インタビュー

心不全・重症心不全の症状とは?ー息切れやむくみなどが代表的な症状

心不全・重症心不全の症状とは?ー息切れやむくみなどが代表的な症状
猪又 孝元 先生

新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授

猪又 孝元 先生

この記事の最終更新は2016年07月23日です。

心不全は「疾患」ではなく、「状態」をあらわす名称です。心臓は、全身への血液循環および栄養運搬機能を担い、私たちはこの働きによって健康に生活することができます。このような心臓の機能がうまく働かなくなると、全身に血液が行き渡らなくなり、全身状態の悪化をきたします。この状態を「心不全」と呼びます。

今回は心不全の病態から見極めのサイン、予防的治療の重要性、患者さんご自身が行える日常生活の注意点について、北里大学北里研究所病院循環器内科部長の猪又孝元先生にお話しいただきます。

心不全の多くは、ある日突然生じるものではありません。元々その方に生活習慣病や遺伝子異常などのリスク因子があり、そこから心筋梗塞心肥大などを生じ、やがて心不全という状態に至ります。

ただし、人間の心臓には異常に対する代償能力(心拍出量の低下をくい止める機能)があるので、心不全の状態になった場合でもすぐには表立った症状が現れません。しかし、心不全の病状は無症状の時点でも水面下で進行しており、ある閾値を超えたときにようやく自覚症状が出現します。

ここまでくるともはや病状はかなり進行した状態です。進行すればするほど、医療的な介入が難しくなってしまいます。

重症心不全の定義はガイドライン上にもはっきりと示されていませんが、一般的に心不全が治療抵抗性(有効な治療手段がない状態)になっている状態を指します。

日本循環器学会の調査によれば、心筋梗塞の患者数および死亡率は現在ほぼ頭打ちとなっています。それに対して心不全の患者数と死亡率は、2013年から2016年現在に至るまで増加し続けており、死亡率にいたっては心筋梗塞の3倍以上になっています。

日本循環器学会のデータ:心臓病のうち死亡率が高いのはどのような疾患であるかを調査したグラフ

少子高齢化という社会的背景を考えると、高齢者病としての心不全は今後ますます増加していくことが予測されます。

前項で述べた通り、重症心不全にまで進行した患者さんの場合は、治療の手段が限られてきてしまいます。しかし、心不全は長い時間をかけて進行するため、すぐに重篤になるとは限りません。心不全ではあるものの表立った症状が出ていない期間を「隠れ心不全」と呼んでいますが、進行を防ぐためには、いかにこの「隠れ心不全」の段階で心不全の兆候を発見できるかどうかが重要になります。

ところが、心不全という病態は心筋梗塞狭心症のように、世間や社会にあまり周知されていません。ですから、まずはわれわれが心不全という病態そのものの情報発信をしていかなければなりません。

それでは、心不全を早期発見するために、どのような徴候に注意すればよいのでしょうか。

私は心不全による症状を青信号・黄色信号・赤信号の3つに分類しています。

心不全の黄色信号

心不全の代表的な症状は、呼吸困難とむくみの2つです(もちろん、このふたつの症状が現れたすべての方が心不全ということではありません)。このふたつの症状やむくみによる体重増加が現れた場合は「黄色信号」に分類されます。

心不全の赤信号

赤信号(最も重症)と呼べる状態では、患者さんは息苦しさが強くて臥位(がい:横になること)の姿勢をとれなくなります。心臓疾患は肺の病気と異なり、起き上がると楽になるという特徴があるのです。

このとき、患者さんは自然と起坐呼吸(きざこきゅう:座って呼吸をする)になろうとして、無意識に就寝時の枕を高くします。このような場合、心不全が重症化している可能性が非常に高い「赤信号」だと考えることができます。

不全の仰臥位呼吸と起座呼吸の症状

このような分類に基づいて、患者さんへの指導が行われます。患者さんには、事前に「心不全の場合は起坐呼吸を取ろうとすること、また横に寝られないことがあります。この症状が出た場合は赤信号ですから病院に来てください」とお伝えして、見逃しを防ぐようにしています。

もうひとつ、心不全の症状として特徴的なのが首元の変化です。

私が患者さんを診察する際は、必ず首もとをしっかりみるようにしています。ときには「なぜ首もとをみるのですか」と聞かれることもありますが、実は首の様子から心不全を早期発見できるのです。

