インタビュー

大動脈弁狭窄症と心不全の関連性——適切な治療で心不全の発症、悪化の予防を

大動脈弁狭窄症と心不全の関連性——適切な治療で心不全の発症、悪化の予防を
山本 真功 先生

豊橋ハートセンター 循環器内科 医長、名古屋ハートセンター 循環器内科 、岐阜ハートセンター ...

山本 真功 先生

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日本において、2020年現在で120万人の患者がいると推計される心不全。この心不全の原因の1つとして、大動脈弁狭窄症が挙げられます。大動脈弁狭窄症においては、心不全を合併することで生命予後が著しく悪くなるという研究結果も出ています。今回は、大動脈弁狭窄症と心不全の関連性や、大動脈弁狭窄症に対する早期治療介入が予後にどのような影響を与えるのかについて、豊橋ハートセンター循環器内科の山本(やまもと) 真功(まさのり)先生にお話を伺いました。

心不全は、さまざまな原因によって心臓そのものが悪くなることで体調に異変をきたす状態を表す概念です。代表的な症状としては息切れやむくみなどが挙げられ、こうした症状が徐々に悪化することで、最終的には寿命を縮める原因になります。

心不全には慢性と急性があり、重症度に関わらず状態がほぼ一定しているものを慢性心不全、何らかの原因で慢性心不全が急激に悪化する(慢性心不全の急性増悪)もしくは、元々心臓病がなかったにも関わらず心臓の働きが急激に低下して心不全症状が現れた状態を急性心不全といいます。急性心不全の多くが慢性心不全の急性増悪によるもので、急性増悪を防ぐためにも慢性心不全の方は定期的な外来通院による状態の管理が必要となります。

大動脈弁狭窄症は、心臓から全身に血液を送り出す際に血液の逆流を防止する“大動脈弁”の開きが悪くなる病気で、心臓弁膜症の1つです。弁の開きが悪くなると血液は非常に狭い道を通ることになり、十分な血液を送り出すことができなくなります。その際、心臓はさらに圧力を上げて少しでも多くの血液を送り出そうとします。これにより、筋肉でできた心臓の壁(心筋)が厚くなる“左室肥大”が生じ、さらに心臓内(左室)の空間は狭くなってしまうため、一度に送り出される血液量がいっそう減少するという悪循環に陥るのです。結果的に心臓の負荷が高まり働きが低下し、心不全を合併することがあります。心不全の発症や急性増悪を予防するためには、大動脈弁狭窄症を適切に治療する必要があります。

大動脈弁狭窄症はリウマチ熱の後遺症や先天的な弁の数の異常が原因となることもありますが、原因の多くを占めるのは加齢による大動脈弁の変性です。心臓の弁は血液を送り出すたびに開いたり閉じたりを繰り返すため、年齢とともに徐々に劣化していきます。こうしたことから、大動脈弁狭窄症は加齢に伴って発症する可能性が高まる病気であるといえます。

大動脈弁狭窄症は、中等症で経過観察を行う場合に薬物療法を選択することもありますが、基本的に症状が現れている場合や無症状でもリスクが高い状態では、まず手術治療を検討します。以前は開胸手術が主流で、患者さんへの負担も大きいため治療を行えない方もいらっしゃいました。しかし、2013年、日本で低侵襲のカテーテル治療“TAVI”が認められてからは高齢の方であっても治療できるケースが増えており、弁膜症治療のガイドライン(2020年改訂版)でも80歳以上の方の場合には開胸手術ではなく優先的にTAVIでの治療を検討するとされています。

大動脈弁狭窄症は、未治療の場合ゆっくりではありますが確実に進行していきます。いわば首をゆっくり絞められていくような状態なので、初めはあまり苦しくなりませんが、首を絞めるのを止めない限り徐々に苦しさが増していきます。この状態を未治療のまま放置しておくと、息切れや呼吸困難のほか、失神や突然死を引き起こす可能性があります。

大動脈弁狭窄症においては、治療介入のタイミングが予後に大きく影響します。たとえば、動悸や息切れ、胸痛などが現れた場合に治療をせずに放置をしておくと、平均的な予後は5年程度です。また、同じく症状が出ても治療をしなかった場合、失神が発現したのちの予後は3年程度、心不全を引き起こして入院などをしたのちの予後は2年程度とされます。そのため、こうした症状が現れた場合には手術治療の実施を検討する必要があります。

加えて、医師がTAVIによる治療を提案した方のうち、1回目の提案で治療を行った方とはじめは治療を拒否し2回目以降の提案で治療を実施した方の予後を比較した研究があります。その研究では、1回目の治療提案から1年経過した後の累積死亡率は、すぐに治療を受けた群の方が低いという結果になりました。

注目すべきは、この研究ではあくまでも1回目の提案で治療を受けた方と、結果的に治療をするために戻ってきた方の予後を比較しているという点です。そのまま治療をせずに大動脈弁狭窄症を放置した方の予後は、1回目に拒否した群よりもさらに悪いことが予想されます。こうしたことからも、大動脈弁狭窄症は治療介入のタイミングが非常に重要であるといえます。

普段の診療のなかで患者さんにTAVI治療をご提案すると、治療によって起こり得るリスクへの懸念などから治療をためらう方もいらっしゃいます。しかし、ぜひ皆さんに知っておいていただきたいことは、私たち医師が患者さんに手術や治療をすすめる前には、必ず治療によるリスクと治療をしなかったときのリスクを天秤(てんびん)にかけているということです。つまり、TAVIに限らずどのような治療にも一定のリスクはありますが、病気を放っておくほうが危険であると判断した場合に、治療という選択肢を提示しています。大動脈弁狭窄症は治療をしない限り今日より明日、明日より1か月後と着実に悪くなる病気です。だからこそ“症状が軽度だからまだ治療しなくてよい”のではなく、“症状が軽度のうちに治療をする”というように考えていただくとよいでしょう。症状が軽度のうちに治療を行うことで、よりよい治療効果も望めます。分からない点や不安な点は積極的に医師に相談していただき、理解・納得したうえで治療に臨むことも重要です。

大動脈弁狭窄症は、低侵襲で患者さんへの負担が少ないカテーテル治療(TAVI)の登場によって、より多くの方への治療が可能となりました。大動脈弁狭窄症の患者さんやそれを疑われる方には、ぜひ治療の選択肢がより多い医療機関でご自身の状態について相談していただきたいです。大動脈弁狭窄症の場合、たとえ無症状の場合でもリスクが高い方もいらっしゃいます。大動脈弁狭窄症であることが明確になれば、その状態に合わせてどのような選択をすべきか、医師がアドバイスをすることができます。また、早期発見をすることができれば、定期的な検査による経過観察を続けて必要なタイミングで治療介入を行うことができ、治療効果も最大限に得られることが期待できます。動いたときの息苦しさやつらさを“年のせい”と片付けず、迷ったら一度医療機関の受診を検討してみてください。

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    山本 真功 先生

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