いわゆる「盲腸」と呼ばれているのが虫垂炎です。小・中学生に多い病気ですが、幼稚園児にもみられることがあり、最近は発症年齢が低年齢化しているといいます。症状を訴えられない小児の場合は特に病態を正しく判断することが何よりも重要です。筑豊地区唯一の小児外科専門施設として、小児の外科治療にあたっている飯塚病院小児外科部長の中村晶俊先生に、小児の虫垂炎についてお話を伺いました。
腸の一部で小指ほどの長さの虫垂に糞石という堅い便が詰まったり、虫垂壁が腫れて内腔を閉塞してしまったりすることで虫垂突起が化膿する病気を虫垂炎(ちゅうすいえん)といいます。一般的には盲腸(もうちょう)と呼ばれているもので、かつては小学校高学年以降から中学生に多くみられていましたが、最近は虫垂炎の発症年齢が低年齢化し、今では低学年での発症が増え、ときには幼稚園児でも起こるようになりました。
このように発症年齢が低年齢化しているため、虫垂炎になっても自分で症状を訴えることができないお子さんの場合は、診断が難しくなることがあります。小学校高学年や中学生であれば、ある程度症状を訴えることができるのですが、高学年であったとしても、場合によってはうまく伝えられないお子さんもいらっしゃいます。子どもの場合は特に、正確に症状を訴えることがどうしても難しくなるので、他の病気との鑑別がとても重要となるのです。
虫垂炎の一般的な症状としては、右の下腹部痛や嘔気・嘔吐、食欲不振や発熱、下痢などがあります。しかし、典型的な右の下腹部痛に関しては、はっきりしない場合も少なくありません。病院を受診して、ただの腹痛ということで腸炎などとして見逃されることも少なくないのです。子どもの虫垂の壁は大人と比べて薄いので、炎症が進行すると虫垂壁が破れ(穿孔)腹膜炎になることがあります。子どもは特に病気の進行が早いため、早い段階で診断を確定することが必要です。
診断は、本人の訴えや診察所見(医学的な知見に基づいた判断)をはじめ、血液検査や腹部エコー検査、CT検査などを行って確定します。ただし、繰り返しますがどうしても子どもの場合には症状を正確に訴えることができないので、子どもが腹痛を訴える場合には第一に虫垂炎を疑う必要があります。
虫垂炎の治療には外科的治療と保存的治療があります。治療法は、虫垂炎の進行の程度に応じて選択します。
虫垂炎は「カタル性」「蜂窠織炎性(ほうかしきえんせい)」「壊疽性(えそせい)」と炎症が進行していき、軽い症例には保存的治療、中程度の場合は手術を行います。炎症が進行して虫垂壁が破れる「穿孔(せんこう)性虫垂炎」は腹膜炎症状があらわれる重症例といえます。時間が経過していない場合は手術が有効ですが、時間が経過して膿瘍(のうよう)を形成するような場合は、抗菌薬による保存的治療を長期間行って一旦手術を回避したあとに、再発予防のために待機手術(治療に適したタイミングを待ってから手術を行うこと)という治療方針がとられることもあります。
従来は右下腹部あたりを3センチほど切開して手術を行い、重症例では5センチほどの切開が必要な場合もありました。しかし、現在は腹腔鏡を使った手術が普及しており、傷跡も小さくなりました。
腹腔鏡手術では、通常、おへそから内視鏡カメラを入れ、その他に2カ所・1センチ程度の傷を開け、下腹部にて操作鉗子を使用して手術を行います。最近では、おへその傷から内視鏡カメラと操作鉗子を挿入して行う単孔式腹腔鏡下手術により、傷がつくのはおへその中だけになりました。先の人生が長い子どもの場合ですから、ご家族からの評判は良好です。
腹腔鏡を使った手術の場合、手術後の入院期間は平均4日程度で、これが一般的な入院の目安です。一方、飯塚病院では早期退院を目指した取り組みにより在院期間が短縮され、2日程度の入院期間で治療・退院が可能となっています。
ただし、場合によっては手術の受け入れをなかなかできないお子さんもいるため、そういった場合は追加で1日ほど入院を延ばして経過をみることもあります。術後の回復にもひとりひとり個人差があって、経過も異なりますので、お子さんの様子をみながら、その子に最適な対応を行っています。
手術を受けるお子さんは、自分の周囲を取り巻く環境の変化がかなりのストレスになります。このストレスを軽減するためにも前述の早期退院を目指しています。飯塚病院では、腹腔鏡手術と同時に積極的に局所麻酔を行い、手術直後も坐薬などの鎮痛薬を使用することで疼痛(とうつう)を軽減し、早期離床(早く起き上がれるようになること)に努めています。手術後、痛みが強いとからだを動かすことへの不安が強くなり、なかなか離床できないことがあるからです。術後の痛みを軽減させてあげることで、からだを動かすことへの自信がつくため、早期離床がスムーズに進みます。
虫垂炎が穿孔して膿汁が腹腔内に漏出し、膿瘍を形成しているような重症の場合は、手術を行うと合併症のリスクが増え、手術を行っても長期の入院を必要とすることのほうが多いといえます。そのため、重症例には保存的治療を行って手術を回避します。
保存的治療では、点滴を用いた数種類の抗菌薬投与による治療が必要となりますので、入院をしなければなりません。早いお子さんでは1週間くらいで効果が出る場合もありますし、なかなか効かずに1か月ほど入院を余儀なくされるお子さんもいます。効果には個人差があることも知っておく必要があるでしょう。
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