去る2018年2月21日〜23日、千葉県の幕張メッセ他にて第45回日本集中治療医学会学術集会が開催されました。本学術集会は1,687題の演題が発表されるなど、多くの医師やメディカルスタッフが参加し、大盛況となりました。
今回は、本学術集会会長である織田成人先生(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学 教授)に、日本集中治療医学会や学術集会にかける思いをお伺いしました。
日本集中治療医学会は1974年に設立され、2018年2月時点で45年目を迎えます。当学会は麻酔科の医師を中心に設立されました。これは設立当初、手術後の患者さんの集中治療を担うのは麻酔科医や外科医の役目だったからです。2018年2月現在は麻酔科医や外科医、救急科医を中心に構成されています。
当学会の大きな目標の一つに、集中治療を専門とする医師の育成があります。2009年の『日本集中治療医学会雑誌』では、集中治療とは“生命の危機に瀕した重症患者を、24時間を通じた濃密な観察のもとに、先進医療技術を駆使して集中的に治療する” [注1]ものと定義づけています。以前は医師が集中治療を専門に行うことはあまり認められていませんでした。しかし、1987年より集中治療専門医制度委員会が発足し、集中治療を専門とする医師が徐々に増えてきています。
注1:日本集中治療医学会『日本集中治療医学会誌』2009年vol.16 No.4 503〜504
また日本集中治療医学会の大きな特徴は、多職種で構成されていることです。当学会は2018年2月現在10,000人を超える会員がおります。そのうちの30%程度は看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師、栄養士などの医師以外のメディカルスタッフです。そのため、学術集会ではテーマが非常に広くなり、病気の診断・治療だけでなく、治療を支える栄養や免疫などさまざまなものが含まれます。
たとえば2018年2月現在、集中治療医学の分野ではICU後症候群(ポストインテンシブケアシンドローム、以下PICS)が大きな課題になっています。PICSとは、ICU(集中治療室)を退院し肉体的には健康になった患者さんが、せん妄や認知障害、体力の低下などに見舞われ普通の日常生活に戻れなくなってしまうことです。
PICSを改善するためには医師以外のメディカルスタッフによるサポートが必要です。具体的には栄養士による栄養面の管理や、理学療法士によるアーリーモビライゼーションなどが挙げられます。アーリーモビライゼーションとは、ICUに入院する重症患者さんに自転車こぎなどの負荷運動を行うよう指導することです。これを行うことにより筋肉の廃用を防ぐことができ、退院後日常生活へ戻ることが比較的容易になると考えられます。
私が所属する千葉大学医学部附属病院のICUでは2007年から理学療法士がICU治療に参加し、治療の翌日、翌々日からアーリーモビライゼーションを開始しています。導入当初は重症患者さんに対する指導ということで、理学療法士も恐る恐る指導に臨んでいました。しかし、最近ではモニタリングの設備やスタッフの連携により、比較的安全にトレーニングできることがわかってきています。
第45回日本集中治療医学会学術集会開催にあたって、私はポスター作成からプログラムの設定、テーマ設定までさまざまなことを工夫してまいりました。
まずポスターの作成では、集中治療という分野はチーム医療が前提となるため、医師とメディカルスタッフの協力をイメージしたデザインを発案しました。また、デザインにあたって、私自身の心電図を測定したものを利用しています。
本学術集会でのシンポジウム・パネルディスカッションの内容を組み立てるに当たって、まず私は自分が普段の臨床の現場で興味を持っていること、疑問や課題に感じていることを挙げていきました。これらを当学会の他の先生にもお伝えしたところ、先生方も同じことや似たようなことに疑問や課題を感じているということがわかりました。そこで、日本全国で同じ仕事をしているメディカルスタッフがどんなことに工夫して日々の臨床にあたっているかがわかるような学会にしたいと考えました。
また、シンポジウムやパネルディスカッションの演題を公募することにしました。近年の学術集会では、司会の先生が演者に直接依頼を掛けて招集する形式が増えていますが、あえて公募形式で演題を集めることによって先生方やスタッフの「現場の声」を集められるように心がけました。なぜなら私は、現場で経験した症例に対し、「なぜうまく行ったのか」「なぜうまく行かなかったのか」といった問い、つまりクリニカル・クエスチョンを持つことによって、医療の進歩が生まれると思っているからです。
公募形式をとったことによって、テーマによって集まった演題の数にばらつきがありました。非常に競争率の高いテーマもありましたが、結果としてかなり厳選された演題になったことは非常によかったと思います。
今回の学術集会は「一歩先へーOne Step Forward」という以前から私が好きな言葉をテーマにしました。医療の現場では次々にガイドラインが発行されていますが、ガイドライン通りの治療だけを繰り返していても新しい治療は生まれません。日々の臨床における疑問や課題に対し、工夫や改善を目指す姿勢が大切です。
学術集会の一番の目的は、そこで得た知識を患者さんの治療に活かし、1人でも多くの患者さんを助けることにつなげることだと思っています。今回の学術集会で1人でも多くの方が日々の臨床、研究のヒントを持ち帰ってくれていたら幸いです。
第45回日本集中治療医学会学術集会については下記の記事も併せてご覧ください。
会長講演レポート『第45回日本集中治療医学会学術集会レポート−会長講演と本学術集会のハイライト』
千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長
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