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今だからこそ、心不全予防の重要性を伝えたい

今だからこそ、心不全予防の重要性を伝えたい
小室 一成 先生

日本循環器学会代表理事 東京大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学 教授

小室 一成 先生

目次
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心不全は、一度発症すると完治することは難しく、予後(見通し)の悪い病気です。しかし、よい生活習慣を心がけることで、発症を抑えたり、進行を抑えたりすることができます。日本循環器学会は、心不全予防の重要性を啓発するため、さまざまな取り組みを行ってきました。そのひとつとして、2016年12月16日にプレスリリースした「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」では、脳卒中、心不全、血管病という重要3疾患を克服し、日本人の健康寿命の延伸を達成するために、5つの戦略を掲げています。

今回は、重要3疾患のひとつである心不全の予防の重要性と、同学会の取り組みについて、日本循環器学会代表理事の小室一成先生に伺いました。

近年、日本人の2人に1人が生涯でがんになるといわれています。しかし、実は、心不全をはじめとする循環器疾患のほうが患者さんの数は多く、世界中で増え続けていることが問題となっています。

心不全は、がんと同じくらい予後(見通し)の悪い病気で、命に関わります。しかし、患者さんご自身の心がけ次第で、進行を抑えることが期待できる病気でもあります。私たちは今、国民の皆さん一人ひとりに心不全の予防を心がけていただたいという思いから、心不全の啓発に力を注いでいます。

記事2「心不全の予防の重要性、それぞれのステージに応じた予防方法」でも述べたように、心不全は、それぞれの進行度に合わせて予防することが重要な病気です。だからこそ、患者さんご自身に、心不全のことをよく理解していただけたらと考えています。

私が代表理事を務める日本循環器学会は、専門医の育成、診療ガイドラインの作成、学術集会の開催などを行っている学会です。しかし、今までと同じ業務を続けているだけでは心不全の患者さんの入院や死亡を減らすことはできないという思いから、このたび、心不全の啓発活動に乗り出しました。心不全のリスクを持つ方をはじめ、国民の皆さん一人ひとりに、心不全とは何か、どうしたら予防できるのかを、伝えていきたいと思っています。

これまで、循環器疾患のなかでとくに重要視されていた病気は、急性心筋梗塞でした。厚生労働省が定めた代表的な「5疾病」に含まれます。そして、日本では、急性心筋梗塞の治療を中心に考えた診療のシステムの確立が進められてきました。胸の痛みを感じたら救急車を呼び、救急病院で治療を受け、心臓リハビリテーションを行って退院するという一連の流れが確立したことで、急性心筋梗塞で亡くなる患者さんの数は減少傾向にあります。

一方、心不全の診療システムは、まだ確立していません(2019年8月時点)。心不全は、急性期の治療も重要ですが、急性期治療後の患者さんへのサポートも重要です。治療を終えると患者さんの多くは退院していきますが、症状が急激に悪化して、入院と退院を繰り返してしまう方が多いのです。心不全の患者さんの入院や死亡を減らすためには、多職種連携によるチーム医療や、地域において急性期から回復期、慢性期を通じた継続的な医療体制が必要です。けれども、心不全治療に適した診療体制はまだ整備されておらず、あるべき診療システムがまだ十分に機能していないことが、大きな課題となっています。

現在、日本の平均寿命は延び続けており、2017年時点で女性は世界で第2位、男性は3位となっています。しかし、平均寿命が延びたとはいえ、健康上の問題によって制限された日常生活を送っている方が数多くいらっしゃることも事実です。

健康上の問題がなく、健やかに日常生活を送ることができる期間、つまり健康寿命と、平均寿命の間には、男性で9年、女性で12年の差があるといわれています。この約10年間は、寝たきりの状態や、介護を受けながら生活する、健康ではない期間ともいえます。人生の最後の10年間も楽しくしたいものです。

そこで、国民の健康寿命を延伸し、健康寿命と平均寿命の乖離を少しでも短縮することを目標として、私たち日本循環器学会と日本脳卒中学会は関連する多くの学会と、2016年12月16日に「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」をプレスリリースしました。そして、脳卒中、心不全心筋梗塞などの血管病を重要3疾患と定め、それに対する5つの戦略を掲げ、「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」の達成を目指しています。

