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拡張型心筋症の原因や症状とは?必ずしも重症疾患ではない―専門家のもとで...
拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)という病名を聞くと、多くの方が「心臓移植」「渡航して手術を受ける」などという重篤なイメージを持たれるのではないでしょうか。しかし、これらは拡張型心筋症...
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拡張型心筋症の原因や症状とは?必ずしも重症疾患ではない―専門家のもとで正しい指導を

公開日 2016 年 07 月 25 日 | 更新日 2017 年 09 月 26 日

拡張型心筋症の原因や症状とは?必ずしも重症疾患ではない―専門家のもとで正しい指導を
猪又 孝元 先生

北里大学北里研究所病院循環器内科部長、北里大学医学部循環器内科学教授

猪又 孝元 先生

拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)という病名を聞くと、多くの方が「心臓移植」「渡航して手術を受ける」などという重篤なイメージを持たれるのではないでしょうか。しかし、これらは拡張型心筋症全体のなかでは、ごく一部の患者さんでみられる特殊なケースという実態があります。拡張型心筋症という病気を見ていく際は、診断名に固定概念を持たず、病態を予測して治療の方法を考えることが重要です。引き続き、北里大学北里研究所病院循環器内科部長の猪又孝元先生にお話を伺います。

拡張型心筋症とは? 心筋細胞の変異によって心臓が肥大化する

拡張型心筋症は、心筋細胞の変化によって心臓(左心室)が拡張し、心臓のポンプ機能が低下する病気です。

心臓が拡張して心臓の働きが悪くなる病気としては、この拡張型心筋症のみではなく、その他に大変たくさんの疾患が該当します。拡張型心筋症という病名は、あくまで除外診断(多疾患の可能性をひとつひとつ除いていき、どのように考えても他の病態には該当せず、疾患が断定できない場合に拡張型心筋症と診断される)の方法で診断されます。つまり、拡張型心筋症はなかば「ゴミ箱」のような診断名であり、言い換えれば、この病名自体に前向きな意味がないとも言えます。

原因不明とされる拡張型心筋症ですが、おそらく複数の病気が含まれていると考えられています。かつて非A非B型肝炎と呼ばれた病気が、現在では独立してC型肝炎という確固とした病名がついたように、現時点では拡張型心筋症としか診断し得ない病態のうちで原因が特定されたひとつの病気が疾患名として独立するかもしれません。

拡張型心筋症の原因は不明な場合が多い―遺伝との関係は?

拡張型心筋症のはっきりとした原因は不明であり、病態の解明が進んでいない状況にあります。現在、拡張型心筋症の原因としては大きく下記の3つが挙げられています。

①遺伝子の異常によるもの:小児に多く、重症化する傾向にある。

②ウイルス感染によるもの

③自己免疫疾患:自己免疫による拡張型心筋症の場合、免疫吸着療法が期待できる場合がある。

拡張型心筋症は小児で発症する場合もある―原因の多くは遺伝子異常か

なかでも小児期で発症する拡張型心筋症は遺伝子異常が原因である場合が多いことが予想され、一般的に予後は不良です。子どもの場合は特に、専門家の指導のもとで早期に対応を立てるべきでしょう。

拡張型心筋症は自然に回復するケースもある―病態の再認識の必要性

最近、拡張型心筋症の原因は前述した3種類以外にも存在するのではないかと考えられ始めています。

遺伝子の異常が原因で起こった子どもの拡張型心筋症など、一部の拡張型心筋症は重症化する傾向にある一方で、なかには初期段階で拡張型心筋症がみつかり、治療によって拡張した心臓が正常化してしまう方もいます。

重症の拡張型心筋症の患者さんでは、心臓移植や補助人工心臓などの特殊な治療が必要となる場合があります。そもそも治療技術の発展によって生命予後が良くなり、回復する方が増えたという事実もあるでしょう。しかしこれらを考慮しても、拡張型心筋症のなかには自然に回復するようなタイプの病態があることも指摘されてきています。

拡張型心筋症は2016年現在、特定疾患(厚生労働省が指定した難病であり、原因不明かつ治療法が未確立な疾患)に指定されてはいるものの、歴史的にこの病気の明確な病態と経過を十分に追跡できていません。「拡張型心筋症とはどのような病気なのか」が改めて問い直されており、拡張型心筋症の病態を更に細分化したうえで、治療介入の方法もきちんと分けなければならないという流れに進んできているのです。そのためには、心筋症自体のさらなる細分化に向けた症例分析を行い、原因や病態を把握する必要があるでしょう。

