肉離れはスポーツ外傷のひとつで、筋肉が部分断裂または完全断裂することをいいます。下肢の筋肉に起こることが多く、急なダッシュやジャンプをしたときに発症しやすい怪我です。今回は順天堂大学大学院 医学研究科 共同研究講座(スポーツ医学・再生医療講座)特任教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科 准教授であり、サッカークラブいわきFCのチームドクターを務める齋田 良知先生に肉離れの症状や、肉離れと間違いやすい場合についてお話を伺いました。
肉離れとは、筋肉が引き伸ばされると同時に収縮するときに起こる筋肉の断裂です。部分的に断裂することが多いですが、まれに筋肉が完全に断裂してしまうこともあります。
たとえば、ダッシュをしようとするときハムストリングス(太ももの裏の筋肉)はぎゅっと収縮しますが、ここから走り出して膝を伸ばす動きをすると、収縮している筋肉は無理やり引っ張られる状態になります。このときに、収縮する筋力が引っ張られる筋力に負けることで肉離れが起こります。
肉離れは筋肉であればどこにでも起こり得ますが、特にハムストリングス(太ももの裏の筋肉)や大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)、下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)に起こることが多いです。サッカーでは内転筋(太ももの内側の筋肉)にもよくみられます。
また、まれではありますが上肢や腹筋に肉離れが起こることもあります。
肉離れは急なダッシュやジャンプをしたときに発症することが多く、このような動きを伴うスポーツであればどのようなスポーツであっても発症する可能性があります。
筋肉が硬くなっているときには肉離れに注意が必要です。筋肉が硬いと、引っ張られた力に対して筋肉が縮もうとする力が強い状態にあります。このとき筋肉が伸びないため、筋肉が破断して肉離れを発症してしまうのです。
肉離れを発症したときには「ぶちっ」「ばちっ」という断裂音を自身で感じることがあり、痛みを伴うことが多いです。
肉離れによる痛みには主に以下の3つがあります。
痛みの度合いは、肉離れの重症度によって異なります。筋肉が完全断裂しているような重症な肉離れでは、安静にしていても痛みを感じることがあります。
肉離れでは患部に外見上の変化がみられることがあります。腫れやへこみ、また内出血を起こしている場合には青くなる症状がみられることもあります。
肉離れの診断や重症度判定の際には、MRI(磁気を使い、体の断面を写す検査)やエコー(超音波検査)などの画像検査を行います。
MRIでは筋肉が損傷している部分を確認することができます。同じ肉離れであっても損傷している部分によっては重症な肉離れであると診断されます。
たとえば、羽状筋(うじょうきん:鳥の羽のように筋繊維が斜めになっている筋肉)に肉離れが起きている場合には重症な肉離れであると判断します。また、筋肉内にある筋内腱という部分に生じる肉離れも重症であると判断されます。
エコーでは肉離れによる出血の有無や出血量を確認します。
肉離れと間違いやすいものには、こむら返り(足がつること)が挙げられます。特にふくらはぎに起きた場合には見分けが難しいことがあります。
肉離れとこむら返りを見分けるときには、まず発症時の状況を確認します。こむら返りは疲労や電解質不足で起こることが多く、発症時に筋肉がけいれんすることが特徴です。そのため、痛みを感じたときに筋肉のけいれんを感じた場合にはこむら返りである可能性が高いです。
また、こむら返りの場合には筋肉が収縮した状態になるため、しばらくは力が入ったまま力を抜くことができません。しかし、肉離れの場合には筋肉が損傷しているため、通常は筋肉に力が入らなくなります。これらの違いをもとに、肉離れとこむら返りの鑑別を行います。
筋膜炎(筋肉の膜に炎症が起こること)も肉離れとの見分けが難しいことがあります。しかし、ほとんどの場合MRI検査で筋肉の状態を確認することで鑑別が可能です。
筋挫傷は何かにぶつかったときなどに筋肉が損傷する怪我で、肉離れと似たような症状がみられます。しかし、筋挫傷の場合は外からの強い衝撃が加わることで発症するという明らかな受傷機転があります。そのため、患者さんから受傷時の状況を聞き取ることで鑑別を行います。
肉離れを疑う怪我を発症した場合には、ただちに応急処置を行いましょう。応急処置の方法はPOLICE(ポリス)=Protection(保護)Optimal Loading(適切な負荷)Ice(冷却)Compression(圧迫)Elevation(挙上)が基本です(詳細は記事2『スポーツ障害とスポーツ外傷-応急処置「POLICE」や予防について』をご覧ください)。
特に、内出血の拡大を防ぐために受傷直後のアイシングが重要です。出血が拡大することで患部以外にも血腫(血の塊)が増えます。すると、血液が体内に吸収されるのに時間がかかるため、結果的に治療期間が長引く原因となります。
ただし、過剰なアイシングには注意が必要です。血液には血小板という組織を修復する作用を持つ細胞が含まれています。患部を冷やしすぎると血流が滞り、損傷した部分に血小板が不足します。そのため、一定間隔でアイシングを中断して患部に血流を戻すことも重要です。
先ほど、肉離れによる痛みには「伸ばしたときの痛み」「押したときの痛み」「力を入れたときの痛み」の3つがあるとお話ししました。
これらの痛みのうち、肉離れが治っていくにつれて「伸ばしたときの痛み」と「力を入れたときの痛み」がはじめに消えていきます。
たとえば、ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)の肉離れの場合、肉離れを起こした足を伸ばしてみて、正常な側の足と同じ高さまで痛みを感じずに挙げることができるかを確認します。
このときのストレッチ痛なく足を挙げることができ、さらに力を入れてみても痛みを感じなければ、まずは軽いウォーキングや、階段の上り下りなどから始めてみてください。
ストレッチ痛がなくなったからといっていきなり運動を再開してしまうと、肉離れを再発する危険性があります。そのため、ウォーキングなどの日常生活動作に不安がなくなってから、ジョギングなどの軽い運動を行うようにしましょう。
患部を押したときの圧痛は最後まで残ることがほとんどです。押したときの痛みも完全に消失してからスポーツに復帰するようにしていただきたいと思います。
また、肉離れを起こしたあと筋肉を使わない状態が続くと、受傷前よりも筋肉が細くなってしまいます。筋力が回復していない状態でスポーツを再開すると、再び肉離れを発症する恐れがあります。そのため、受傷部分の筋力をしっかりと回復させてから復帰するようにしましょう。大腿周囲径や下腿周囲径を計測し、これらがもとの太さに戻ってからスポーツを再開することをおすすめします。
順天堂大学医学部付属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科
https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/seikei/
順天堂大学大学院 医学研究科 共同研究講座(スポーツ医学・再生医療講座) 特任教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科 准教授
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