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日本集中治療医学会医師と学生による座談会‐集中治療医学の発展と課題

日本集中治療医学会医師と学生による座談会‐集中治療医学の発展と課題
織田 成人 先生

千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長

織田 成人 先生

この記事の最終更新は2018年03月30日です。

2018年2月21〜23日、千葉県千葉市に位置する幕張メッセ他にて第45回日本集中治療医学会学術集会が催されました。多くのプログラムが行われるなか、当学会の広報委員会が企画した織田会長と学生による座談会も行われました。

今回は学術集会に参加した千葉大学医学部5年生の川西朗弥さん、岡村理佐さんをお招きし、織田成人会長をはじめとする広報委員会の先輩医師との座談会をレポートいたします。

織田成人先生(千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学 教授)(前列中央)

 

松田直之先生(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 教授) (前列右)

髙木俊介先生(横浜市立大学医学部 麻酔科学教室 集中治療部 講師)(前列左)

 

川西朗弥さん(千葉大学医学部5年生) (後列右)

岡村理佐さん(千葉大学医学部5年生) (後列左)

医学部きっかけ

髙木先生:お二人はどのようなきっかけで医学部受験を志したのですか?

川西さん:幼いころは少し病弱で、医師のお世話になったり、身近に医療関係者がいたりしたので、幼い頃から医師に対して漠然とした憧れを抱いていました。

進路選択の際、実は理工学部にも興味があり、直前まで医学部と理工学部どちらにしようか迷ったのですが、幼いころの経験から、医学部に決断しました。実際に勉強してみると、学問としてもまだわかっていないことがたくさんあって面白いと感じています。

岡村さん:私も幼少期に喘息にかかったことが医療との出会いです。また進路選択に悩んでいた頃、祖母が脳卒中で倒れ、私自身が救急要請を行ったことも大きなきっかけとなりました。そのとき、私は110番(警察署)に電話をかけてしまうほど動揺していましたが、救急隊員や医師の対応をみて心から「凄いな」と感動しましたし、「どうして治ったんだろう?もっと医療のことが知りたい」と関心を持つようになりました。祖母は幸いにも治療がうまくいき、今は退院して元気に過ごしています。

髙木先生:ご自身の経験から医師を志したのですね。そこから集中治療医学に興味を持つようになったのは、どんなきっかけでしょうか?

岡村さん:私は大学の院内実習で救急科を回った際に、集中治療医学に魅力を感じました。受け持ちの患者さんが長期で入院されており、その経過を追いながら長期的に患者さんをみていけることにやりがいを感じました。実習が終わってからも、自分が受け持った患者さんの経過を聞きに行くのが習慣になり、そのうちに救急科の先生方とも仲よくなれました。

川西さん:私は脳外科領域、外傷、救急に興味があり、そこから集中治療医学にも興味を持ちました。また、実習の際に千葉大学医学部附属病院の救急の先生方にも仲よくしていただき、今回の学会に誘っていただきました。

髙木先生:実習はそれぞれの診療科を知ることができる大切な経験ですよね。

川西さん:そうですね。実習を回っていてその診療科の先生が教育熱心ですと、元々は興味のなかった診療科でも「素敵だな!」と興味を持つようになります。

外科手術には....

岡村さん:織田先生は元々外科医でいらっしゃいますが、集中治療医学に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

織田先生:私が集中治療医学に興味を持ったきっかけは、術後管理への課題を感じたこと、そして恩師である当時の千葉大学大学院医学研究院教授 平澤博之先生との出会いです。

私が医学部を卒業した頃は、多くの病院で外科医が患者さんの術後管理も行っていました。とはいえ外科の先生の多くは、手術は上手でも全身管理のノウハウがあるわけではありません。教室内で栄養や免疫、人工臓器などの研究も行われていましたが、手術の傍らで行う研究ですので十分なものとはいえません。また、装置も人工呼吸器ができたばかりという時代で、今と全く異なる環境でした。

外科手術には合併症がつきものです。手術がうまく行っても、術後管理が不十分であったために合併症で命を落とす方がいるのは非常に悔しいと思いました。

私の恩師である平澤先生もこのような術後の管理を専門にしており、先生のもとで研究や留学などさまざまな経験をさせていただきました。そして平澤先生が救急科・集中治療部に異動する際、先生に誘っていただき私もこの世界に足を踏み入れることになりました。

岡村さん:やはり、恩師との出会いは自身のキャリアを決める大切なものなのですね。

集中治療の認知・課題.

川西さん:織田先生のお話からも、集中治療医学は非常に大切な分野であることがわかります。しかし、集中治療は他の一般診療科と比較するとどんなことをやっているかわかりにくく、一般の方からみて目立たない分野であると捉えられがちではないでしょうか?

