と呼ばれる物質が深く関係しています。膵液が逆流しうっ滞すると、膵液中のたんぱく質が結晶として出現します。膵管内のたんぱく成分が濃くなると、ここに塊ができます。これが蛋白栓です。蛋白栓はやがてカルシウムを取り込み、濃い膵石(膵管内にできた石)となります。
先天性胆道拡張症の症状である腹部激痛や肝機能異常は、蛋白栓が胆管や膵管に詰まり、胆汁や膵液がたまって胆管・膵管の内圧が一過性に上昇することで起こります。大半の蛋白栓は脆く、自然排出されるため腹痛などの症状はすぐに消失します。
しかし、まれに堅い蛋白栓ができることがあり、この場合は腹痛が現れます。堅い蛋白栓によって膵管・胆管の閉塞が持続すると膵液や胆汁の流れがせき止められ、膵炎や黄疸、胆管炎を生じ、さらに蛋白栓による閉塞が長時間に及ぶと胆管内の圧が上昇し、胆管に穴があく(穿孔)こともあります。
逆の見方をすると、先天性胆道拡張症では蛋白栓が悪さをしない場合には腹痛が見られないため、先天的に解剖学的な異常があっても診断には至りにくいです。そのため、病気の存在に長年気づかず、成人になってから発見されることもあります。
検査・診断
先天性胆道拡張症の検査は、腹痛や腹部腫瘤などの身体症状がみられる方で、さらに、血液検査上の肝機能障害や高アミラーゼ血症などが認められる方に対して実施します。
胆道拡張及び膵胆管合流異常の評価を行うためには、超音波検査、MRCP(MR胆管膵管造影)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)といった画像検査を実施します。
治療
先天性胆道拡張症は、手術で治療ができます。具体的には、膵液と胆汁が混ざらないように、新しい胆汁の通り道を形成するための手術を行います。このとき、身体への負担を減らすため腹腔鏡を用いることもあります。なお先天性胆道拡張症では経過観察中に黄疸や高アミラーゼ血症を伴うこともありますが、この場合は内視鏡による治療(ERCPによるドレナージ)を行うことも可能です。
先天性胆道拡張症の術後経過は、良好なことが多いです。しかし長期的にみると、膵石や吻合部の狭窄などが生じることがあります。また先天性胆道拡張症そのものが胆道がんの発症リスクとなることも知られており、適切な手術を行うことで発症する可能性はかなり低くはなりますが、ゼロではありません。したがって、こうした合併症や続発症のリスクを考慮し、長期的な定期検査を行う必要があります。
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