心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下し、血液循環が悪化することで、さまざまな症状があらわれる状態です。記事3『心不全の治療とは? 心不全のステージ分類と基本方針』では、心不全のステージ分類と治療の基本方針をご説明しました。本記事では、心不全の新たな治療法として注目を集める「和温療法」について、獨協医科大学の中島敏明先生にお話を伺います。
※和温療法は、2018年現在、保険適用外です。
和温療法とは、乾式遠赤外線サウナ装置により、60℃の均等乾式サウナ浴を15分間行い、出たあとに30分間の安静保温を行う治療法です。深部温度がおよそ1度上昇し、その結果、心不全の改善につながる種々の作用をもたらすことが期待されています。
ただし、和温療法は2018年現在、保険適用外です。
和温療法が心不全にもたらす効果として、以下が報告されています 。
など
また、心不全の予後に対する効果としては、心不全による死亡や再入院を減らし、予後を改善するという報告があります。
和温療法では、まず患者さんの体重を計ります。そして、60℃に設定した乾式遠赤外線サウナ装置に入り、15分間サウナ浴を行います。
サウナ装置から出たあとは、30分間温かい毛布にくるまって安静にします。この行程によって、深部体温がおよそ37.5度の状態が45分間ほど続きます。
和温療法のあとにも、体重を計ります。和温療法では150mlほど汗をかくため、すぐに失われた水分を補給します。
重症の心不全患者さんは、ケースによっては運動療法が禁忌(運動することで、かえって心不全を増悪させる)であるため、体が動かせずに運動できないこともあります。しかし、和温療法はそのような心不全の重症患者さんにも実施できる可能性があります。このように和温療法は、高齢者を含めて、これまで治療が難しいとされてきた重症のケースに対して治療の可能性をもたらすことが期待されています。
和温療法は、急性効果として、末梢血管抵抗(血管内を流れる血液の抵抗)の低下や心拍出量を有意に増加させるため、大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症の重症例に対しては、慎重に実行を検討します。なぜなら、これらの病気の重症例は、運動によって意識消失発作(失神)が起きる、あるいは命にかかわることがあり、心拍出量を上昇させるような運動は禁忌とされているからです。
風邪などの感染症がコントロールできていない、あるいは高熱(37.5度以上)がある場合は、和温療法は禁忌とされています。
60℃を維持する和温療法とは異なり、通常のサウナは80℃ほどと温度が高いです。両者は、自律神経への作用が大きく異なります。
80℃ほどある通常のサウナは、交感神経を活発にする作用を持っています。心不全患者さんは交感神経が活性化しているため、通常のサウナは、心不全患者さんに禁忌とされています。一方で、和温療法は副交感神経機能を回復させ、交感神経の活性を低下させるという作用があります。このように、和温療法と通常のサウナはまったく別のものと考えるべきでしょう。
入浴も体を温める作用がありますが、お風呂にはお湯が入っているため、胸まで浸かると胸腔内圧が上昇します。和温療法は、胸腔内圧を上昇させずに深部体温を上げることができるという利点があります。
これまでの研究で、筋肉に温熱刺激を与えることで、筋肥大(筋肉の体積が増加すること)が促進されることがわかっています。私たちは温熱刺激による筋肥大の作用に注目し、和温療法をリハビリに応用する研究を進めています。
高齢化が進むなかで、加齢とともに起こる「サルコペニア」や「フレイル*」をいかに防ぐかは大きな課題となっています。私たちは、和温療法が筋力低下の予防にも有効であると想定した基礎研究も行なっています。
このように、和温療法にはあらゆる可能性が秘められているのです。
フレイル・・・高齢者の身体や精神、社会的なネットワークの脆弱化により、ストレスに抵抗する力が低下している状態をさします。
獨協医科大学病院で行われている例をご紹介します。
当院に入院されている心不全の患者さんは、ケースに応じて、和温療法を週に3〜5日行います。また、運動ができる状態の方は、当院の心臓リハビリテーション室で運動と併用しながら和温療法を実施することもあります。
高齢化が進むなかで、今後さらに心不全は増加していくでしょう。
心不全は、早期に発見し治療を開始することが非常に大切な病気です。もし、何か気になる症状があれば、なるべく早めに病院を受診してください。
獨協医科大学 特任教授
「心不全」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。