心不全は、一度症状が現れ状態が悪化すると体が元の状態まで回復することは非常に難しい病気です。そのため発症を防ぐとともに、症状が起こって一度治まった場合には再発を防止することが重要となります。今回は心不全の悪化および再発の予防について、国立国際医療研究センター病院 循環器内科診療科長の廣井 透雄先生にお話しいただきました。
『心不全とは? 息切れやむくみなどの症状について』でも述べたように、心不全の最初のステージ(病期)は、高血圧などの危険因子はあるものの実際の症状は出ていないという状態です。そこから病気が悪化するとさまざまな症状が現れ、体が病気になる前の状態に戻ることはありません。つまり、心不全による症状が出る前の段階で、病気が悪化するのを防ぐことが大切です。
ここでは、普段の生活の中で心不全を悪化させる原因と、その予防策について説明します。
普段から暴飲暴食をするなど、塩分や水分を多く取り過ぎることが心不全の悪化につながる危険があります。栄養指導を受けるなどして、適切な水分量や塩分量について正しい知識を持っておく必要があります。季節によって汗をかく量が大きく変わるため、日頃から体重を量ったり、どれくらい水を飲んだか覚えておいたりして調節できるのが理想的です。
また食事の用意をご家族などに任せている方の場合は、ご家族も一緒に栄養指導を行うことがあります。
医師から飲むように言われている薬を飲み忘れたり、間違った飲み方で薬を飲んだりすると、心不全に対する薬の効果を得られず、状態の悪化につながることがあります。薬局で薬剤師さんの説明をしっかりと聞き、飲んでいる薬の種類や飲み方などについて正しく理解することが重要です。
また薬の飲み方だけでなく体の状態を小まめに診てもらう意味でも、かかりつけ医への通院は定期的に行うようにしましょう。
特に高齢の方は、誤嚥性肺炎や尿路感染症といった感染症にかかりやすいことが知られています。感染症にかかって、発熱したり食事や水分を十分に取れなくなったりすると、体調のコントロールが難しくなり心不全の悪化にもつながります。
誤嚥性肺炎を防ぐために、食べ物はよく噛んで少しずつ飲み込むようにしましょう。食後はすぐに横にならないことや口の中を清潔に保つことも、誤嚥性肺炎の防止に有効です。
また尿路感染症を起こさないためには普段から適量の水分を取り、トイレを我慢せず適切に排尿することが必要となります。
以上の3つの原因のほか、コロナ禍という現在の情勢ならではの問題として、外での活動が減り筋力や体力が低下することでフレイル(心身が老い衰えた状態)に陥る可能性が挙げられます。
感染症を予防することはもちろん必要ですが、マスクをしたり人の少ない場所や時間を選んだりして外を歩くなど、定期的な運動を続けていただきたいと思います。
心不全は病気の進行度によってステージ分類されており(下図)、そのステージごとに重症度や必要な治療方法が異なります。
このステージは心不全のもっとも初期にあたります。ここから器質的心疾患(心臓の弁・血管・筋肉に異常がある病気)がある状態になると、次のステージへ悪化します。そのため器質的心疾患を起こさないことが、ステージAの治療の大きな課題といえます。
ステージAの治療は、かかりつけ医による血圧やコレステロールに対する服薬治療が中心となります。喫煙される方は、禁煙していただくことも必要です。
ステージBでは器質的心疾患により心臓の動きが悪くなっているものの、心不全の症状は起こっていません。ここでの治療の目標は、心臓の機能が悪化するのを防ぎ、症状を起こさないことです。
具体的には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)といった飲み薬により心臓の機能を保護していくことになります。
心不全の症状が現れるステージCでは、症状を軽減することと、症状の原因に対処してステージDへの進行を防ぐことが治療の目標となります。
具体的には、薬や点滴により水分・塩分を体外に出すのを促して血圧を正常化させたり、あるいは酸素吸入や安静保持したりという対応を行います。
また心臓の弁の異常といった症状の原因が分かっている場合には、原因に対して直接処置を行うなど外科的な方法が選択されることもあります。
これらの治療を行うために、多くの場合は入院が必要です。
治療を行っても症状に大きな改善がみられない(治療抵抗性)ステージDは、心不全がもっとも進行した状態であり、症状の軽減が治療課題となります。
点滴などの治療を続けながら、心臓移植を行うことを視野に入れて補助人工心臓を装着して待機することもあります。
また本人やご家族の意向を尊重したうえで、緩和ケアを行う場合もあります。
先に述べたように、心不全は病状が悪化すると以前の状態まで回復するのは難しいといわれています。そのため心不全の治療では、症状が悪化するのを防ぐことと、悪化した後に再発を防止することが非常に重要です。
症状があって受診した方への再発防止のため、当院では特に以下のことに力を入れて診療しています。
第一に、個々の患者さんに合った治療を行うために、ほかの科の医師やほかの職種のスタッフとの連携を充実させています。
たとえば心臓血管外科の医師とのカンファレンスを毎週開催し、外科手術が必要な患者さんの紹介や、手術を終えた患者さんの治療経過の情報共有などを行っています。
また心臓リハビリテーションを行う医師、普段から患者さんをよく見ている看護師や、循環器疾患の薬剤に精通した薬剤師、生活面の支援を担うソーシャルワーカーといったさまざまな職種が一堂に会して、カンファレンスも行っています。担当の医師だけでは把握できていないような患者さんの情報を共有し、一人ひとりの患者さんにとってより適した方法をチームとして考えています。
チームでの診療をよりよいものにするためには、スタッフ個々のスキルアップも必要です。
新たな学会認定制度として、日本循環器学会が2020年に創設した“心不全療養指導士”という資格があります。当院では医師だけでなく、院内のさまざまな職種のスタッフにこの資格の取得を進めており、すでに取得したスタッフもいます。
また循環器内科医の育成として、大阪にある国立循環器病研究センター病院に赴いて研修を受けてもらっています。異なる環境・異なる指導の下で新たな知識や経験を会得し、当院での診療に役立ててもらうことが目的です。
院内の充実したリハビリテーション施設も、心不全の再発防止に重要な役割を果たしています。リハビリテーションを行うために十分な広さを確保するとともに、専門的な器具を利用できます。
また院内で共通のスペースだけでなく、重症の方向けに病棟内にも心臓リハビリテーション専用のスペースを設けており、病状に合わせて段階的にリハビリテーションが実施できるようになっています。
心不全の発症・悪化を防ぐためには、定期的な受診あるいは健康診断などで診てもらえるかかりつけ医を作っておくことが大切だと考えています。
心不全のステージAやそれ以前の段階から予防に取り組み、異変があったときにはすぐに気付いてもらえるよう医療機関との関わりを持っておくことをおすすめします。
国立国際医療研究センター病院 理事長特任補佐/循環器内科 科長
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