心臓弁膜症の一つである“大動脈弁狭窄症”は、心臓の出口である大動脈弁の開きが悪くなり、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなる病気です。原因はいくつかありますが、なかでも加齢による動脈硬化を原因とするものが多いとされています。近年、高齢化に伴い大動脈弁狭窄症の患者さんは増加しており、日本における潜在患者数は50〜100万人と推定されています。
大動脈弁狭窄症に対しては、どのような治療方法があるのでしょうか。治療の選択肢と方法、治療における多職種連携の重要性について、川崎幸病院 川崎心臓病センター センター長の高梨 秀一郎先生にお話を伺いました。
心臓弁膜症の一つである“大動脈弁狭窄症”は、心臓の出口である大動脈弁の開きが悪くなり、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなる病気です。大動脈弁狭窄症は、症状が現れてからの進行が速く、放置した場合には命に関わることがあるため、一般的に、息切れや胸痛、失神など、何かしらの症状がある場合には、治療を検討します。
大動脈弁狭窄症は無症状のまま進行するケースが多いことをふまえると、大動脈弁の狭窄の程度にもよりますが、定期的に経過を観察し、何かしらの症状が現れた時点で迅速に治療を検討することが重要です。たとえば、狭窄の程度が軽い方は3〜5年ごと、中等度の方は1〜2年ごと、重度の方であれば6〜12か月ごとを目安に、心エコー(心臓超音波)検査を行います。
大動脈弁狭窄症に対する治療には、大きく以下の三つがあります。
症状がなく大動脈弁の狭窄が軽度の場合には、薬を用いて、大動脈弁狭窄症を引き起こす動脈硬化の原因となる高血圧や糖尿病、高脂血症、肥満などの治療を行うことがあります。しかし、これは症状の緩和や進行の抑制が目的であり、狭窄した弁を根本的に改善する治療ではありません。
狭窄した弁を改善する方法としては、開胸手術およびカテーテル治療(TAVI、バルーン拡張術)の二つがあります。
開胸手術は、胸の真ん中にある胸骨を切開し、人工心肺を装着して心臓を止めた状態で弁を置き換える手術のことを指します。これを“大動脈弁置換術”といいます。大動脈弁置換術は、歴史が長く、確立された治療法といえます。ただし、侵襲(身体的な負担)が大きいため、近年では、胸骨を切らない、あるいは小さく切開するMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術)という治療法が行われる例も出てきました。
さらに、開胸手術より低侵襲な治療法として、カテーテル(細く柔らかい医療用の管)を使用する“カテーテル治療”があります。
大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療としては、“バルーン拡張術(BAV)”があります。この治療法は、カテーテルを用いてバルーンを大動脈弁まで運び、バルーンを拡張して狭窄部を広げるという治療法です。開胸手術が難しい患者さんにも行うことができますが、一定以上の割合で再狭窄してしまうというデメリットがありました。
この課題を克服するために生まれたのが、“TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation:経カテーテル大動脈弁留置術)”という治療法です。TAVIでは、カテーテルを挿入して心臓に人工弁を留置します。カテーテルを挿入する場所にはいくつかの候補がありますが、基本的には侵襲性の低い大腿動脈(太ももの付け根にある太い動脈)を選択します。血管の石灰化や狭窄の程度によっては、ほかの場所を選択することもあります。
TAVIのメリットは低侵襲であることと、従来は手術のリスクが高いために治療が困難とされていた高齢の方や持病のある方にも治療の可能性が出てきたことです。一方デメリットとしては、TAVIは2013年に保険収載された比較的新しい治療法であることから、長期的な治療成績が明らかになっていないことが挙げられます。また、弁や大動脈の状態(石灰化、形態)によっては治療のリスクが高いこともデメリットの一つとして挙げられます。
大動脈弁狭窄症を含め、心臓病に対しては、内科的治療(薬など)と外科的治療(手術など)の両方の視点を持って、診断と治療にあたることが非常に重要です。この考えに基づき、私たちは、心臓外科医、循環器内科医、麻酔科医、看護師、理学療法士、作業療法士、臨床工学技士、栄養士などの多職種で構成される“ハートチーム”を結成し、それぞれの専門性を生かした連携体制を整えています(2020年3月時点)。特に、多様な専門性を要する大動脈弁狭窄症のTAVIに関しては、ハートチームが担う役割が非常に大きいと感じています。
私たちハートチームが目指すゴールは、互いにコミュニケーションをとりながら情報共有を密に行い、手術の必要性、治療後の管理方法などを含めて、それぞれの分野から多角的な視点で議論したうえで、患者さん一人ひとりに最善と思われる治療を提供することです。
私たちは、症例検討会や手術検討会議などを通じて定期的に情報を共有し、患者さん一人ひとりに対する治療方針、治療方法の検討を行っています。また、夜間に救急搬送されてきた症例など、緊急で手術の実施を検討する必要が発生した場合には、たとえ少ない人数でも標準的な考え方に沿って治療方針を検討し、迅速に判断するよう心がけています。ハートチームの根底には、日々共に診療を行うなかで培ったチームメイトとの信頼関係があります。
「できる限り多くの患者さんの命を救いたい」という思いを胸に、最善と思われる治療を患者さんに提供することが私たちの使命と捉えています。
大動脈弁狭窄症を含めて、心臓の病気は内科と外科が協力することがたいへん重要です。医師間の連携、そのほか重要な役割を担うスタッフたちと力を合わせ、一人ひとりの患者さんに向き合い、安心して治療を受けていただけるよう心がけています。何か心配なことなどがあれば、遠慮せずにご相談ください。
川崎幸病院 副院長 川崎心臓病センター長 心臓外科主任部長
川崎幸病院 副院長 川崎心臓病センター長 心臓外科主任部長
三学会構成心臓血管外科専門医認定機構 心臓血管外科専門医・心臓血管外科専門医修練指導者日本胸部外科学会 指導医日本外科学会 会員日本循環器学会 会員
1984年、愛媛大学医学部卒業。新東京病院心臓外科部長、榊原記念病院心臓血管外科部長を勤めた後、2019年川崎幸病院 副院長、心臓病センター長兼心臓外科部長に就任した。現在、帝京大、慶應大、東京医科歯科大、慈恵医大、大阪大、国際医療福祉大、各医学部の教授職も兼任、後進の指導にも力を注いでいる。“心臓血管外科医として、できる限り多くの患者さんの命を救いたい”という思いで研鑽に励み、日々患者さんの診療に尽力している。
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