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インタビュー

舌の側面に歯型がのこる?ALアミロイドーシスの診断と最新治療

舌の側面に歯型がのこる?ALアミロイドーシスの診断と最新治療
鈴木 憲史 先生

日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンターセンター長・薬剤部長・輸血部長

鈴木 憲史 先生

アミロイドーシスの原因となるアミロイドを、私はデンジャラス・プロテインと呼んでいます」と語る、日本赤十字社医療センター・骨髄腫アミロイドーシスセンター長の鈴木憲史先生。

正常なプロテインは、人体に有益なものですが、アミロイドはベトベトとして、血管や臓器に沈着するとその動きを妨げます。常に動き続けている心臓をスポンジにたとえるなら、アミロイドが沈着した心臓は、一度に吸える水の量が減ってしまった状態といえます。何度も細かく動かさなければならず、心機能障害をきたした状態に陥ります。同様に、腎臓ではネフローゼ症候群、消化器管では穿孔が起こることがあるそうです。では、アミロイドーシスが疑われる場合の診断方法と、最新の治療方法にはどのようなものがあるのでしょうか。引き続き、鈴木先生にお話しいただきました。

ALアミロイドーシスが疑われる場合は、血液検査を行い、血清中の免疫グロブリンの遊離軽鎖であるフリーライトチェーン(FLC)を調べます。体内に細菌やウイルス等の外敵が侵入してきたとき、それを攻撃するために発生する免疫グロブリンは、2本の重鎖と2本の軽鎖が結合して構成されており、白血球の一種である形質細胞から産出されます。

この形質細胞は重鎖より軽鎖を多く分泌することから、余った軽鎖は遊離軽鎖(カッパ鎖とラムダ鎖)として血液中に放出されます。これがフリーライトチェーンであり、ALアミロイドーシスを発症すると、多量のFLCが発生します。

また、腹壁脂肪吸引生検も診断のヒントとなります。腹部から採取した皮下脂肪を、コンゴーレット色素を用いた染色検査にかけると、アミロイドが沈着している場合は薄いピンク色に染まります。

コンゴーレット色素を用いた染色検査

(コンゴーレット色素を用いた染色検査 写真提供:宮崎寛至先生、鈴木憲史先生)

偏光顕微鏡下で観察すると、黄緑色の独特な偏光を呈するという特徴もあります。さらに、骨髄穿刺で単クローン性の形質細胞の有無を調べるのも有効です。

偏光顕微鏡下で黄緑色に光るアミロイド

(偏光顕微鏡下で黄緑色に光るアミロイド 写真提供:宮崎寛至先生、鈴木憲史先生)

前項でご紹介した3つの検査は、ALアミロイドーシスの類似疾患である多発性骨髄腫を判別するのにも有用です。多発性骨髄腫とALアミロイドーシスはオーバーラップすることも多く、その境界は曖昧な点もあります。

人口10万人中に5人程度で、60-70代に好発する「悪性腫瘍(=がん)」

人口100万人中に5人程度で、50-60代に好発する「特定疾患」

発症頻度は、多発性骨髄腫ではアミロイドーシスの約10倍とされています。多発性骨髄腫の治療には保険適用となるさまざまな薬剤等が用いられますが、通常の保険診療です。

一方、ALアミロイドーシスは薬剤等の種類は少ないものの、特定疾患に指定されているため、治療費を国が支援してくれます。

(関連記事:「多発性骨髄腫はどんな病気?」)

先述した3つの検査で異常が認められた場合は、「ALアミロイドーシスを発症している可能性が高い」と判断し、直ちに治療を始めるべきです。ALアミロイドーシスは難病であるがゆえに、診断をつける医者も慎重になる傾向があり、ありとあらゆる検査をしてしまうことがあります。

しかし、検査の予定を立ててから結果がわかるまでの期間にも病気は進行し続け、重篤な状態になってしまうこともありえます。フリーライトチェーンの検査であれば、1日~数日で結果が出る施設も多いはずです。そこで異常が発見されたなら、患者さんの貴重な時間を無駄にしないためにも、その時点で専門施設に紹介してください。日本赤十字社医療センターでは、「疑わしい場合は(実際にはALアミロイドーシスでなくとも)紹介してほしい」という姿勢をとっています。

全国の医療機関の方には、確信が持てない場合でも時間をかけすぎず、早期段階で紹介していただきたいとお伝えしたいです。

現時点では、ALアミロイドーシスの根治療法はありません。ただし、治療によって血液学的寛解まで回復することは実際にあります。まずはフリーライトチェーンの正常化を目指すのですが、これは患者さんのうち約7割の方が到達することができます。

