心臓は、全身に血液を送り出す役割を担っています。特発性拡張型心筋症とは、心臓の筋肉(心筋)の収縮する力が弱まることによって、心臓が拡張してしまう疾患を指します。
10万人あたり7〜14名程度(出典元:1999年の厚生省の全国調査)と発症頻度は多くありませんが、その一方、心臓移植適応症例の80〜90%を占めることなど、重症化しやすいという特徴があります。
今回は、国立循環器病研究センターで厚生労働省の「特発性心筋症に関する調査研究班」班長を6年間務められた北風 政史先生に、特発性拡張型心筋症の原因や症状についてお話しいただきました。
心臓の働きが不十分であるために浮腫(ふしゅ)や呼吸困難など全身の症状が現れる状態を心不全と呼びますが、特発性拡張型心筋症は心不全の状態を呈する疾患の一つです。
心臓は、収縮と拡張を繰り返しながら全身に血液を送り出し、全身の恒常性を維持します。特発性拡張型心筋症とは、この心臓の筋肉(心筋)の収縮する力が弱まることによって、心臓が拡張してしまう疾患を指します。心臓の左心室と右心室のうち、特に左心室に拡張がみられるケースが多いですが、右心不全を有することもまれではありません。
主な症状は疾患の進行に伴い変化していきますが、主に易疲労感(通常労作でも疲れやすく感じること)や動悸、呼吸困難、浮腫や不整脈などの症状が現れることがわかっています。
特発性拡張型心筋症の発生頻度は、人口10万人あたり7〜14名程度といわれています。これは、心不全の状態を呈する心疾患のなかの10〜20%程度であり、発生頻度としては少ないと考えられています。
しかし、その一方、特発性拡張型心筋症は心臓移植の適応症例の80〜90%を占めており、重症化しやすい疾患であるといえるでしょう。
1999年の厚生省の全国調査では、特発性拡張型心筋症の患者さんは全国で1万7,700名と報告されています。しかし、医療機関を受診されていないため正確な診断がついていない患者さんも少なからず存在しており、実際の患者数はもっと多いことが見込まれています。
特発性拡張型心筋症は、幅広い年齢層で発症する可能性があります。5〜10歳の小児の時期に発症するケースもありますし、10〜20代の若年期に発症する方もいます。さらに、60歳以上の高齢で発症される患者さんも少なくありません。
私は、このように幅広い発症年齢は、特発性拡張型心筋症の原因が多岐に渡ることを意味していると考えています。これは推測になりますが、たとえば、Aという原因であれば若年期に発症しやすく、Bという原因であれば高齢になってから発症しやすい、というように原因によって発症年齢が異なるのではないでしょうか。遺伝的な因子が関与することも報告されており、異なる遺伝子異常により発症年齢が異なる可能性も考えられます。
また、特発性拡張型心筋症の患者さんには、男性がやや多いといわれています。しかし、男性に特有の遺伝子が関与しているなど男性のほうが多い理由は明らかになっていません。
このため現状では、男性のほうが社会進出している割合が高いために健康診断などで発見されやすいことや、体力を使う場面が多いために症状が現れやすいなどの要因が推測されています。
特発性拡張型心筋症の原因は、未だ明らかになっていません。しかし、何らかの遺伝的因子が関係するケースがあることはわかっており、遺伝子に関連した発症が3割、遺伝子に関連していない発症が7割といわれています。
また、原因の一つとして、ウイルス感染が関与するケースがあることがわかってきています。これは、拡張型心筋症の患者さんの心筋細胞の遺伝子を解析すると、遺伝子の中にコクサッキーウイルスやインフルエンザウイルスなど、ウイルスの成分が組み込まれているケースがあるからです。しかし、これはあくまで推測に過ぎず、疾患の原因であるかどうかまではよくわかっていません。
ほかにも、免疫担当細胞であるT細胞やB細胞の異常など、免疫システムの異常によって発症するという説や、代謝の異常によって生じるという説もあります。
心臓は左室と右室に分かれていますが、このうち特発性拡張型心筋症の患者さんが障害されるものは主に左室です。左室が障害されると、全身に十分な血液を送り届けることができなくなった結果、全身症状が現れます。
全身症状の例として、発症の初期には、易疲労感や、動悸、呼吸困難感などが現れるでしょう。
また、全身の血液を心臓に集める働きを持つ右室も障害されてくると、浮腫が起こります。全身がむくみ、水分が溜まるために1日に2〜3キロほど体重が増加するケースもあるといわれています。
NYHA(New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)分類とは、自覚症状から心不全の重症度を分類した指標です。ここでは、NYHA分類に沿って、特発性拡張型心筋症の進行とそれに伴う症状について、さらに詳しくお話しします。
I度は、心臓の拡張など疾患は進行しているものの何も症状は現れない段階を指します。
Ⅱ度は比較的軽症のⅡSと重症のⅡMに分けられます。ⅡSになると、運動をした際に疲労感を感じるようになります。たとえば、それまで1時間運動してもそこまで疲労感を感じることがなかったような方が、30分運動するだけで息が切れてしまうような状態を指します。ⅡMになると、階段を上っただけで息切れするようになったり、より短時間の運動で疲労を感じるようになります。