拡張型心筋症の症状と対処―症状に応じた対応をしていく。治療薬にも変化が生じてきている

あくまで原因は不明ですから、拡張型心筋症そのものに対する特殊な治療はありません。拡張型心筋症の症状には心不全や不整脈があり、出現した症状に対する対処をしていきます。

ただし、対応を考える際、問題になるのはやはり拡張型心筋症本体が「どんな病態であるか」ということです。

元々、心臓に再生能力はありません。私が学生だった頃、一度機能が低下した心臓は元に戻らないと教えられてきました。リモデリング(拡張した心臓の働きが悪くなること)は一方向性であり、反対に心臓の働きが良くなるということはないとされていたのです。しかし近年、心臓が逆リモデリング(心臓が縮小して機能が改善する)される場合があり、悪化した状態の心臓でも治療によって回復していく可能性があるということが判明しました。

拡張型心筋症の代表的な治療薬にはβ遮断薬があげられますが、これはもともと拡張型心筋症には禁忌とされた薬です。つまり、かつては投与してはならないといわれていた薬が、現在では有効であると判明し、使うべき薬として使用されています。また、CRT(ペースメーカーの一種)も逆リモデリングをもたらす治療法として急速に普及しつつあります。

一方で、最初の診察の時点で「この患者さんは重症化してしまうだろう」と半ば予測できる方がいることも事実です。ご家族に類似した状態の方がいれば、多くの場合は遺伝子異常が原因であり、重症化の可能性が高まります。遺伝子に関しては医学的な介入が容易ではないため、派生的な症状である不整脈や心不全を予防しながら治療を進めていくしかありません。とはいえ、実際にそれほど重篤となる方は、今やむしろ稀です。拡張型心筋症の中には、早期に状態が回復する方もいるということを知っておきましょう。

拡張型心筋症の検査、診断―心筋生検とMRIから先の見通しを立てる

われわれは、病態を予測し、行き着く先(経過)を読むために、拡張型心筋症患者さんの全員に心臓の一部小片組織の採取(心筋生検)およびMRI検査を行って、心臓の筋肉の質(たち)を調べています。これらの検査を組み合わせ評価することで、今や7~8割方は1年後の容態が予期できるようになってきたからです。そのうえで状態の悪化が予測される場合は、移植も含めた特殊管理の道筋をつけ、一方、改善の見込みが高いと予想される場合には主に薬で粘る治療を進めます。

このように、数年後の心臓が回復すると予測されるか、悪化すると予測されるかによって、患者指導や治療の組み立ては大きく異なってきます。どちらにせよ、重要なのは見立てを行うスキルです。

拡張型心筋症の内科的治療は専門家の指導のもと行われるのが望ましい

理想的には、拡張型心筋症の患者さんはできる限り専門家の指導のもと、適切な診断と治療を受けていただくのが望ましいと思います。ただし、拡張型心筋症の専門家は少なく、なかでも患者さんの将来的な状態を予測できる(先を読む)スキルを持つ専門医は、全国を見渡しても数少ない現状です。

拡張型心筋症はしっかりと治療を受ければ怖くない病気―将来的な経過の予測が重要

私は、医師や患者さんを含めた多くの方に、拡張型心筋症という病気に対する認知を深めてほしいと考えています。拡張型心筋症という病気の診断や治療にはどういった問題点があって、それをいかに患者さんに理解していただき、どのように解決していくのか。これは、記事1『心不全が重症化したとき―重症心不全に対する内科的治療と予防』で触れた「患者指導」という観点と同等あるいはそれ以上に重要かもしれません。

これまで述べてきたように、拡張型心筋症は幅広い病態を持っています。なかには重症化する方もいますが、回復の見込みが高い方もいます。ですから、拡張型心筋症という病名づけそのものに意味は乏しく、この方が将来的にどのような経過をたどるかという予測が最も重要といえます。ぜひしっかりと医療機関に相談して、将来的な展望を立ててもらうようにしてください。

拡張型心筋症は、専門医であれば経過がかなり予測できる疾患です。だからこそ、専門家の管理を受ける価値があります。逆にいえば、患者さんの経過は専門家の管理を受けられるか否かで大いに変わります。

拡張型心筋症は、決して悲観する病気ではありません。最適な医師から最善の医療を受け、ぜひ幸せを勝ち取ってほしいということを、私からの最後のメッセージとしてお伝えしておきます。

 

心不全(猪又孝元先生)の連載記事

重症心不全の専門医であり、心不全研究班のチーフを務める傍ら、心不全という病態の啓発・発信の重要性を強く訴えている。拡張型心筋症の研究にも多く携わり、病態の予測に基づき治療方針の決定を行う日本に数少ない医師の一人。

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