インタビュー

いち早く大動脈弁狭窄症に気付くために——ポイントは活動量の維持

いち早く大動脈弁狭窄症に気付くために——ポイントは活動量の維持
渡辺 弘之 先生

東京ベイ・浦安市川医療センター 副センター長 循環器内科/ハートセンター長

渡辺 弘之 先生

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大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)は高齢の方に多い心臓の病気で、進行すると動悸(どうき)や息切れ、失神などを引き起こします。この病気の恐ろしさは、無症状のまま進行していくケースが多い点にあります。今回は、大動脈弁狭窄症がどのような病気なのか、いち早く症状に気付き診断にたどり着くために、どのようなことに気を付ける必要があるのか、東京ベイ・浦安市川医療センターの渡辺 弘之(わたなべ ひろゆき)先生にお話を伺いました。

大動脈弁狭窄症は、心臓弁膜症といわれる病気のうちの1つです。そもそも心臓には、酸素を含んだ血液を体内に送り出し、体内を巡った血液をまた心臓まで戻すというはたらきがあります。このとき、血液の流れを常に一方通行に保つため、心臓の出口には血液の逆流を防止する役割をもつ“大動脈弁”があります。そして、この逆流防止弁である大動脈弁が炎症や動脈硬化によって開きにくくなるのが大動脈弁狭窄症です。

弁の開きが悪くなることで、そこから血液を押し出すために通常時と比較して心臓には常に負担がかかり続けます。これにより最終的に心不全あるいは突然死を引き起こすなど、寿命に影響する病気です。

心臓の仕組み
心臓の仕組み

これまではリウマチ熱の後遺症で大動脈弁狭窄症を引き起こすことがほとんどでした。しかし、最近もっとも多いこの病気の原因は加齢によるものです。特に高齢化が進む日本では増加傾向にあります。しかし、適切な治療を受けている人は大動脈弁狭窄症患者の半数にも満たないといわれています。

大動脈弁狭窄症は、軽症のうちはほとんど症状を感じません。また重症になっても症状を感じない患者さんもいます。しかし、無症状の間にも狭窄は進行し、命に関わる危険性が高まるため注意が必要です。狭窄が高度になると、典型的な症状として動悸、息切れ、胸痛、失神が現れます。これらの症状自体は重症になるほど出やすい一方で、たとえ重症でも、安静にしているときには出にくく、その特徴が病気の発見を困難にしています。

特に最近は新型コロナウイルス感染症の影響で外出の自粛が呼びかけられるなど、意図せず活動量が低下し、症状に気付くのが遅れるという懸念があります。そのため、可能であれば散歩や買い物に出掛けたり、家の中でも積極的に運動を行ったりして、活動量を維持することが大変重要になります。運動といっても、ジョギングや水泳などを行う必要はありません。

たとえば、家事をご自身で行っている方は家事を行ったときの息苦しさなどで症状に気付く場合もあります。特に症状に気付くことが多い家事として挙げられるのは、腕を上げる物干しや、しゃがんだ状態での浴槽掃除、庭の草むしりなどです。逆に簡単な料理などは活動量としてはあまり負担がかからないようです。このほか散歩や買い物で息苦しさなどを感じた場合には、“年のせい”と片付けずに、一度、医療機関の受診を検討してみてください。

また、体調の変化を長い目でとらえることも大切です。ぜひ意識していただきたいのは“去年まではできたのに、今年できなくなったことはあるか”と年単位で考えることです。実際に、“去年は自宅近くのコンビニやスーパーまで買い物に行っていたのに今年は行かなくなった”あるいは“行くには行けるが途中で休むようになった”という変化への気付きがきっかけで病気が発見されたこともあります。

つまり、大動脈弁狭窄症の症状は動かないと分からないことがあり、特にwithコロナの時代の流れから過度の活動制限を続けると、通常よりも症状に気付きにくくなる可能性があるのです。こうした背景から、ぜひ皆さんには一定の活動性を維持するような工夫をしていただくようお伝えしています。活動性の維持は、フレイルとよばれる高齢者の虚弱状態進行の予防にも役立ちます。

