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先天性胆道拡張症のロボット支援腹腔鏡手術――より繊細な手技で合併症なき治療を目指す

先天性胆道拡張症のロボット支援腹腔鏡手術――より繊細な手技で合併症なき治療を目指す
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

目次
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アジア人の若年女性に多いといわれている先天性胆道拡張症に対し、ロボットを用いた腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)(以下、ロボット支援腹腔鏡手術)が保険適用となりました。従来の腹腔鏡手術では難しい一部の手技をより微細に行えるため、手術による合併症を防ぐことが期待でき、長期予後が改善される可能性もあるとされています。今回は先天性胆道拡張症におけるロボット支援腹腔鏡手術について、名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学 教授の内田 広夫(うちだ ひろお)先生にお話しいただきました。

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こちらのページでもお伝えしたとおり、先天性胆道拡張症は、肝臓の中にある胆管や肝臓の外へ出ている胆管のどちらか、もしくは両方が生まれつき拡張している病気です。高頻度で(すい)胆管合流異常(たんかんごうりゅういじょう)を合併しています。膵・胆管合流異常では、胆汁を十二指腸へ流すための通り道である胆管(たんかん)膵管(すいかん)の合流がうまくいっていません。この状態を放置すると、膵液と胆汁が混じり合って胆道や膵臓にさまざまな病気を引き起こす可能性があるため、胆管切除、肝管空腸吻合(かんかんくうちょうふんごう)といった手術を行う必要があるのです。手術による合併症としては術後の膵炎膵腫瘍(すいしゅよう)胆管炎肝内結石などが挙げられ、これらの防止が手術の課題となります。

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先天性胆道拡張症の手術後にはさまざまな合併症が起こる可能性があります。術後早期に起こるものとしては縫合不全や膵炎(すいえん)が挙げられ、これらは手術後の入院中に起こることです。また、術後しばらくたってから起こる晩期合併症には、胆管炎、肝内結石、胆管がん、膵内結石、膵炎、膵内遺残胆管がんなどが挙げられます。これらは、術後十数年以上経過してから起こることもあります。

膵臓内に胆管が残ってしまうと、膵石ができて膵炎を繰り返したり、がんが発生したりする可能性があるため、可能な限り膵内遺残胆管(すいないいざんたんかん)(手術時に切除されずに膵臓の中に残ってしまった胆管の一部)を残さないことが重要です。ロボット手術では手術部位を3Dで見ることができ、膵組織と胆管の境が鮮明になり手ブレもなく操作できるので、膵臓の損傷も減らしながら、膵内遺残胆管を切除することが期待できます。そのため、術後早期の合併症である膵炎を減少させるだけではなく、晩期合併症である、膵内結石、膵炎、膵内遺残胆管がんなどの発生を減少させる可能性があると考えています。肝管空腸吻合の縫合不全に関してですが、ロボット手術で減ると考えています。2012年にロボット支援腹腔鏡前立腺全摘術が保険収載された後に急速に広がった理由の1つとして、尿道と膀胱の縫合が腹腔鏡などと比較して非常にスムーズにできることが挙げられています。このことからも、ロボットは縫合が非常に上手くできることが分かっています。

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肝外胆道切除
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肝管空腸吻合

肝管空腸吻合術(根治術)を行うと肝臓内の胆管に、腸内細菌が直接混入し、胆汁と混ざって結石ができやすくなります(術前は腸内細菌が肝内へ侵入するのを防ぐ“ファーター乳頭”という組織があるため、胆管内に腸内細菌が混じることはほとんどありません)。結石ができるのを避けるためには、肝門部にある胆管の狭窄を解除してできる限り胆汁がスムーズに流れる環境を作る必要があります。そのために肝門部胆管の狭窄(きょうさく)している部分を広げることが重要になります。

