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緊急手術が必要な場合もある急性虫垂炎の治療法とは? ――お腹の傷が目立たない腹腔鏡下手術について解説

緊急手術が必要な場合もある急性虫垂炎の治療法とは? ――お腹の傷が目立たない腹腔鏡下手術について解説
川嶋 寛 先生

埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長

川嶋 寛 先生

目次
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急性虫垂炎は、炎症の進行度によってカタル性、蜂窩織炎性(ほうかしきえんせい)壊疽性(えそせい)穿孔性(せんこうせい)の4つに分類されます。穿孔性がもっとも炎症が進行した状態で、腹膜炎を起こしている場合には緊急手術が必要となります。しかし、受診した当日に手術しなければならないと言われたら戸惑ってしまう方もいらっしゃるでしょう。また、手術をするとなると、お腹に傷が残ることを心配される親御さんも多いのではないでしょうか。

そこで今回は、埼玉県立小児医療センターの小児外科において科長を務める川嶋 寛(かわしま ひろし)先生に急性虫垂炎の治療法や術後の経過などについて詳しくお話を伺いました。

急性虫垂炎の治療法は、保存的治療、手術(虫垂切除術)の2つに大きく分けられますが、保存的治療を選択できるかは炎症の進行度によって決まります。以下では、それぞれの治療法について解説します。

保存的治療では、抗生剤による治療と絶食を同時に行い、症状の改善を図ります。炎症の状態がよくなれば食事を再開することが可能です。

ただし、保存的治療を行っても症状が進行する場合には、手術を行う必要があるということはご理解いただきたいと思います。

保存的治療の適応

カタル性あるいは蜂窩織炎性の急性虫垂炎であれば、基本的には保存的治療を選択できると考えられます。

保存的治療のメリットとデメリット――将来的な手術の可能性がゼロになるわけではない

保存的治療のメリットは、お腹に傷をつけない治療であることです。しかし、先ほどお話ししたように、保存的治療を行ったとしても炎症が進行する患者さんもいます。また、保存的治療でいったん症状が改善したとしても、再発してしまう場合もあります。ですから、保存的治療をしたからといって完治したわけではありませんので、炎症が進行したり、再発したりするリスクがあるという点はご理解ください。

急性虫垂炎の手術である虫垂切除術は、その名のとおり炎症を引き起こしている虫垂を切除する根治的治療です。虫垂切除術には、開腹術と腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)の2つの手術方法があります。入院期間は炎症の進行度によって異なるため、担当の医師にご確認ください。

虫垂切除術の適応――炎症の進行度によって手術の緊急性が異なる

蜂窩織炎性、壊疽性、穿孔性の急性虫垂炎については手術の適応となり、手術ができる虫垂炎は手術で治療するのが基本です。もちろん、蜂窩織炎性の場合には保存的治療も可能ですが、将来的に手術が必要になることを考慮して当院では手術を受けることをおすすめしています。

蜂窩織炎性、壊疽性の急性虫垂炎は準緊急手術となるため、受診した当日、あるいは翌日の日中には手術をする必要があります。一方、穿孔性の中でも腹膜炎を起こしている症例については緊急手術を行わなければなりません。ただし、穿孔性の中でも膿瘍形成(のうようけいせい)をしている症例に関しては保存的治療で膿を治した後に手術(待機手術)を行う場合もあります。

開腹術

MN作成

開腹術では、症状が軽い症例では右下腹部を斜めに切開する方法で、腹膜炎が起こっている症例では、おへその右側を縦に大きく切開する方法で虫垂を取り除くのが一般的です。

開腹術は虫垂を目視しながら手術できる方法ですから確実性の面では優れているといえるかもしれません。一方で、右下腹部に5cmほどの切開をするので、たとえば海パンを履いたときなどに傷あとが見えてしまうということがあります。

腹腔鏡下手術

MN作成

腹腔鏡下手術には複数の手術方法がありますが、おへそと腹部2か所の計3か所をそれぞれ1cmほど切開して行う方法が多く実施されていると思います。腹腔鏡下手術では傷あとを小さくできることに加え、腹腔鏡と呼ばれるカメラを用いてお腹の中を広く見渡すことができますので、膿がたまっていれば虫垂の切除と併せて膿も処置することが可能です。しかし、周辺の臓器を傷つけてしまうと合併症につながる恐れがあるので、技術が必要な手術ともいえます。

最近では、おへその切開1か所のみで急性虫垂炎を治療する単孔式腹腔鏡下手術を行う施設もあります。

MN作成

単孔式腹腔鏡下手術とは、通常の腹腔鏡下手術よりも大きめに切開したおへそから腹腔鏡や器具を挿入し、虫垂を体外に引き出して切除する手術です。なお、切開部はおへその輪郭の中にほとんど入ってしまうため、傷あとが目立たない手術といえます。また、通常の腹腔鏡下手術と同様にお腹の中を詳しく見ることができますので、膿があれば手術時に処置できる点は大きなメリットです。

医師ご提供
単孔式腹腔鏡下手術の様子

ただし、全ての急性虫垂炎に対して単孔式腹腔鏡下手術を実施できるわけではありません。たとえば、炎症が強い急性虫垂炎の場合、体外に虫垂を引き出すことが難しいので通常の腹腔鏡下手術に変更して手術を続行します。このような炎症が強い急性虫垂炎の場合には、通常の腹腔鏡下手術であれば対応可能です。

手術したときの急性虫垂炎の進行度によって術後に食事を開始できるタイミングにばらつきがあります。炎症の治まり具合に合わせて食事を再開しますが、虫垂切除術を行った翌日あるいは翌々日には食べられるようになることがほとんどです。ただし、膿瘍形成している急性虫垂炎ではなかなか炎症が治まらないこともありますので、その場合は回復に応じて食事の回数やペースを調整しています。

急性虫垂炎の手術後に起こる可能性のある主な合併症は以下になります。

  • 腹腔内膿瘍
  • 出血
  • 感染
  • 癒着性腸閉塞(ゆちゃくせいちょうへいそく)

これらの合併症が起こった場合には、その合併症に応じた治療を行う必要があります。たとえば、腹腔内膿瘍ができた場合には、穿刺(せんし)*によって排膿(はいのう)したり、抗生物質を使ったりして膿の治療を行います。

*穿刺:体内にある膿や組織の採取を目的に体表から体内に向けて針を刺すこと。

急性虫垂炎と診断されると、受診した当日、あるいは翌日に手術しなければいけないと言われるため、ご本人も親御さんも戸惑うことが多いでしょう。そのため、病状や進行度について丁寧にご説明し、術式と手術のタイミングについても相談しながら治療を進めることを心がけています。患者さんやご家族によくご理解いただいてから治療を行いますので、不安なことがあれば遠慮せずご質問いただきたいと思います。

早期離床と早期に食事を開始することで合併症の発生率が変わると考えられていますが、術後は大抵のお子さんはぐったりしてしまって、なかなか起き上がったり、水分を摂取したりすることができません。そこで、ご家族と協力しながら、術後できるだけ早い段階でベッドから起き上がってもらい、水分や食事を口から取っていただくよう努めています。

急性虫垂炎の初期は胃腸炎と症状が見分けにくいことに加え、特徴的な症状が現れるまで少し時間がかかります。しかし、年齢が小さい子ほど症状の進行が早いため、注意が必要な病気です。

急性虫垂炎は早期発見・早期治療が重要ですので、このような特性がある病気だということをご理解いただき、お子さんに疑わしい症状がみられたら積極的に小児科を受診いただきたいと思います。

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  • 埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長

    川嶋 寛 先生

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