アミロイドーシスとは、アミロイドという蛋白が全身に沈着する病気です。アミロイドが心臓に沈着した場合は「心臓アミロイドーシス」と呼ばれます。心臓アミロイドーシスは非常に予後が悪い病気で、全く治療のしようがないと考えられていましたが、最近になり新薬などの開発が進み、治療できる可能性が生まれてきています。心臓アミロイドーシスの治療を確実に行うためには、早期発見が何よりも重要だといいます。引き続き、北里大学北里研究所病院循環器内科部長の猪又孝元先生にお話しいただきます。
アミロイドーシスとは、アミロイドという蛋白が全身に沈着する病気です。
アミロイド蛋白は1つではなく、現在では31種類確認されています。
アミロイドーシスには加齢によって生じるもの、血液疾患の一症状として出現するものなど様々なタイプがありますが、循環器内科医からみても重要だと考えるのは、心臓にアミロイドーシスが起きているか否かで患者さんの予後が大きく左右されるということです。
実はこれまで、心臓アミロイドーシスと診断がついた患者さんに対し、我々は「もう手の施しようがない」と判断していました。心臓アミロイドーシスは極めて予後が悪く、特にALアミロイドーシスと呼ばれるタイプの場合、生命予後は数カ月程度とされてきたのです。
ところが最近になり、この心臓アミロイドーシスを治療できる可能性が出現してきました。
現在注目されているのは、2015年初頭に登場したタファミジスメグルミンという薬です。タファミジスメグルミンは、「トランスサイレチン」という心臓に多いタイプのアミロイド蛋白の重合を防ぐことで、アミロイドの蓄積を防ぎます。
タファミジスメグルミンの治療対象は本来「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)」というアミロイドーシスにおける神経症状が主体であり、保険適用となっているのも神経症状に対してですが、このタイプのアミロイドーシスでは神経と同時に心臓も障害されるので、心臓の症状に対する投薬の場合も保険適用となります。
その他トランスサイレチンによるアミロイドーシスには、老人性心アミロイドーシス(加齢によって起こるアミロイドーシス)というタイプのものもあります。
生前は健康であったとされた90歳以上の方に対して心臓剖検(ぼうけん:解剖して調べること)を行ったところ、10%前後にアミロイドの蓄積が認められたという報告がされています。つまり、実は心臓アミロイドーシスであったのに単純な「老人病」と誤解され、正しい診断ができていなかった高齢者が多くいるかもしれないのです。
トランスサイレチンによって起こる老人性アミロイドーシスについては、世界的に治療薬の治験が行われている段階です。もしもこれらの薬が保険適用で使用できるようになった場合、治療に大きな展開が生まれるかもしれません。
タファミジスメグルミンの心臓に対する長期的な効果はまだよくわかっていません。しかし、これまで手の施しようがなかった心臓アミロイドーシスに対して、医師や医療界が「心臓アミロイドーシスをしっかり診断していこう」という機運が高まってきたことは非常に大きな変化だと考えています。
先ほど、心臓アミロイドーシスの原因がALというタイプのアミロイドの場合、非常に予後が悪いとご紹介しました。免疫グロブリンという蛋白の異常によって、ALアミロイド(蛋白)がある意味がんのようにクローナルに(単一的に)産生されます。ALアミロイドーシスではアミロイド蛋白が心臓を含めた全身のあらゆる臓器に沈着し、臓器障害をきたします。
ALアミロイドーシスも非常に予後が不良とされ、心臓病変を併発する場合対症療法をしていくしかないとみなされてきましたが、最近ではALアミロイドーシスに対する有効な治療法が次々に登場してきています。
たとえばALアミロイドーシスに対しては、まず強力な免疫抑制治療を行い、そのうえで末梢血幹細胞移植(PBSCT)をして血液を補充する治療を行うことがあります。また、免疫調整剤という方法も有用であることが判明しつつあります。
(末梢血幹細胞移植の流れ)
免疫抑制治療や末梢血幹細胞移植は、ある程度の心機能が保たれていないとできない治療法ですが、かつては循環器内科でもほとんど手がつけられなかった病気に治療の術が出てきたことは大きな進歩だといえます。
とはいえ、心臓アミロイドーシスは予後が悪い病気であることは事実です。
病状があまりに進んだ状態では、終末期医療の観点から考えて、どこまで患者さんに治療をすることが良い医療なのかは意見が分かれるところです。
ですから、心臓アミロイドーシスは治療よりも、いかに軽症の時期に病気を発見できるか、つまり早期診断が重要だと考えます。手の施しようがない状態になってから発見しても、介入の方法は極めて限られてしまうからです。