一方で、臓器学的寛解はむずかしく、約4割の方しか到達できないとされています。いずれの場合も、治療を中断すると再発するため、「完全治癒」とは言えません。いつまで治療を続ければよいかの基準は、現時点ではありません。また、血液は寛解しても臓器は回復せず、場合によっては人工透析を受けざるを得ない状況に陥ってしまう患者さんがいらっしゃるのも事実です。

ALアミロイドーシスと診断されたごく初期の段階で、2~3割の方が不整脈からの心不全突然死なさることがあります。医師として辛いことですが、さらに発症後2~3年たってから人工透析が必要になる患者さんもいらっしゃいます。人工透析を避けるためにできることはないか、日々検討しているところです。

ALアミロイドーシスの治療法で、現在有効とされているのは、MD療法(メルファラン、デキサメタゾンの2薬を併用する薬物療法)と自家末梢血幹細胞移植(あらかじめ採取しておいた、自分の造血幹細胞=血液を作る細胞を戻す治療)です。いずれも、異常となった形質細胞のもとを絶ち、血液中から減少していくのを待つ形の治療となりますが、この治療法が進められるようになってから2016年現在でALアロイドーシスの予後は改善してきたという確かな手ごたえがあります。長く「不治の病」と恐れられてきましたが、救命できた方も実際におられます。

もっとも、現時点ではすべての患者さんを助けられるわけではありません。血管に大量のアミロイドが沈着してしまい、頭部を心臓より高くするだけで、意識を失ってしまうほど重篤な方は、むずかしいといわざるのを得ないのが現状です。

日本赤十字社医療センターでのALアミロイドーシス移植例の全生存率

(日本赤十字社医療センターでのALアミロイドーシス移植例の全生存率 画像提供:塚田信弘先生、鈴木憲史先生)

組織に沈着したアミロイドを融解させる治療法は開発段階ですが、現在期待が高まっているのが、抗体療法です。海外で治験が始まっているものもあり、今後日本国内でも使用できるようになるのではないかと予測しています。この抗体療法が確立されれば、臓器に沈着したアミロイドを早めにしっかりと減少させることもできるのではないかと考えられます。

また、茶カテキンが有効なのではないかともいわれていますが、「著しく効果がある」とまでは断定できないのが現状です。

日本赤十字社医療センターには、全国からアミロイドーシスの患者さんがいらっしゃいます。他院で何度も治療を受けても回復せず、絶望感を持って来られる方も多いものです。このような患者さんたちに対し、私はあえてトリアージは行わず、全例に治療を試みます。やってみなければ、救えるか救えないかはわからないからです。厳しい状況の人にでも、治療を試みること、治療前にあきらめないことを自身の信条としています。

しばしば患者さんに対し、アミロイドーシスを「雪野原」にたとえてご説明することがあります。雪は、音もなくしんしんと降り積もり、気がつかないうちに辺り一面が雪野原になっていることも珍しくありません。アミロイドーシスも、アミロイドという異常たんぱくが、いつの間にか臓器に蓄積し、ついには心機能にまで異常をきたしはじめるものです。その段階で、ようやくアミロイドの存在に気づいたとしても、そのときにはすでに腎臓も消化器官も侵されており、予後は極めて悪く、救命できない人が多いのも事実です。

逆にいうと、雪野原になってしまう前、雪雲の状態でみつけることができれば、予後もよいものとすることができるのです。私は、治療を受ける患者さんに対し「まずは雪雲を取りましょう。それがなくなれば春が来て、いま積もっている雪も自然と少しずつ解けていきます。」といった表現を用います。ただし、氷河のようになっている場合は、1回の春が来ただけで完全に解けるのはむずかしいものです。ですから、複数回MD治療を行い、気長に解かしていきましょうともお伝えします。「治療してみる」といわれただけで安心される患者さんもいらっしゃるほどです。

日本赤十字社医療センターの病棟には、2016年今現在約60人中15人のALアミロイドーシスの患者さんが入院していらっしゃいますが、「ここで初めて、自分と同じ病気の方に会えた」という方も少なくありません。同じ病気の方の治療が進み、快方に向かわれるのを目の当たりにすることは、非常に勇気づけられることのようです。これは、やはり骨髄腫・アミロイドーシスに特化した専門施設ならではの強みだと確信しています。

イギリスやアメリカ・スウェーデンなどの世界各国でも、MD療法や自家末梢血幹細胞移植を行うことで治療成績は上がっています。アミロイドーシスは決して簡単な病気ではありませんし、患者数も増加傾向にありますが、快方に向かう希望は世界中で生まれてきています。患者さんには、当院ではできる限りすべてのことをしていますので希望を捨てないでいただきたいということ、医療機関の方には疑わしきはすぐ紹介していただきたいということをお伝えしたいです。

 

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