大動脈弁狭窄症にいち早く気付くためには、ご家族の関わり方も極めて重要です。ご高齢の方の活動量が減った(外出しなくなる、階段や坂道を避けるなど)と感じた際には、その理由を考えてみてください。日々、大動脈弁狭窄症の患者さんの診療を行っていると、“動くと苦しいから、動かないようにしている”という方にしばしば出会います。“安静にしていれば症状が出ないから大丈夫”という考え方では、病気の発見がどんどん遅れてしまいます。

ときにはご家族が一緒に散歩に出掛けてみるのもよいでしょう。そして、歩きながらその様子をよく観察し、いつの間にか始まっている息切れ症状に気付くことも病気の早期発見につながる重要なポイントです。もし離れて暮らしており実際に会うことが難しい場合には、電話口などで買い物に行けているか、家事はつらくないか、散歩に行っているかなどを聞いてみるのもよいでしょう。

新型コロナウイルス感染症の拡大期には、医療機関へ行くことをためらわれる方が増えます。そのような場合には、ぜひ病院に行く回数を減らすことができるオンライン診療の活用を検討してください。当院の場合、まずはオンライン診療であらゆる角度から問診を行い、大動脈弁狭窄症などの疑いが強いと判断された場合には予約検査の日程を決めます。検査のための来院は必要ですが、結果の説明は翌日以降オンラインで済ませることも可能です。もちろん、病態や症状などによってオンライン診療の活用の仕方はさまざまですが、通常であれば診断までに3回来院いただかなくてはならないところを、1度の来院で済ませられる点や、検査のみの来院によって病院での待ち時間が短くなる点は、オンライン診療の大きなメリットであるといえます。

実際に80歳代の男性がオンライン診療を利用して当院を受診したところ、大動脈弁狭窄症の疑いが強かったため、来院いただいて検査を行い、診断、治療まで完了したという事例もあります。この男性はゴルフの最中に苦しくなり失神したという、まさに活動時の症状が受診のきっかけでした。

ただ、大動脈弁狭窄症が起こりやすい年齢層の方々の中には、オンライン診療に対して高いハードルを感じる方も多数いらっしゃると思います。そのため、ぜひご家族の方にはオンライン診療の予約や当日のオンライン接続のサポートをしていただき、スムーズな受診へとつなげていただければと考えています。少しでも異変を感じたら、まずは気軽にオンラインで問診を受けるということが浸透していけば、大動脈弁狭窄症の早期発見につながるのではないかと考えています。

皆さんにお伝えしたいのは、“緊急手術は計画的な手術よりもリスクが高まる”ということです。特に今は、新型コロナウイルス感染症を避けたいという思いもあると思います。しかし、大動脈弁狭窄症は心機能に影響を及ぼし、重症化すれば命に関わる危険性もあるため、その診断と治療は決して“不要不急”ではありません。一方、この病気は慢性疾患で急激な進行はまれです。だからこそ、早期の段階から大動脈弁狭窄症であると分かっていれば、新型コロナウイルス感染症の感染状況の波なども鑑みながら計画的な治療を行うことができます。今の時期だからこそ、なおさら事前の準備や計画性が必要になるということです。そのためには、なによりも早期受診、早期診断が重要です。

また、大動脈弁狭窄症と診断された方全員が必ずしも治療を受けなくてはいけないというわけではありません。中には“治療はしない”という選択をする方もいらっしゃいます。ただ、大切なのは“何もできない”のではなく“何もしない”という選択をしているということです。そうした選択を決断するにも一定の時間が必要だと思います。少しでも異変を感じたら、ぜひオンライン診療などを活用しながら早めにアプローチをしていただき、計画的に病気に対処できるようにしていただきたいと思います。

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