アミロイドーシスとは、「アミロイド」と呼ばれる、ナイロンに似た繊維状の異常たんぱくが、全身のさまざまな臓器に沈着し、機能障害を起こす病気の総称です。発症原因は不明で、診断がつくまでに時間がかかる場合も多く、判明したときには病気が深刻な状態にまで進行していることも珍しくありません。アミロイドーシスにはどのような種類があるのでしょうか。早期発見のために知っておきたい代表的な症状とはどのようなものでしょうか。日本赤十字社医療センター・骨髄腫アミロイドーシスセンター長の鈴木憲史先生にお伺いしました。
アミロイドーシスは、複数の臓器にアミロイドが沈着する「全身性アミロイドーシス」と、特定の臓器に限局してアミロイドが沈着する「限局性アミロイドーシス」に分類することができます。全身性アミロイドーシスの代表的なものには、
●免疫グロブリン性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)
●AAアミロイドーシス
●老人性全身性アミロイドーシス(SSA)
などがあり、
限局性アミロイドーシスの代表的なものには
●アルツハイマー病
●脳アミロイドアンギオパチー
など、主として脳に発症するものがあります。
患者数はそれぞれの疾患によって異なりますが、ALアミロイドーシスとFAPは日本国内に数百人ずつ、AAアミロイドーシスと透析アミロイドーシスは数千~数万人ずつ、アルツハイマー病は約200万人存在すると推測されています。
このうち、ALアミロイドーシス、FAP、SSAは特定疾患に指定されており、条件を満たせば医療費の補助を受けることができます。
また、アミロイドーシスは遺伝性と非遺伝性に分類することもできます。遺伝性の代表的な疾患はFAPで、「トランスサイレチン」というたんぱく質の遺伝子異常を持つ人に発症します。アルツハイマー病やプリオン病の一部にも、遺伝性のものが存在します。
非遺伝性に分類されるもののうち、ALアミロイドーシスは、多発性骨髄腫とオーバーラップする場合があり、AAアミロイドーシスは慢性炎症疾患(慢性間接リウマチなどの自己免疫疾患、家族性地中海熱などの自己炎症症候群)と合併することがあることも特徴です。透析アミロイドーシスは長期にわたって人工透析を行っている患者に発症し、SSAやアルツハイマー病は加齢に伴って発症するとされています。
全身性
限局性
遺伝性
家族性アミロイドポリニューパチー(FAP)
※特定疾患
アルツハイマー病
非遺伝性
免疫グロブリン性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)※特定疾患
AAアミロイドーシス
老人性全身性アミロイドーシス(SSA)※特定疾患
アルツハイマー病
プリオン病
全身性アミロイドーシスの症状には、以下のようなものが挙げられます。
●胃腸障害、下痢や便秘
●抹消神経・自律神経の機能障害により起こる手足のしびれや麻痺
●立ちくらみ
など。
限局性アミロイドーシスでは、認知症や、脳卒中などを発症することがあります。
いずれのアミロイドーシスも、原因となる異常なたんぱく質が凝集してアミロイドに変異し、臓器に沈着することで発病することは判明しています。しかし、アミロイドとなる過程は原因たんぱく質の種類によって異なり、その細かなメカニズムは解明されていません。
かつては「黄色人種は白人と比べて罹患しにくい」といわれていましたが、2016年現在は私たちアジア人といわれる黄色人種にも増加しており、その差はほぼなくなってきました。これは、何らかの特別な原因の出現によるものではなく、検査体制や診断基準が整備され、診断をつけられる方が増加してきたからであると考えられます。
アミロイドーシスは、脊椎(せぼね)を持つ動物ならすべて罹患しうる病気です。たとえば、日本国内では、動物園で飼育されているチーターの死因にアミロイドーシスが疑われるものがありました。また、プリオン病は牛に多く生じたことがあります。
原因不明の病気であるため、確立された予防法は存在していません。ただし、エビデンスはないものの、
●水分をしっかり摂取して発汗を促し、老廃物をためないこと、
●肉体的及び精神的なストレスを軽減すること
これらが大切だと考えます。
アミロイドーシスの中でもより深刻な病気といえるのは全身性アミロイドーシスで、中でも私が専門とするALアミロイドーシスは、最も難治性が高いと考えられています。日本赤十字社医療センターを受診されるALアミロイドーシスの患者さんは、総計200人を超えます。(2016年現在までのデータ)
初診の方は毎年20~30人程度ですが、そのうち2~3割の方は1年程度でお亡くなりになるという厳しい現状があります。予後が悪いとされる一因としては、ALアミロイドーシスが謎の多い希少疾患であるため、医療者間での認知度も低く、病名を特定するのに時間がかかってしまうことが挙げられます。
当院のような専門施設を受診したときには、既に手遅れといわれる状態にまで進行している患者さんが多いのが現状です。
しかしながら、不治の病のように思われていたALアミロイドーシスも、初期のうちに診断をつけられれば助けられる時代になりました。