Ⅲ度になると、日常生活の作業で疲労を感じたり、動悸や呼吸困難が現れるようになります。たとえば、入浴や階段の上り降りすら辛く感じてしまいます。
重症のⅣ度になると、安静時にも疲労や動悸、呼吸困難、胸痛などの症状が現れるようになります。
自覚症状は、日常生活に支障が出てくるNYHA分類のⅡ度やⅢ度で現れることが多いので、Ⅱ度やⅢ度で病院を受診される方が多いかもしれません。
しかし、特発性拡張型心筋症の進行には個人差が大きく、なかには数か月でI度からIV度に悪化してしまう方も存在します。そのため、重症化のリスクを防ぐためには早期発見・早期治療が何よりも重要になります。
最初は、かかりつけの先生でも構いません。疲れやすさや動悸など異常を感じることがあれば、なるべく早期に病院を受診していただくことが重要になります。
特発性拡張型心筋症の治療法確立を目指す取り組みに関しては、記事2『特発性拡張型心筋症の治療法確立を目指して』をご覧ください。
阪和第二泉北病院 院長
阪和第二泉北病院 院長
日本循環器学会 循環器専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医日本高血圧学会 高血圧指導医
循環器内科 医師。大阪大学 医学研究科大学院で循環器の生理学に関する研究にて博士号を所得。大学院卒業後は、生理学・病態生理学研究からゲノム研究、分子生物学研究へと展開を図るとともに、実臨床へ研究成果を展開する。特に、国立循環器病研究センターに移動してからは、大規模観察・介入臨床研究、ゲノム研究などを行うとともに、ビッグデータの数理科学研究、マイニング研究など工学の手法をもちこんだ新しい医学を創設しつつある。国内外の医学部客員教授を引き受けて、日本のみならず海外の医科学の学生教育も行っている。
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不整脈が気になるので病院に行こうと思います
不整脈が気になって自分で循環器科に行く場合(救急車とかではなく) 最悪のケースってどの辺まで想定しておけばいいでしょうか 父が拡張型心筋症なので遺伝も心配で… 来月の旅行とか引っ越しとかの計画がダメになっちゃうかなとか これから仕事どうしようかなとか 子供産めないなら彼氏とも別れなきゃとか 考えれば考えるほどどんどん不安になってしまいます ちなみに症状は 失神とかめまいはなく、数拍おきに脈がピョコッピョコッっと飛んで、胸騒ぎがします。 数えられないくらいの回数ですが、おそらく多分10000発あるかないかじゃないかなぁと推測します。
拡張型心筋症について教えてください
拡張型心筋症についてです 患者数は1万人あたり1〜2人というのをネットで検索して見たのですが、 血縁者に拡張型心筋症の患者がいる場合の罹患する確率ってどれくらいになるのでしょうか。 また、例えばくも膜下出血だと、事前に検査して脳血管の手術をして予防することもできると聞きましたが、 拡張型心筋症にはそのような予防法とかはありませんか?? 父が拡張型心筋症です。 私は不安神経症を持っているため、私はいつ発症するのだろうと恐怖で頭がおかしくなりそうです。 (発症したら根治はない病気だと聞いているので、早期発見できたからラッキーとは思えません…)
拡張型心筋症の遺伝について
父が拡張型心筋症です 現在67歳で、15年ほど前に入院して以来は特に入院などはせず、 自宅で服薬しながら生活をしています。 拡張型心筋症は予後が悪い病気だと知りました。 父のことももちろん心配ですが、私も遺伝するのでは、と、とても不安になっていますが、まさか当事者の父がいる場でそれを言うこともできず… 不安神経症もあるため、怖くて怖くて仕方ありません。 遺伝しやすいものなら、私自身の結婚や出産も諦めようかなと思ってしまいます。 どれくらいのリスクを覚悟したりすればいいでしょうか。 また、具体的な予防法などあるのでしょうか、
治療方法、方向性、何か出来る事、した方が良い事を教えて頂きたいです。
約4ヶ月前の夜中に動悸と息苦しさで目が覚める所から始まり、病院へ行き、心エコーや心臓カテーテルなどの検査を経て、心臓の肥大やEFが30前後、ということで拡張型心筋症の疑いで現在に至っております、(心筋を取ってくる検査?はしてないのであくまで疑いということだと思います。) 症状?異変?が出てからの治療という事もあるかと思いますが始めの1、2ヶ月は体調が良くない日が多く、その後はまずまず調子が良い日もあったり悪い日が4、5日続いたりと不安定な日々を過ごし、家族や職場仲間にも迷惑をかけてる現状です。ここ数日も軽い息苦しさや動悸やしんどさがあるので毎日不安で不安でいっぱいです。同じ病気の方の中にも、無理をしなければほぼ普通の状態で生活されてる方も多数おられるようで…、4ヶ月経ちまだ症状が落ち着かないのが今後半年、一年と経てば症状出なくて普通に過ごせる日が来る可能性があるのか、薬を飲む以外に何か出来る事はないのか、そもそも今の薬は体に合ってるのか、今日のようにしんどさや動悸がある時に飲むような即効性のある薬なないのか、など小さな事でも結構ですので何かアドバイスしていただける事があればご教授お願い致します。
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