心不全とは病名ではなく、心臓が悪い(心臓のはたらきが不十分である)ために体のさまざまな場所に負担がかかることで動悸、息苦しさ、むくみなどの症状が生じる状態を指します。心不全は主に2種類に分けられ、心臓のはたらきが急激に低下して心不全に陥った状態の“急性心不全”と、症状が安定している状態の“慢性心不全”があります。
慢性心不全の治療の目的は主に、症状の改善、再発や急性増悪*の予防です。治療方法は急性か慢性かということや、原因などによって異なります。本記事では、慢性心不全をテーマに治療について詳しく解説します。
*急性増悪……慢性心不全が急激に悪化して急性心不全を発症すること
慢性心不全の治療ではまず、原因となる病気の治療を行います。そもそも心不全は心臓のはたらきが何らかの原因で低下している状態であるため、治療の原則はその原因となる病気を診断し、その病気を治療することから始めます。慢性心不全の主な原因としては、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、心筋梗塞、弁膜症、心筋症といった心臓の病気などが挙げられ、それぞれに適した治療が行われます。
そのほか、症状を緩和する、症状が出ないようにする、心臓の状態が悪くなるのを抑えるといった目的で薬が処方されたり、心不全悪化のリスクを避けるために、食生活の改善や禁煙、減酒などの指導が行われることもあります。以下で詳しく解説します。
慢性心不全では症状の緩和、再発や心臓が悪くなることを抑える目的で薬による治療が行われることが一般的です。薬によって症状の緩和、再発の予防、生命予後(病気の経過が命に与える影響)の改善が期待できますが、服薬を中断すると症状が悪化し心不全を繰り返す可能性があるため、自己判断で断薬したりせず医師の指示にしたがって服薬をする必要があります。
薬には以下のようなものがあります。
心房細動*を伴う場合に用いられ、心拍数をコントロールし症状を改善する薬です。
心臓から血液を送り出す能力が低下し、血液が停滞することで引き起こされる呼吸困難、むくみなどを改善する薬です。
*心房細動……不整脈の一種で、心臓の心房がけいれんするように不規則に震える状態
心臓にかかる負担を軽減することで心不全の再発・急性増悪を防ぐ薬です。これらを患者の状態に合わせて組み合わせて使用します。
心不全治療では、薬だけでなく生活習慣の改善も重要となります。具体的には以下のとおりです。
低栄養状態に陥ると生命予後を悪化させるといわれるため、食事内容には注意が必要です。塩分過多の食事は体の水分量を増加させ、血液量も増加するため心臓に負担をかけてしまいます。そのため、塩分の制限を行う必要もあります。
ただし、心不全患者における細かな栄養管理方法は確立されていないため、医師や管理栄養士の指示のもとバランスのよい食生活を心がけるとよいでしょう。
禁煙によって心不全患者の死亡率や再入院率が低下することが明らかとなっています。そのため、喫煙者に対しては禁煙が強く推奨されています。アルコールは摂取量によって心臓のはたらきを強めることも弱めることもあるため注意が必要ですが、適度な摂取量であれば心不全の発症率を低下させるというデータもあります。いずれにしてもアルコールの過剰摂取は心不全発症のほか、アルコール性心筋症の原因となるため、ほどほどの飲酒量に抑えることが重要です。
急性心不全の場合は安静にする必要がありますが、慢性心不全の場合は症状に合わせた適度な運動が推奨されています。心不全患者は早歩きや階段において息切れ・呼吸困難の症状が現れることがありますが、この原因は心機能ではなく筋力に比例することが研究で明らかになっています。そのため、適度な運動で筋力をつけることで息切れや呼吸困難の症状が改善される場合があります。ストレスが急性心不全の原因となることもあるため、適度な運動と休息をバランスよく取るとよいでしょう。
慢性心不全の治療の基本は、原因となる病気の治療のほか、薬による治療、生活管理が重要です。薬にはさまざまな種類があり、患者の状態に合わせて組み合わせて処方されます。生活管理では、食事管理や禁煙、減酒などにより、症状の発現や悪化を防ぐことができるとされています。また、適度な運動を行うことで症状が緩和されることがあります。
このように慢性心不全の治療法は多岐にわたるため、不明点があれば医師に相談をし、いずれも自己判断せずに医師の指導のもと、正しい方法で治療をすることが非常に重要です。
横浜南共済病院 循環器内科 総括部長
横浜南共済病院 循環器内科 総括部長
日本循環器学会 循環器専門医・FJCS日本心臓病学会 FJCC日本不整脈心電学会 不整脈専門医・植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了者日本心臓リハビリテーション学会 心臓リハビリテーション指導士日本救急医学会 会員日本高血圧学会 会員日本内科学会 認定内科医・内科指導医日本医師会 認定産業医
東邦大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学第三内科(現:循環器内科)へ入局。その後、市中病院での研修や海外留学を経て、2001年に亀田総合病院の循環器内科医長、2004年には部長に就任。2018年4月より現職。循環器疾患の中でも、特に不整脈と心不全を専門としている。日々の診療に尽力する傍ら、講演や研究会なども積極的に行っている。
鈴木 誠 先生の所属医療機関
関連の医療相談が10件あります
慢性心不全は、病名ではなければ私の病名は?
心エコーで、再検査で慢性心不全と診断書に書いてあるのですが。 これは、病名では無いとネットで見かけますがじゃ病名は? 申告する際なんと説明すれば良いでしょう。 (病名など記載しなければならない場面の場合)
右足がつる
1ヶ月程前から、夜中に毎日と言って良いほど、ふくらはぎがつって、驚いて起きます。 放っておけば良い位に考えてますが、何か悪い病があるのですか? 昨日は久しぶりに、朝まで、足がつりません。 毎日筋トレで、大腿四頭筋を鍛える運動をしてますが、ただの足の上げ下げです。何か、それと関係ありますか?その運動は3週間程やってるだけです。
心房細動の再発について
2年前から心房細動と診断されています めまいがきっかけで、3年前に2週間程度入院しましたが、病気がつかめず、ループレコーダーを体内に入れました 2年前に病気が見つかり心房細動と診断されました 2年前にカテーテルアブレーションをしましたが、1年前に再発しました 2回目のアブレーションの時に、1回目の治療をしたところの跡がないと言われました 最近になって体調が悪くなった時があって、病院で心電図をしたところ、心房細動が再発していることが分かりました 3回目のアブレーションは現実的なんでしょうか 通院している病院が、提携している大学病院の専門医が出張でアブレーション治療を行ってくれるのですが、その先生の判断待ちの状態です もし、3回目のアブレーション治療が無かったら、担当医からは薬になるかもしれないと言われました 薬になったら、日常の行動に支障は出ますか もしくは、ほかの治療法はあるのでしょうか 宜しくお願いします
一、二ヶ月前から少し胸が痛む
一、二ヶ月前あたりから胸が痛みます。 場所は左胸だったり、左胸の下あたりだったり、中心や、中心より少し右にずれた辺りなどバラバラです。 痛みは強く無く、軽く机の角にぶつけたくらいの痛さです。(つねられるような、つつかれるような小さな痛みです) 夜に仰向けで寝ていた時によく起きますが、座っている時や歩いている時にも起こります。 また、たまに動悸もするような感じもあります。脈は速くないですが、自分の心音が大きく聞こえるような感じです。乱れはよく分かりません。 生活に支障は無いのですが、怖い病気ではないか心配です。受診したほうがいいのでしょうか? また、若い方でも心臓発作などで亡くなることはあるのでしょうか?よろしくお願いします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「慢性心不全」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。