インタビュー

むくみと体重のチェックが心不全のセルフケアに役立つ――心不全によるむくみの治療と対策について

むくみと体重のチェックが心不全のセルフケアに役立つ――心不全によるむくみの治療と対策について
原田 和昌 先生

東京都健康長寿医療センター 循環器内科 副院長

原田 和昌 先生

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生活習慣の変化や高齢化などによって心不全の患者数は増加傾向にあります。また、高齢になるほど罹患率が高いため、特に高齢の方が注意すべき病気といえるでしょう。

心不全の症状の1つであるむくみは心不全の悪化をチェックする目印にもなるため、セルフケアに役立てることができると東京都健康長寿医療センター 副院長の原田 和昌(はらだ かずまさ)先生はおっしゃいます。

今回は原田先生に、心不全によるむくみの治療や対策などについてお話を伺いました。

心不全は、“心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気”と定義されています。治療することで寿命を延ばすこともできますが、治療せずにいるとがんよりも早く死に至ることもあるといわれています。

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心不全の原因となる病気として、心筋梗塞(しんきんこうそく)(心臓の血管が詰まってしまう病気)、心臓弁膜症(心臓の中の弁に問題が生じる病気)、心筋症(心臓の筋肉に問題が生じる病気)、不整脈高血圧などが挙げられます。

若い方が心不全になることもありますが、特に65歳以上の患者さんが多いために、高齢の方の病気であると考えられています。その背景として、年齢を重ねるにつれて、心不全の原因となる心臓弁膜症などの病気の罹患率が高くなることなどが挙げられます。

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心不全はA~Dの4段階のステージに分けられ、急性心不全を繰り返すことで徐々に心臓が悪くなっていきます。急性心不全は、心筋梗塞心筋炎(ウイルスなどへの感染によって心臓の筋肉に炎症が起こる病気)などを突然発症して起こる場合と、高血圧不整脈といった増悪因子、貧血腎不全といった併存症、塩分の摂取過多などの複数の要因が絡み合って急激に心不全が悪化して起こる場合があります。

一般的には、最初に急性心不全を発症したとき(上図、心不全発症の矢印部分)に発見されることが多いでしょう。ただし、急性心不全を引き起こさずに徐々に心臓が悪くなり、慢性心不全の状態になる場合もあります。

最初の急性心不全の発症時にきちんと治療を行えば、症状が安定(慢性心不全)するとともに進行も遅くなるため、何度も入院するようなことにはならないと考えられます。しかし、治療を途中でやめたり、生活習慣を改善しなかったりすると、難治性の心不全であるステージDに移行します。ステージDでは補助人工心臓の装着や心臓移植といった外科的治療を行わなければなりません。

急性心不全は適切な治療を受けられない場合、死亡率がかなり高いことが明らかになっています。何もしていないにもかかわらず息苦しい、横になっても呼吸がしづらいといった症状が現れたら急性心不全を疑い、すぐに病院を受診ください。

慢性心不全では、息切れやむくみ、倦怠感、夜間頻尿(就寝中、トイレに1回以上起きなければならない状態)などのさまざまな症状が現れます。

むくみは、組織の中に水分などの余分な体液がたまることで起こります。心臓が悪くなると腎機能も低下するために、摂取した量と同量の水分や塩分を腎臓から排泄できなくなり、体の中に体液がたまってしまうことでむくみが生じます。

また、心臓がしっかり動いていないために、うっ血(血液が滞る)して静脈の圧力が上がることもむくみの原因になります。

心不全による足のむくみ

心不全によるむくみは()こう(ずね)(すね)の前面)に現れることが多いですが、ほかの病気や生活習慣などによっても足がむくむことはあるため、心不全によるものかどうかを確認する必要があります。心不全によるむくみの特徴は以下のとおりです。

  • 向こう脛の真ん中あたりを指で押すとへこんで、しばらく元に戻らない
  • 体重が3日で2kg以上増えている
  • 息切れや倦怠感、夜間頻尿などの症状がある

心不全の場合はむくみだけが生じることは少ないと考えられるため、むくみに加えて体重増加や息切れ、倦怠感などの複数の症状が当てはまる場合は、心不全によるむくみを強く疑います。

心不全によるむくみを疑う場合は、循環器内科を受診いただくのがよいでしょう。心不全は血液検査だけで診断できる場合もありますが、必要に応じて胸部X線検査や心臓超音波検査(心エコー)、心電図などの検査を行います。

検査で心不全と診断された場合は心不全の治療を開始し、それと並行して原因となる病気の検査を行うのが一般的です。心不全の治療薬は複数あるため、治療効果をみながら患者さんに適した薬を処方します。むくみがある方はそれと併せて、利尿薬でむくみの改善を図ります。なお、心不全の原因となる病気が確定したら、その病気に対する治療も行っていきます。

西洋薬の利尿薬を多く使用すると、心不全の予後を悪くすることが分かっています。そのため、西洋薬の利尿薬を減らすことを目的として、利尿作用のある漢方を併用して処方することもあります。

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また、心不全を増悪させる併存症に対して漢方を用いることもあります。特に高齢の方は、心臓の病気以外の併存症、たとえば食欲がないために栄養状態が悪かったり、筋肉が痩せていたりと、西洋薬では対応することが難しい体質や体調が原因で心不全が悪化している可能性が考えられます。漢方であれば患者さんの体質や不調に応じて漢方を処方することができますから、フレイル(年齢を重ねるにつれて心身の活力が低下していく状態)になっている方の症状に合わせて適切な漢方を処方することが可能です。心不全の併存症の治療としては、栄養状態の改善をはじめ、食欲増進や筋肉量の低下を防ぐ効果のある漢方を多く使用しています。

このように、患者さんの体質や不調に応じて処方することができる点が漢方のメリットといえます。

摂取した塩分を排泄できないとむくみにつながるため、塩分の摂取量が多いと、どのような薬を使っても治療効果が得られません。そのため、心不全によるむくみの対策として、もっとも大切なことは減塩といえるでしょう。

ただし、高齢の方は塩分を減らしすぎると味がよく分からなくなり、食欲が落ちてしまうことがあります。そのようなことがないように、1日6g以下を目安に減塩に取り組んでみてください。

水分制限が必要になる場合もありますが、心不全の重症度や処方されている治療薬などによっても適切な水分摂取量は異なるため、水分制限については医師の指導の下で行いましょう。

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心不全によるむくみが強いときには運動はおすすめできません。しかし、心不全でも筋肉の維持や自律神経を安定化し、寿命を延ばすためには運動が必要です。具体的には、下肢の筋肉を鍛えたり、息が切れない程度に日中に軽い運動したりするとよいでしょう。運動が難しい方は、足の曲げ伸ばしだけでも行うことをおすすめします。

心不全の患者さんにとって、むくみは1つの目印です。入院を判断する指標にもなりますし、自己管理の目安とすることもできます。

向こう脛のむくみと体重の増加があった場合には、放っておいてしまうと数か月ごとに1度入院が必要になることもあります。処方された薬をしっかりと内服することに加えて、むくみと体重の変化に応じて減塩などの生活習慣の改善をすれば入院で治療しなくても済むかもしれません。この2点のチェックであれば患者さん自身で簡単に確認できますから、ぜひ自己管理の目安としていただきたいと思います。心不全手帳を用意して、むくみや体重の変化を記録し、セルフケアに役立てるのもよいでしょう。

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