これらの先天性胆道拡張症に対する手術の一部の手技は、従来の腹腔鏡手術では難しいことがありました。一方でロボットは肝門部胆管狭窄の解除や胆管形成、吻合のような微細な動きが非常に得意です。また手術を行っている部位を3Dで見ることができるため、膵組織と胆管の境が鮮明になり手ブレもなく切離操作ができるので、膵臓の損傷も減らすことが期待できます。このように先天性胆道拡張症の手術において、ロボットにより得られるメリットは大きいため、当院では先天性胆道拡張症に対するロボット支援腹腔鏡手術を採用しています。

名古屋大学小児外科では、子どもから成人まで幅広くロボット支援腹腔鏡手術を実施しています。

小児の場合は膵・胆管合流異常がある全ての患者さんに適応があり、当院の場合、今までもっとも小さい方では体重3.6kgの子どもに対して実施しています(2023年10月時点)。一方、成人の非拡張型の患者さんには胆嚢摘出だけをすすめる場合もあり、病態に応じて患者さん本人とよく相談して決めるようにしています。

ロボット支援腹腔鏡手術のメリットは、従来の腹腔鏡手術と同様に低侵襲(ていしんしゅう)であることや術創が小さいことに加えて、入院期間が短いため通常の生活にも戻りやすいことなどが挙げられます。当院の場合、手術時間自体は5~8時間程度かかるのですが、術後は1週間程度で退院できます。そして、従来の腹腔鏡に比べてより正確に切離や縫合を行えるので、合併症が起こるリスクを減らし、長期予後の改善も期待できるのです。

ロボット手術は導入されてからまだ日が浅いため、長期的な成績や結果が未知数です。また現状では、体が非常に小さな患者さんにはロボット手術は難しく、なんらかの工夫が必要と考えています。

先天性胆道拡張症におけるロボット支援腹腔鏡手術は日進月歩で、この治療に対応した新機種のロボットも開発が進んでいます。今後の長期成績について注目していく必要があるでしょう。

先方提供

当院では胆道系専門外来を設置して子どもから成人までの患者さんを受け入れており、2022年は230人以上が通院しています。外来には遠方からいらっしゃる患者さんも少なくありません。毎週カンファレンスで翌週に来られる外来患者さんの検討を行っており、当科の医師全員が先天性胆道拡張症の患者さんに対応できる体制を構築しています。

また手術においては、ここまで述べてきたロボット支援腹腔鏡手術のみならず、開腹や従来の腹腔鏡による手術も行うことが可能です。どの方法で手術を行うかは、一人ひとりの病状に応じて決定します。いずれの術式においても可能な限り(1)膵内遺残胆管を残さない(2)肝門部胆管の狭窄を解除して肝管空腸吻合を実施する、という2点を重視し、合併症を防ぐことを目標に手術を行っています。

当科では成人の消化器内科の先生方と積極的に連携しており、小児外科の患者さんに対しても消化器内科の先生がERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)やEUS(超音波内視鏡検査)の術前診断を実施しています。成人の患者さんでは胆道がんがみられることがあり、腫瘍の有無で手術内容が大きく異なるため、内視鏡を専門とする消化器内科の先生に検査・診断してもらってから治療の指針を立てるようにしています。それだけでなく、肝内結石などの術後合併症が発生した場合の治療なども連携して行っており、とても有意義な取り組みができていると思います。

術後の外来通院の間隔や検査項目などもプロトコールを決めています。たとえば、腹部の診察に加えて、肝機能、膵機能、腫瘍マーカー、腹部エコー、定期的なMRI検査などを行っています。診察や検査の結果は医局員全員で確認し、今後の注意点などをカルテに記載して、情報の共有や意思統一を図っています。

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写真:PIXTA

術直後は膵炎などを起こしやすいので、鶏肉などの脂質を控えた脂肪制限食を取ってもらうようにします。当院の場合、小児の制限は術後1か月未満のことが多いですが、成人の場合は1~2か月続けることもあります。

また、頻度は少ないものの術後は腸閉塞(ちょうへいそく)が起こることがあるので、突然の腹痛には注意が必要です。特にかぜなどと関係なく、突然嘔吐を繰り返すなどの症状がある場合は腸閉塞の可能性があります。手術が必要になるので、こうした症状がみられる場合はすぐに受診することが重要です。

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    内田 広夫 先生

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