脳卒中と循環器病克服5カ年計画」では、脳卒中、心不全心筋梗塞などの血管病を重要3疾患と定め、それに対する5つの戦略を以下のように掲げました。

  1. 医療体制の充実
  2. 人材育成
  3. 予防・国民への啓発
  4. 登録事業の促進
  5. 臨床・基礎研究の強化

ここからは、それぞれの戦略のねらいについて、説明します。

*5つの戦略の内容については、「日本人の健康寿命を延ばすための『脳卒中と循環器病克服5カ年計画』(岸拓弥先生)」で詳しくお話ししています。

5戦略のうちのまず1つ目は、医療体制の充実です。

先に述べたように、心不全の診療では、急性期から回復期、慢性期に至る一連の診療体制をシームレスにつなぐ体制を構築する必要があります。本計画期間中の5年間のうちに、救急搬送、急性期医療、リハビリテーション、在宅療法などの現状を可視化します。そのうえで、PDCAサイクルを繰り返しながら、初期対応時の連携体制、再発防止に向けた医療体制、さらに生活の質の維持を目指した在宅療養など、シームレスな医療体制の整備を進めます。

2つ目の戦略は、人材育成です。

本計画を実施するためには、心不全患者さんを適切に診療するための人材育成が重要です。これまでは、急性期の診療が中心に考えられてきたため、専門医の育成に力を注いできました。しかし、回復期や慢性期の患者さんを含む心不全の診療をするためには、医師だけではなく、看護師、理学・作業療法士、医療ソーシャルワーカー(MSW)、精神保健福祉士(PSW)などの医療専門職、さらには、臨床研究推進を担う人材や医療行政との懸け橋となる人材など、幅広い職種の力が欠かせません。このため、大学や病院だけではなく、研究機関や行政、企業などと協力して、人材の発掘からキャリア形成支援まで、育成システムの継続的な支援に取り組みます。

3つ目の戦略は、予防・国民への啓発です。

循環器病や心不全とは何なのか、ほとんど知らないという方が多いのが現状だと思います。循環器病や心不全は、高血圧メタボリックシンドロームといった身近な病気がきっかけとなって発症・進行する病気です。そのため、適切な予防をすることで、病気の発症を抑えるだけではなく、健康寿命の延伸にもつながります。

そのため、行政や企業などとの連携を通じた包括的な予防戦略を立てるとともに、国民への啓発の充実を図ります。

4つ目の戦略は、登録事業の促進です。

先に述べたように、心不全の患者数は約100万人と推計されていますが、実際に何名の患者さんがいるのかは明らかになっていません。本計画の登録事業の促進により、高齢者医療の全体像の把握や、症例登録や治験などへの活用、そして、過剰医療の抑制による医療費の適正化などが期待できます。

また、日本循環器学会はこれまでに60以上の「診療ガイドライン」を作成してきましたが、それらが全国の医師にどれだけ読まれているのか、ガイドラインに沿った治療は行われているのか、ガイドライン通りに診療した結果はどうだったのか、いずれも明らかになっていません。ガイドラインをしっかりと検証していくためにも、登録事業の促進は急務であると考えています。

最後の5つ目に挙げる戦略は、臨床・基礎研究の強化です。

がんは、基礎研究の進歩により発症機序が解明され、機序に基づいた治療が確立されたために、早期発見や早期治療で治る時代になってきました。一方心不全に対しては、心臓を休ませるといった対症療法にとどまっており、根本的な治療法は確立されていないのが現状です。したがって、心不全をはじめとする循環器疾患の原因や病態を明らかにし、病態に基づいた治療法を確立することは、脳卒中と循環器病の克服と、健康寿命の延伸に必ずつながるものと確信しています。

本戦略では、研究効率の向上や基礎研究の強化、そして、基礎研究を臨床応用へとつなげるための産学官連携による橋渡し研究を支援し、できるだけ多くの治療薬の開発、医療機器の開発などを目指します。

近年、「がん対策推進基本法」や「がん登録等の推進に関する法律」の成立によって、がんの研究や治療が進んだことを踏まえて、私は、「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立を求めて活動を続けてきました。幸いにも、この基本法は2018年12月に成立し、2019年12月1日に施行となりました*。この「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立によって、日本の循環器診療は大きく変わることを期待しています。

私は、これからも、日本循環器学会代表理事として、「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」の実行に全力で取り組みます。そして、脳卒中と循環器病を克服し、日本のみなさんの誰もが、健康で健やかな生活を送ることができる社会の実現を目指します。

*健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(令和元年政令第140号)

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