ALアミロイドーシスの初期症状として高頻度に現れるのは、手根管(しゅこんかん)症候群です。アミロイドの沈着により腱が動かなくなり、手がしびれて力が入らなくなるのです。この場合、まず整形外科を受診する患者さんが多いのですが、治療を重ねても快方に向かわず、詳しく検査をしていくうちにアミロイドの存在に気づくということも多くみられます。医師の間でも、存在があまり知られていない病気であるため、初診時にALアミロイドーシスを疑い診断することは専門医でなければ困難だといえるでしょう。
このほか、舌を自身の歯で噛むと、舌の側面に歯型がのこる、難治性の下痢などの症状が挙げられます。
(ALアミロイドーシスの症状 舌の側面に歯型が残る 症例写真提供:鈴木憲史先生)
病気が進行すると、目の周囲が黒くなる「アライグマサイン」が現れます。アミロイドが血管に沈着すると、出血しやすくなるという特徴があります。目の周囲の血管はやわらかく破れやすいのですが、健康な方であれば破れても修復できるものです。ところが、ALアミロイドーシスの方には修復できるだけの力がないため、血管は破れたままとなってしまい、結果として皮膚を通して出血が黒くみえる状態となるのです。
アライグマサインが出現している場合は、全身の血管にアミロイドが沈着している可能性が高く、病状はかなり進行していると考えられます。
そのほか、立ちくらみや尿中にたんぱくが多量に出るネフローゼ症候群を起こすことなどがありますが、これらも病期が進行してから現れるものです。
前述した舌の症状は、家族同士でよくみていると気づくこともあるものです。また、下痢が長期にわたり続く場合も放置は禁物です。初期症状のみが現れている段階で診察を受ければ、ALアミロイドーシスであっても予後はよいものとなることが増えています。ぜひ、ご自分やご家族の体の変化に敏感になっていただきたいと考えます。
日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンターセンター長・薬剤部長・輸血部長
鈴木 憲史 先生の所属医療機関
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心不全の治療について
時系列 昨年末 亜急性心不全にてカテーテルステント施術 本年1月 洞不全症候群にてペースメーカーの埋込施術 6月12日 慢性心不全増悪にて入院 6月20日 心筋シンチグラフィ 6月22日 カテーテル生検 6月23日6時 容態急変により心停止(蘇生まで30分程度)HCUへ移動 6月23日14時 再度心停止(蘇生まで10分程度) 6月27日 意識回復(手を握り返す) 6月28日 好きな野球チームの話しで笑う。 6月29日 人工呼吸器外し、酸素マスクに変更。 6月30日 生研の結果、心臓アミロイドーシスが確定 7月1日 声は出ないが、口の動きから私の名前を呼んでいることを確認 ----------------------------------- 輸血、透析、点滴等の治療にて、腎臓等の数値は回復しているが、 心肺機能は、かなり落ちていて、体力、気力も落ちている言われる。 今後、容態悪化の折は、麻酔をして再度、人工呼吸器をつけるか、判断を聞かれています。 主治医によると、麻酔をして人工呼吸器をつけると、覚醒する確率はかなり低いと言われました。 質問は、現況において、麻酔をして再度人工呼吸器つけると意識回復はしないものなのでしょうか。 また、つけた場合の余命は、どの程度になるでしょうか。 家族としては、ある程度覚悟はできておりますが、少しでも苦しまない状況を望んでいます。 ご助言頂ければ幸いです。
便に油が浮く
少し前から便に油が膜のようになって浮くことが多々あります。 毎回ではありませんが、5回に3回はそういうことがあります。 食事はこの症状が気になる前と変わっていません。朝食はきちんと食べる方ではありませんが、昼食と夕食は食べています。魚よりは肉類が多いですが、それは症状が気になら始めるよりもずっと前からです。野菜は1日に摂取すべき量よりは少ないと思いますが、ちゃんと食べています。 腹痛や嘔吐などはありません。 ただ、上記の症状が気になり始めたと同時に、胃が疲れやすくなったとも感じています。 一年前くらいまではなんともなかった食事量や内容でも胃もたれがして気持ち悪くなったりします。 ストレスを強く感じているときに、2日間食事量が少し増えただけで、下痢と嘔吐をし、二日間くらい下痢が続いてヨーグルトやゼリーしか食べられなかった時もありました。 現在は新しいバイトを始めたりしましたが、それほどストレスとは感じていません。 また、ここ1週間ほどは魚と肉はどっちが多いということもなく、野菜も毎食ちゃんと前よりも多く摂取していました。 食事が関係していたのかと思っていましたが、バランスの良い食事や生活リズムが整った生活を1週間していたのに、今日も便に油が浮いていました。 便に油が浮く理由、胃が疲れやすくなった理由、それらの改善策を教えていただきたいです。
脾臓が大きい
16歳の息子が超音波で脾臓が少し大きい。と言われました。追加検査は指示されてませんが、ほっておいて良いのでしょうか?
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