概要
全身性アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常な線維状の不溶性タンパク質が心臓、腎臓、胃、腸、肝臓、神経、目、皮膚など全身のさまざまな臓器に沈着する病気の総称です。発症するとアミロイド沈着が生じた臓器の機能が低下していくため、さまざまな症状が現れるようになります。
全身性アミロイドーシスには数種類の病気のタイプがあり、症状や治療法が異なります。遺伝が関与していると考えられている病気のタイプと、遺伝とは関係なく、加齢、血液の腫瘍、関節リウマチなどの慢性的に炎症を生じる病気、長期間の透析治療などに伴い生じるタイプがあります。それぞれのタイプで”タンパク質のゴミ”であるアミロイドを形成するタンパク質の種類が異なります。
治療には、病気の予後を改善する“疾患修飾療法”と症状を緩和する“対症療法”があります。それぞれのアミロイドーシスのタイプで効果的な疾患修飾療法が異なりますので、まずはアミロイドーシスのタイプを正確に診断する必要があります。
原因
全身性アミロイドーシスは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が全身のさまざまな臓器に沈着することによって発症します。
現在、ヒトでアミロイドーシスを生じるタンパク質は36種類以上が報告されていますが、それぞれアミロイド沈着が生じるメカニズムは異なると考えられています。これらのうち、全身性アミロイドーシスを生じる主なタンパク質は3種類あり、それぞれのタイプに分類されます。トランスサイレチンが原因となる“ATTRアミロイドーシス”、免疫グロブリン軽鎖が原因となる“ALアミロイドーシス”、血清アミロイドAが原因となる“AAアミロイドーシス”などが知られています。ATTRアミロイドーシスは遺伝が関連する“遺伝性ATTRアミロイドーシス”と、遺伝は関連せずに加齢とともに生じる“野生型ATTRアミロイドーシス”にさらに分類されます。ALアミロイドーシスは多発性骨髄腫を伴う場合と伴わない場合があります。また、ALアミロイドーシスはまれに限定された体の場所にのみ生じる“限局性ALアミロイドーシス”として生じる場合があり、全身性ALアミロイドーシスとは予後や治療法が異なります。AAアミロイドーシスは関節リウマチや感染症など慢性的な炎症状態に伴い生じる場合が多いです。
症状
アミロイドーシスの症状は、どの臓器にどの程度のアミロイド沈着が生じているかによって大きく異なります。ほとんど症状がないケースもありますが、症状が進行すると命の危険が生じるケースも少なくありません。
具体的には、心臓にアミロイド沈着が生じた場合は心不全や不整脈が生じ、息切れ・動悸・失神などの症状がみられるようになります。また腎臓の場合はタンパク尿、ネフローゼ症候群や腎不全を発症してむくみ・倦怠感・尿量の異常などの症状、消化管の場合は下痢・便秘・嘔吐・イレウスなどの症状、神経系の場合はしびれ、痛み、麻痺などの症状が現れます。さらに、じん帯にアミロイド沈着が生じることで、手根管症候群(手のしびれ)、ばね指、腰部脊柱管狭窄症などの発症や病態に影響が及ぶ可能性があります。皮膚や舌などにアミロイド沈着が生じると皮膚が硬くなる、舌が腫れるといった外見上の変化を引き起こす場合があります。
まれに、脳の血管にアミロイド沈着が生じると脳出血などの重篤な病気を引き起こすことも知られています。
検査・診断
全身性アミロイドーシスは全身にさまざまな症状を引き起こすため、まずはそれぞれの臓器の機能の状態を調べる検査が行われます。具体的には、血液検査、尿検査、心電図、心エコー、神経伝導検査、MRIやシンチグラフィなどの画像検査、内視鏡検査などが必要に応じて行われます。症状やこれらの検査結果などから全身性アミロイドーシスが疑われる場合は、症状を生じている臓器の病変部の組織を採取(生検)して顕微鏡で詳しく調べ、アミロイドが体にたまっているか確認する病理検査が必要です。しかし、病変組織の採取は体に大きな負担をかけることも少なくありません。そのため、アミロイドが脂肪組織や全身の微小な血管、消化管にも沈着しやすいという性質を利用して、皮下脂肪、皮膚、消化管、口唇など負担が比較的少なく簡便に実施できる生検による病理検査も広く行われます。
治療
治療には、病気の予後を改善する“疾患修飾療法”と症状を緩和する“対症療法”があります。それぞれのアミロイドーシスのタイプで、効果的な疾患修飾療法が異なりますので、まずはアミロイドーシスのタイプを正確に診断する必要があります。
近年では、特に治療効果が高い疾患修飾療法が多く開発され、いくつかの薬はすでに一般的に使用できるようになっています。特に遺伝性ATTRアミロイドーシスに対する先進的な核酸医薬、遺伝性および野生型ATTRアミロイドーシスに対するタンパク質安定化薬、ALアミロイドーシスに対する分子標的薬などは、早期に使用することで病気の予後を改善する高い治療効果が見込めます。しかし、これらの新しい治療法でも進行した症状を改善することは難しい場合が多いです。さらに、次世代の核酸医薬、ゲノム編集治療、抗体治療などの研究も進んでおり、将来的にはさらに高い効果を持つ多くの新規治療法が選択できるようになることが期待されています。
予防
全身性アミロイドーシスを予防する方法は残念ながら確立していません。
医師の方へ
「全身性アミロイドーシス」を登録すると、新着の情報をお知らせします