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心不全の予防の重要性、それぞれのステージに応じた予防方法

心不全の予防の重要性、それぞれのステージに応じた予防方法
小室 一成 先生

日本循環器協会 代表理事、東京大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学 教授

小室 一成 先生

目次
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心不全は、日常生活で意識して予防を行うことで、ある程度、進行を遅らせることが期待できる病気です。そのためには、処方された薬をしっかりと飲み、急性増悪の原因となる生活習慣を避けることが重要です。

今回は、心不全を予防する重要性と、進行度に合わせた予防方法について、日本循環器学会 前代表理事の小室一成先生に伺いました。

心不全は、進行度に応じてAからDまでの4ステージに分類されます。ステージAやBは、まだ「心不全リスクを持っている」段階です。心不全を発症すると、ステージCに移行します。4つのステージについて、それぞれの特徴をお話しします。

AからDまでの4ステージについて

ステージAは、「心臓に異常はないが、心臓の異常が起こる確率が高い」ステージです。ステージBは、「心臓に異常があるが、息苦しさはない」ステージです。心臓に異常があるとはいえ、まだ心不全ではありません。

心臓は、少々の異常があっても、心臓から出る血液量を一定に保つことができる機能を備えています。たとえば、心臓のはたらきが約2分の1に低下したとき、心臓はその大きさを約2倍に拡大して、血液の出る量を通常と変わらない量に保とうとします。このようなはたらきを“心臓の代償機構”といい、代償機構がはたらいている状態は心不全ではないといえます。

ステージCは、「心臓に異常があり、息苦しさを感じる」ステージです。急性心不全が起こると、非常に強い息苦しさを感じ、救急車を呼ぶ患者さんもいらっしゃいます。酸素吸入、血管拡張薬、利尿薬を投与することで、多くの患者さんは症状が和らぎ、歩いて帰ることができます。しかし、心臓に負担のかかる生活を送っていると、すぐに症状が悪化してしまいます。これを「急性増悪」といいます。

一度心不全を発症すると、慢性心不全に移行します。慢性心不全の患者さんは、急性増悪により入退院を繰り返すことが特徴です。

そして、「治療することが難しい末期の心不全」であるステージDに移行すると、入院の期間が長くなり、退院している期間は短くなっていきます。徐々に元気を失い、やがて死に至ります。

先に述べたように、心不全は、どのステージにおいても予防に取り組むことで、病気の進行を防ぐことができます。心不全はどういう病気で、どういう経過で発症するのかを知り、予防方法を知っていただくことが大切です。それは何よりも、生活習慣の管理と改善であり、必要な場合はきちんと薬を飲むことです。

心不全を発症するリスクがあるステージAとBの方は、心不全の原因となる高血圧糖尿病を防ぐため、生活習慣を整えることが大切です。とくにステージAの方であれば、高血圧、高脂血症、糖尿病にならないように気を付けることが、心不全の予防につながります。さらに、生活習慣の改善によって、ステージAより前の健康な状態に戻れることもあります。

急性心不全を発症し、慢性心不全に移行したステージCとDの方は、急に症状が悪化しないよう、普段の生活で十分に注意することが大切です(詳しくは、『心不全治療後に気を付けることとは? 心臓リハビリテーションの重要性について(安斉俊久先生)』をご覧ください)。

心不全は、一度発症したら完全に治ることはなく、進行していく病気であるため、発症そのものを予防することが重要です。

70歳代や80歳代の高齢者は、心臓に線維が増えて硬くなり、心臓が拡張しにくい状態になっていることから、「心不全予備軍」といえます。とくに、「HFpEF(ヘフペフ)」と呼ばれる、心臓の拡張機能が低下しているタイプの心不全の患者さんが多くみられます。「旅行から帰ってきた晩、急に息苦しくなった」「暑いところで草むしりをしたら、夜になって息苦しくなった」などと、急に息苦しさを感じたことを訴える患者さんが多いです。

高齢者は、暴飲暴食、過労、風邪がきっかけで心不全を発症する可能性があります。食べてはいけないものはとくにありませんが、食塩と食事の量に気を付けてください。たとえば、お酒をたくさん飲み、塩辛いおつまみをたくさん食べるという生活は、心臓の負担となりますので避けてください。また、普段から風邪やインフルエンザの予防を心がけるようにしてください。

心不全は、AからDまでの各ステージで治療方法が異なります。それぞれについて簡単に説明します。

ステージAの患者さんは、心不全のリスクを避けることが大切です。生活習慣の改善が治療のベースとなります。

たとえば、高血圧の患者さんは、食塩の摂りすぎに気を付けていただき、それでも血圧が下がらない場合は、血圧を下げる薬(降圧剤)を用います。とくに心不全を念頭に置いて診療する場合は、ACE(エース)阻害薬や、ARBという高血圧治療剤を選択します。

糖尿病のある患者さんは、生活習慣の改善とともに、心不全に対する効果も期待されているSGLT2阻害薬などを用いて、糖尿病の治療を行います。

高脂血症のある患者さんは、コレステロール値を下げるために、スタチン系の薬剤を用います。

ステージBの患者さんは、すでに心臓に異常があるため、患者さんの心臓の状態に応じた薬剤を使用して治療します。心筋梗塞(しんきんこうそく)を発症した患者さんには、主にACE阻害薬やβ遮断薬を用います。左室肥大のある患者さんには、ACE阻害薬やARBを用いますが、血圧が十分下がらない場合は、降圧利尿薬やカルシウム拮抗薬などを追加します。

ステージCの患者さんは、心不全を発症し、体に水分がたまっている状態です。そのため、水分を排出しやすくする利尿薬を用います。それとともに、生命予後の改善効果があるMRAという薬剤を用いることが推奨されています。

ステージDの患者さんは、治療が難しい状態です。心不全の患者さんを診療する設備が整った病院で、心臓の収縮を強くするような強心薬の投与や、大動脈内バルーンパンピングや経皮的心肺補助装置、補助人工心臓などの機械的な補助を行います。

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