概要
腸重積症とは、腸の一部が隣接する腸管に入りこんで腸が塞がってしまう病気のことです。幅広い年代でみられますが、特に生後3か月から2歳未満までの乳幼児に多く、典型的には回腸が大腸に入りこむことで起こります。
腸が塞がることを腸閉塞(イレウス)といい、これによって赤ちゃんの場合には腹痛で激しく泣く、不機嫌で元気がない、嘔吐、血便などの症状がみられるようになります。
治療が遅れると腸の血液の巡りが悪くなって腸管が腐ったりするため、いつもと様子が違う場合には早めに病院を受診して検査を受け、早期に治療を開始することが重要です。
腸重積症の治療は、まず肛門から空気や造影剤を注入して圧力をかけることで、腸重積症を元の状態に戻します(整復)。この治療でほとんどは治りますが、圧をかけて戻らない場合には手術によって整復することになります。
なお、日本における腸重積症の患者数の全国統計は存在しませんが、欧米では1歳未満においては10万人あたり50人前後に発生しているとされています。特に男児に多く、男女比は約2対1となっています1。
原因
腸重積症は、主に腸の壁のリンパ組織(腸管膜リンパ節)が腫れて大きくなり、これが腸の蠕動運動によって腸管内に引き込まれて入っていく(先進部になる)と考えられています。リンパ組織が腫れる原因の1つにかぜなどのウイルス感染が指摘され、腸重積症の患者の約1/4にかぜの症状を認めます。
また、腸のポリープやメッケル憩室(小腸の中間あたりに生じる袋状の突起物)、腸管重複症(本来の腸以外に異常な腸が余分に存在する)、悪性リンパ腫(白血球中のリンパ球ががん化したもの)などの病気が先進部の原因となって腸重積症を起こすこともあります。これらは特に再発例や2歳以降の発症例で多いといわれています。
そのほか、ロタウイルスワクチン接種の副反応として腸重積症の発症リスクがわずかに上がることも報告され、特に初回接種の約1~2週間後に発症する可能性が高まるといわれています。しかし、現状では腸重積症のリスクを踏まえてもワクチン接種は有用と考えられています。
症状
突然の腹痛で発症し、腹痛が起こったり治まったりを繰り返すのが特徴です。腹痛を訴えることができない小さな子どもの場合には、痛みによって激しく泣いたり不機嫌になったりします。
嘔吐もよくみられ、進行すると顔色が悪くなるほか、イチゴゼリー状の血便を認めます。また、意識障害(ぼーっとする)も腸重積症の症状の1つとして現れることがあります。
検査・診断
腸重積症ではほとんどの場合、腸重積症を疑う病歴、お腹の診察や腹部X線検査、腹部超音波検査で診断がつきます。
しかし、このような検査でも診断が不確実な場合では、診断を行うために注腸造影検査を行うこともあります。この検査では肛門から細いチューブを挿入し、造影剤や空気を注入してX線画像を撮影します。注腸造影検査を行うと腸管が重なり合っている場所を見つけることができます。
そのほか、全身状態を調べるために血液検査が行われることもあります。
治療
腸重積症では発病から24時間以内であれば、ほとんどの場合、肛門から造影剤または空気を注入して圧をかけることで腸重積症を元の状態に戻すことが可能です(非観血的整復術)。
この治療で整復できない場合や、発病から24時間以上経過している場合、腹部超音波検査で重積している部分の血流が少ない場合、患者さんの全身状態が悪い場合などでは、手術によって外科的に整復することになります(観血的整復術)。
手術では重積した腸を手で直接戻します。しかし、重積の解除ができない場合や、解除後に血行障害が強い場合には腸の切除が必要になります。
このような治療によって腸重積症が解除されますが、治療後に再発してしまうこともあります。再発率は非観血的整復術で約11%、観血的整復後で約4%、腸重積整復後全体では約10%とされ、多くは整復後すぐに再発します。そのため、整復後は最低でも24時間の入院が必要です1。
また、よくなった後しばらくしてから再発を起こすこともあるため、しばらくは様子を見ておき、発症当時の症状がみられたら早めに病院を受診することが大切です。
参考文献
- 日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会(編).一般社団法人 日本小児救急医学会(監).エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン.へるす出版,2012,p74
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