心臓アミロイドーシスは循環器内科医であっても診断が難しい病気です。
心臓アミロイドーシスでは心筋にアミロイド蛋白が沈着するため、一見すると心筋が肉厚になり、心臓が肥大している(心肥大)ようにみえます。心肥大は高血圧などの生活習慣病によっても起こる症状であるため、心臓アミロイドーシスとは気づかれず、一般的な診断がついてしまう場合が多くあります。最近では、心肥大の原因の一部に心臓アミロイドーシスが潜んでいるとの報告が散見されます。
先述したように、心臓アミロイドーシスは治療の面では希望がみえつつある段階に来ていますが、弱った心臓には回復能力がないので、心筋が脱落してから病気を発見してもそれ以上治療を進めることができません。今後どのように診断法を確立していくかが、心臓アミロイドーシスの患者さんを救うために重要なポイントといえます。
心肥大を引き起こす一般的な病気には高血圧や大動脈弁狭窄症などが挙げられます。
こうした疾患がないにもかかわらず心肥大がみられる場合、そこが心臓アミロイドーシス診断のスタートポイントとなります。
ふたつめのポイントは、心電図検査で通常のパターンとは異なる波形がみられるという点です。
筋肉が厚くなっている理由として多いのは心臓の筋肉量の増加です。筋肉量が増加している場合、心電図をとると筋肉の活きを表す「R波」が高くなります。
しかし、心臓アミロイドーシスでは筋肉量が増えているのではなく反対に痩せており、沈着したアミロイド蛋白が心筋を厚くみせているだけですから、R波が低くなるのです。
心電図から心臓アミロイドーシスの疑いを感じられれば、精密検査に進みます。
精密検査には心臓生検、あるいは心臓MRIが用いられますが、腎機能障害を合併している患者さんには造影剤が使えない場合があるので、これらの検査がなかなか実施できません。
この場合、腹壁脂肪生検(ふくへきしぼうせいけん:腹壁の脂肪を一部採取する検査)を行うと、アミロイドの沈着が確認される場合があります。この検査は比較的簡単な方法であり、患者さんにとって精神的なハードルも低いので、心臓アミロイドーシスが疑われる場合は腹部の脂肪の採取によって診断がつく可能性があることを知っておくとよいでしょう。
現在のところ、循環器内科のなかにも心臓アミロイドーシスの所見を十分に知らなかったり、知っていても診断や治療を諦めてしまう医師がいるのが現状です。
しかし、心臓アミロイドーシスの治療に選択肢が出てきたため、今後は早期診断の重要性がますます高まってきます。医師は心臓アミロイドーシス特有の異常を知り、検査で発見し、所見を足し合わせていきながらなるべく早く確定診断にたどり着く必要があります。
繰り返しになりますが、心臓アミロイドーシスはかつて手の施し様がないと考えられてきた疾患でした。しかし現在では早期発見すれば治療介入できる可能性が出てきています。循環器内科医をはじめ、多くの医師が心臓アミロイドーシスについて知識を深め、診断がついても諦めることなく患者さんをサポートしていってほしいと思います。
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心不全の治療について
時系列 昨年末 亜急性心不全にてカテーテルステント施術 本年1月 洞不全症候群にてペースメーカーの埋込施術 6月12日 慢性心不全増悪にて入院 6月20日 心筋シンチグラフィ 6月22日 カテーテル生検 6月23日6時 容態急変により心停止(蘇生まで30分程度)HCUへ移動 6月23日14時 再度心停止(蘇生まで10分程度) 6月27日 意識回復(手を握り返す) 6月28日 好きな野球チームの話しで笑う。 6月29日 人工呼吸器外し、酸素マスクに変更。 6月30日 生研の結果、心臓アミロイドーシスが確定 7月1日 声は出ないが、口の動きから私の名前を呼んでいることを確認 ----------------------------------- 輸血、透析、点滴等の治療にて、腎臓等の数値は回復しているが、 心肺機能は、かなり落ちていて、体力、気力も落ちている言われる。 今後、容態悪化の折は、麻酔をして再度、人工呼吸器をつけるか、判断を聞かれています。 主治医によると、麻酔をして人工呼吸器をつけると、覚醒する確率はかなり低いと言われました。 質問は、現況において、麻酔をして再度人工呼吸器つけると意識回復はしないものなのでしょうか。 また、つけた場合の余命は、どの程度になるでしょうか。 家族としては、ある程度覚悟はできておりますが、少しでも苦しまない状況を望んでいます。 ご助言頂ければ幸いです。
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