髙木先生:その通りです。日本において集中治療という分野は一般の方々には分かりづらいと思います。私がオーストラリアへ留学した際に、院内において医療に関するポスターが多数あり、啓発活動が活発であると感じました。集中治療室の入口にも集中治療医学に関する啓発のポスターが貼ってあり、一般の方々の集中治療に対する理解が深かった印象があります。日本においても「集中治療医学」を広められるように広報委員会としてもこれから取り組んでいきたいと考えています。

松田先生:日本での集中治療の位置づけは「集中治療室」、つまりICU(intensive care unit)としての存在が先行して育ってきています。しかし、救急医療として急変した患者さんの病態学の発展とともに、緊急性や重症度の高い患者さんの病態が「集中治療医学」という1つの学問として確立されてきています。

集中治療医学を学んだ医師がいることで、急変した患者さんへの治療成績が向上することが期待されますが、日本で集中治療医学を勉強している医師はまだまだ少ないのが現状です。今後は集中治療医を増やし、一般の方にも啓発することで、ご家族が万が一のときに「集中治療室に入れてください」と意思表示できるような環境になることを期待しています。

集中治療医額とは何か

髙木先生:たしかに一般の方からみると、集中治療室で働く医師なのか、集中治療医学を学んでいる医師なのか、その違いはわかりにくいですよね。実際に集中治療医は集中治療に専従できず、他の診療科と掛け持ちしている医師も多いため、なおさらややこしいと思います。今後は集中治療医学とは何か、集中治療医がどんなことをしているかを伝えていく必要があります。

岡村さん:学生からみても、実習で回るまでは集中治療医学の重要性や実態がよくわかりませんでした。今でもclosed ICU*に関してはまだよく理解していないため、学んでいきたいと感じています。

松田先生:多くの診療科は、脳・心臓など1つの臓器から急性期・回復期・慢性期といった形でその病気のストーリー全体を学びます。一方で集中治療医学は急性期学を学ぶ現場ではないでしょうか。もちろん救急科や麻酔科などでも急性期の患者さんを診ますが、集中治療ではより専門的な立ち位置として急性期の患者さんを見守り、急変したときはどうするかなどを学ぶことができます。

織田先生:集中治療の面白さは「全身管理の面白さ」ではないでしょうか。集中治療では呼吸循環を中心にさまざまな薬剤で体の状態をコントロールします。多くの治療による変化はすぐに現れますから、自分たちの治療が正解か、間違いかすぐにわかってしまうという厳しさもあります。

岡村さん:以前実習でお世話になった際、織田先生が「朝のカンファレンスは昨日自分が行った治療の答え合わせだ」と仰っていたのが印象的でした。

織田先生:そうですね。昨日どんな治療をしたか翌朝にはすぐにわかってしまいます。その意味でも、朝のカンファレンスで話すことは非常に大切です。もちろんうまくいくことばかりではなく、後悔する日もありますが、その積み重ねがプロの集中治療医への道なのです。

*closed ICU……ICU専従医が主治医と連携して治療するICU。

広報委員会の取り組み

松田先生:さて、今回の座談会は日本集中治療医学会広報委員会が中心となって企画しました。当委員会では、会員に向けた情報発信・知識向上、また、一般の皆さんへの啓発のためにさまざまな取り組みを行っています。本学術集会でも「集中治療領域の広報充実に向けて」と題し、当委員会の取り組みや方針についてのプレゼンテーションを行いました。

 

広報委員会のプレゼンテーションでお話する讃井將満先生(自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第2講座 主任教授)
広報委員会のプレゼンテーションでお話する讃井將満先生
(自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第2講座 主任教授)

松田先生:このプレゼンテーションでは、広報委員会の歴史や、現在取り組んでいる動画を使った啓発、ウェブサイトのリニューアルやそれに伴うアクセス解析、加えて広報委員会の今後の展望についてお話しました。

岡村さん:先生方が実際の現場で活躍されていて、集中治療医として求められる知識や素養はなんだと感じられますか。

松田先生:どの診療科でも同じことがいえますが、学術的な進歩が凄まじく、医師たちが常に知識をアップデートしていかなければならない時代になってきました。これからはガイドラインを知ることに加えて、実際にそれを解説できるような深い理解を持つ医師を目指すことが大切ではないでしょうか。

また、集中治療医学はここ数年で学術的に大きく進歩し、急性期の病態学・管理学で学ぶことも非常に多くあります。これらを多くの若手医師が学べるように集中治療医学会では教育プログラムを作る方針で話し合いが進んでいます。

髙木先生:松田先生の仰る通り、学術的な視点はもちろんとても大切です。それに加えて相手の気持がわかるような人間であることも大切に思います。

集中治療室に入る患者さんは、その多くが重症で命にかかわるような病態の方です。私たち医療者にとってはある一日の勤務であっても、命を落とすかもしれないという患者さんや、そのご家族にとっては一生のなかでも重要な一日になるかもしれません。そうした患者さんやご家族の気持ちを理解したうえで現場に立つことは非常に大切だと思います。

織田先生:プロの集中治療医になるためには「総合的な目」が非常に大切です。これを養うためには、自らいろんなことをみたり聞いたりする意識を持つことが大切ではないでしょうか。これは医学に限ったことではありません。いろいろなことをみたい、聞きたい、知りたいと思う心が、総合的な能力を養うように感じています。

また、さまざまなところに目を光らせて気を配ることも大切です。日頃から多くを気にする意識を持つことで、患者さんをみた際にも違いに気付けるようになります。このような意識はなかなか教えることは難しいので、自らが実践して徐々に能力を開発していくものではないでしょうか。

 

 

第45回日本集中治療医学会学術集会については下記の記事も併せてご覧ください。

会長インタビュー『第45回日本集中治療医学会学術集会を終えて』

会長講演レポート『第45回日本集中治療医学会学術集会レポート−会長講演と本学術集会のハイライト』

『日本集中治療医学会医師と学生による座談会‐第45回日本集中治療医学会学術集会について』

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  • 千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長

    織田 成人 先生

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