慢性心不全の患者さんは、日常生活でどんなことに注意すればよいのでしょうか。鳥取大学医学部附属病院第一内科診療科群の主任診療科長である山本一博教授にお話をうかがいました。
慢性心不全にならない、あるいは悪化させないためには、心臓病の引き金となる生活習慣病にかからないことが大切です。日頃の生活に気をつけて、高血圧や高血糖、高脂血症にならないようにしましょう。慢性心不全になってしまったとしても、しっかりと生活を管理することにより、症状が改善することは十分に期待できます。
塩分をとりすぎると、それを薄めるために水分をたくさんとることになります。その結果、血液量が増えて心臓の負担が増加します。
喫煙は心臓の血管を急激に収縮させます。悪影響はあってもメリットはありません。受動喫煙も同じく有害です。心臓の病気にかぎらず、動脈硬化やがんなど、ほとんどの病気でリスク要因となります。
アルコールはまったくダメというわけではありません。適度な飲酒は狭心症や心筋梗塞の発症を抑えるというデータもあります。アルコール性心筋症など、特別な病気がある場合は別ですが、ビール350ml程度であれば大丈夫でしょう。制限が多すぎてかえってストレスになるのもよくありません。飲みすぎないように上手につきあっていくことが大切です。
不規則な生活や睡眠不足は心臓に大きな負担をかけます。休養や睡眠を十分にとるだけでも、心不全の症状が軽くなることがあります。
風邪は心不全の症状を悪化させる主要な原因のひとつとなります。予防を心がけ、風邪かなと思ったら身体を休め、早めに医療機関を受診しましょう。
心不全の症状かもしれないと気になる人は循環器科の受診をおすすめします。過去に心不全になったことがある方は、症状が出ていなくても定期的に医師の診察を受け必要なお薬の服薬を継続するようにしましょう。
よく患者さんから「どんなものを食べたらいいですか」と質問されることがあります。しかし、何を食べてはいけない、これを食べたほうがよいというような絶対的なものは何もありません。たとえばヨーグルトや果物が身体に良いといっても、食べ過ぎてしまっては乳脂肪や果糖のとり過ぎになってしまいます。その逆に肉も食べ過ぎなければ制限する必要はありません。
赤身の肉やレバー、卵などは動脈硬化のリスクを高めると敬遠する向きもありますが、そういったものを食べていても元気で長生きをしている方がいるように、人それぞれ体質によっても異なるのです。偏らないバランスの良い食事、そして食べ過ぎに注意することが大切です。
塩分の制限についても、全体として1日の摂取量が上限を超えていなければよいのであって、けっして塩辛いものを食べてはいけないということではありません。特にご高齢の患者さんの場合には、食欲が落ちていて食事が進まないときには、減塩食が味気なく感じられて箸もつけないことがあるかもしれません。そのような場合には普通の味付けのものを少しでも食べていただき、食欲と体力を回復させることを再優先に考えます。
患者さんの気持ちとして、治療の効果が出て状態が良くなればモチベーションも上がります。その一方で、運動にせよ食生活の制限にせよ、何も変わらないとだんだん意欲が低下するという面があります。
しかしながら、慢性心不全はがんなど進行性の病気と同じように、治療をせずに放っておけば確実に悪化していきます。現状が維持できているということは、ある意味治療が成功しているということです。病院に行っても良くならないからといって通院を中断してしまうと、私たち医師は薬を出すこともできませんし、何もお手伝いすることができなくなってしまいます。
根本治療ができないなら治療しなくても同じだというのは大きな誤解です。何もせずにいれば、今できていることもいずれできなくなっていくということをぜひ理解して、治療に取り組んでいただきたいと考えます。
鳥取大学 医学部病態情報内科 教授、鳥取大学医学部附属病院 第一内科診療科群(循環器内科、内分泌・代謝内科) 主任診療科長
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