インタビュー

急性心不全とはどんな病気か?

急性心不全とはどんな病気か?
日本心臓財団

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この記事の最終更新は2016年11月04日です。

心不全とは心臓の機能、つまり全身に血液を送り出すポンプの力が低下した状態の総称で、あらゆる臓器を含め全身に必要量の血液を送り出すことができなくなったり、肺や全身に血液が滞るうっ血状態になったりする病態です。心不全には大別すると、慢性心不全急性心不全がありますが、心臓のポンプ機能が「急激に低下」することによって血液循環が維持できない状態と血液が滞るうっ血状態とが短期間のうちに起こることを急性心不全と呼んでいます。

心不全には収縮不全と拡張不全とがあります。収縮不全は血液を送り出す力の低下した状態ですが、拡張不全は血液が心臓にもどりにくくなった状態です。両者はしばしば伴ってみられます。

急性心不全の原因として最も多いのは突発的に発症する急性心筋梗塞などの虚血性心疾患です。心臓を動かすための筋肉(心筋)に必要な酸素や栄養素を送る冠動脈が閉塞して、心筋の一部が酸素不足(虚血状態)に陥ってしまうことに起因します。一方で、慢性的な心不全を抱えている患者さんの容体が急激に悪化して起こる場合もあります。

たとえば、

その他にも先天性心疾患甲状腺機能亢進症不整脈糖尿病などは慢性心不全を引き起こす原因となります。慢性心不全を患っている患者さんが、精神的・肉体的ストレスを受けたり、暴飲暴食をしたり、風邪や感染症にかかったり、あるいは貧血妊娠などをきっかけに急性心不全を起こすことがあります。

代表的な症状としては、激しい呼吸困難や咳き込み、血痰、胸部の痛み・圧迫感、脈拍数の増加、動悸、乏尿、腹部膨満、冷や汗、顔面の皮膚蒼白、冷感、浮腫、腹水、全身が酸素不足に陥いると唇や爪先、皮膚や粘膜などが青紫色に変色するチアノーゼ、さらに意識障害が現れることもあります。多くの場合、血圧は低下します。

急性心不全の診断はまず、自覚症状と病歴の確認、および全身状態の診察からはじまります。また急性心不全を引き起こすようなきっかけ、持病の有無を確認します。病態を詳細に把握し、予測を行いながら、診断・治療につなげていきます。急性心筋梗塞が原因であれば、緊急のカテーテル治療が必要になります。以下のような検査を行いながら、これらの可能性を一つずつ検討していきます。

心電図検査

この検査では、両手足と胸に複数の電極を取り付けて、心臓から発生する微弱な電気信号を取り出し、その電気的活動を記録します。これにより、急性心筋梗塞や心筋症の所見が現れていないか、また不整脈がないかなどを確認します。急性心不全の原因追求には不可欠な検査です。

心エコー図検査

心臓に超音波を投入し、心臓の筋肉や弁の動きを画像にするのが心エコー検査です。心臓の収縮力や拡張力を評価したり、心臓の壁の厚さを調べることで心臓の動きや心肥大の有無を確認します。心筋の一部が収縮運動をしていなければ、心筋梗塞の可能性を考え、場所と範囲を特定します。また、血液の流れる速度や方向も確認でき、弁構造を可視化できるので、弁逆流や弁狭窄などの弁膜症の診断にも有効です。リアルタイムで心臓の動きを確認できるため、診断やその後の治療方針を決定する上で重要な検査です。

胸部X線検査

心臓と肺の状態を詳細に観察するために胸部X線検査が行われます。特に急性心不全においては、肺うっ血像の確認に不可欠です。

血液検査

急性心不全が疑われる患者さんから採取した血液中の血液ガス、電解質やたんぱく質など特定の成分値を調べます。急性心不全では動脈血の酸素含量が低下します。激しい呼吸困難があるときには二酸化炭素含量も減少する傾向があります。クレアチニンフォスフォキナーゼやトロポニンなどの心筋細胞成分が逸脱していれば、心筋梗塞と診断できます。BNPが上昇していれば、心臓壁の伸展、つまり心臓への負荷状態が推測され、その他の異常値についても、腎臓や肝臓のうっ血を推測できる場合があります。

呼吸困難に対しては酸素吸入を行ないますが、高度の肺うっ血のために動脈血の二酸化炭素含量が高いときに呼吸を抑制するとCO2ナルコーシスと呼ばれる意識障害を起こして状態が悪化する危険があります。動脈血のガス分析はこの意味でも大事なことです。

カテーテル検査

カテーテルと呼ばれる細い管を足の付け根や手首などの動脈、あるいは頚静脈から体内に挿入し、肺静脈に留置します。これによって、うっ血の指標である肺静脈楔入圧を測定し、心拍出量も測定できます。こうして心不全状態を定量的に計測しながら、管理することが可能です。

さらに心筋梗塞などが疑われる場合には、カテーテルを動脈に挿入し、冠動脈にまで進めて造影検査し、冠動脈血管の形や狭窄、あるいは閉塞箇所などを知ることができます。急性心筋梗塞が疑われるときには、冠動脈のカテーテル検査を緊急で行うことが必要ですが、いそがない場合には、心不全が落ち着いてからの精密検査の一環として行います。

急性心不全が生じた場合、まずは呼吸困難の改善と臓器のうっ血改善を早急に行う必要があります。いわゆる救命救急措置が最優先となるわけです。そこで、万一の場合に備えて蘇生措置も取れる体制の中で治療を進めます。

一般的に行われる初期治療は酸素療法と投薬です。酸素療法は呼吸の安定化と共に動脈血の酸素含量を高め、臓器虚血を改善させる大事な措置です。また、投薬はうっ血を改善し、血液循環の改善をはかることを目的とします。

急性心不全を起こしたときに、心臓が収縮した際の血圧(収縮期血圧)が100mgHg以下と低いときには、血圧を上げる昇圧薬や強心薬を用います。収縮期血圧に異常が認められない場合や高値である場合には、硝酸薬やカルペリチドなどの血管拡張薬を投与し、血液の臓器循環の改善を図ります。うっ血の改善には体内水分貯留を防ぐ利尿薬を使用します。

これらの措置により急性期の発作的症状が治まった後は、入院安静の状態を保ちながら心不全の原因特定のための精密検査を行い、その後の治療・手術方針を決めていきます。すなわち、心不全に至った原因となる基礎疾患によっては、狭心症に対する心臓カテーテル手術や心臓弁膜症の手術、不整脈に対する治療、あるいは手術やペースメーカの植え込みなどが検討されます。場合によっては心臓移植が検討されることもあり得ます。

もちろん、内科的治療も非常に重要です。原因や基礎疾患によって、継続的な投薬治療・管理が続けられていきます。

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      国家公務員共済組合連合会立川病院 顧問

      みたむら ひでお
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      慶應義塾大学 循環器内科 教授

      ふくだ けいいち

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      慶應義塾大学 循環器内科 専任講師

      こうさか しゅん

      内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産科、婦人科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、放射線診断科、放射線治療科、精神神経科、総合診療科、病理診断科

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      医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 循環器センター・循環器科 部長

      とうはら さとる
      唐原先生の医療記事

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      東京都墨田区東向島2丁目27-1

      東武伊勢崎線「曳舟」駅直結  都バス:錦40 錦糸町⇔南千住 墨田区曳舟文化センター前から徒歩3分  京成バス:墨田区循環バス 北西部ルート 曳舟文化センターから徒歩3分 徒歩、京成押上線「京成曳舟」 徒歩6分

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