心不全では、心臓がやりくりできない血液が上流に貯まるため、首の奥の静脈(内頸静脈)がパンパンに膨れ上がり、外からみると首の皮膚が揺れて見えます。これを、頸静脈怒張(けいじょうみゃくどちょう)と呼びます。この首の動きがあった場合には、特殊な状況がない限り、まず心不全だと断言しても構いません。

心不全のサインとなる頸静脈怒張の症状

頸静脈怒張の状態

心不全を診断する重要な数値の指標として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という血液検査が挙げられます。BNPとは心臓から合成・分泌されるホルモンの一種であり、心不全の場合にはこのBNPの血液濃度が上昇します。

心不全とBNP血液濃度の関係

前項、前々項でそれぞれ述べた頸静脈怒張およびBNPの増加は、「隠れ心不全」の時点でも出現する場合があります。また、頸静脈怒張は首元の観察のみ、BNPは採血するだけで判明するため、すぐに調べることができるという点においても利便性が高いといえます。

心不全の検査ツールとして、首元の観察とBNP測定は非常に有用だといえるでしょう。

心不全には先制医療が重要です。こうした特徴から心不全の可能性が高い方をピックアップして、先手を打つという方法が、重症化を予防するための最善策なのです。

ひとつは、原因はともあれ結果としてどんな状態になっているかという要素、もうひとつはその状態を来す原因という要素です。心不全の治療を組み立てる際には、この二つの要素に常に目配せする必要があります。

たとえば、「原因」が心筋梗塞であるとわかっていれば、治療には冠動脈手術などの手立てを行います。また、心臓の機能が低下し血液循環の効率が悪くなった場合、その原因が分からない時には、さしあたってその状態に対し症状を軽くする治療を行います(体液を減らすための薬や生活改善、ポンプ機能の補助装置の導入など)。

このようなさまざまな治療ツールというパズルをどのように組み合わせるかが大切で、特に重症心不全ではその治療の行く末が決まります。

心不全は、例えるならば巨大な樹のような病態であり、様々な異常が複雑に関与し合って形成されます。そのため、冠動脈の血流や左室の動きなど、部分的な治療をどれほど完璧に行ったとしても、それが病態の中心でなければ、心不全はほとんどよくなりません。

心不全の治療では、臓器のパーツごとの治療を完璧に行うよりも、すべてにわたり平均以上の治療を施すほうが結果的によい成果を生む場合が多いようです。したがって、心不全の治療で最も大事なのは、検討しうる様々な治療法をどのようにマネージ(取りまとめる)していくのかという点です。

心不全へのマネージは全体をまとめるマネージャーのもと、医師、看護師、理学療法士、薬剤師などの専門家が集結し、それぞれが得意分野でのベストを尽くし、一人の患者さんに対峙するという構造があって初めて成り立ちます。チーム医療が最も必要な病態といえるでしょう。

心不全への具体的な治療は、大きく二つに分けることができます。

ひとつは「目に見える治療」であり、呼吸困難などの症状や患者さんの苦しみを速やかに治して改善することを目的とします。

もうひとつは「目に見えない治療」といい、即時的な症状の改善は見込めないものの水面下で土俵を固め、長期的に患者さんの予後を良好にすることを目的に行います。

こうした多角的でひとつのパーツにのみ注力しない治療法は、チーム医療が実現してこそ行うことができるあり方だと考えています。

先ほど、心不全には「予防」つまり「そもそも心不全にならないこと」が重要だとお話ししました。一方で、もしも心不全になってしまった場合や心不全と発覚した場合、心不全の進行を抑制する工夫が大切になります。

患者さん自身が生活習慣の管理や生活上での注意点を意識することが大事です。体液の増加による心臓への負担を軽減するため、塩分や水分の過剰摂取を控えましょう。また、心臓のパーツのバランスを保ち症状を安定させるために風邪をひかないように予防を徹底したり、処方された薬をきちんと飲むといった心がけが求められます。

息切れや起坐呼吸など、心不全が悪化しているサインをしっかりと覚えておき、これらの徴候が現れたらすぐに専門医を受診することを忘れないでください。心不全のサインの一つである頸静脈怒張は、見た目でもはっきりと首が「揺れる」ため、患者さん自身でも発見することができます。

心不全では、医療者はもちろん、患者さんもしっかりとご自身の体調管理について意識をすることが大切です。

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