藤沢市唯一の公的医療機関である藤沢市民病院は、1971年の開設以来、総合力ある医療によって地域の方々をサポートしてきました。現在では、藤沢市小児人口の75%ほどの小児が同院の診察券を持っていることから伺えるように、小児医療でも地域医療の中核的な存在を担っています。同院の取り組みや今後の展望について、院長の仲野明(なかのあきら)先生にお話を伺いました。
藤沢市民病院は1971年、当時の藤沢市長によって330床の総合病院として開設されました。現在、人口42万人超の藤沢市において唯一の公的医療機関である当院は、536の病床(一般500床、救命救急センター30床、感染症6床)と30科の診療科を備える総合病院として、地域の方々をサポートしています。
2000年前後から全国的な医師不足に伴い小児科医師不足は深刻な状態となり、藤沢市でも小児医療は希薄でした。そのため当院は、地域の小児医療を引き受けるべく当時から小児科を強化しながら、医療提供を続けています。その努力が実を結び、現在では当院の小児救急に訪れる患者さんの数が年間に1万人ほどと非常に多く、藤沢市の小児人口の75%以上が当院の診察券を持っている状況となりました。
また2017年現在、当院には15名の小児科医が在籍し、日中の定期診療はもちろん24時間対応可能なこども医療センターの体制も整備しています。
藤沢市民病院は、2006年に救命救急センターの運用を開始しました。救命救急センターは救急ICU(集中治療室)6床、HCU(高度治療室)6床、救急病棟18床の計30床で構成されており、24時間365日体制で急患を受け入れています。救命救急センターの開設当初、1年におよそ6500名だった救急車搬送人数は年々増加し、2015年には9000名を超えました。
当院の救急センターは救急医のほか循環器、小児、脳神経などは、各分野の専門医が当直にあたっています。これに加えて、2017年には救急外科の立ち上げを行ない、外科医の過重労働を抑制することで、よりよい医療環境を作れるとおもっています。
救命救急センターの職員の方々 藤沢市民病院よりご提供
藤沢市民病院は、地域がん診療連携拠点病院に指定されています。
院内のがん診療を行っている外科系や内科系診療科、また放射線治療科が協力することで、がんの診療に関して円滑な診療体制を整えています。化学療法や抗がん剤治療についての専門医もそれぞれ在籍しており、大学病院に劣らない治療を提供できる環境です。
また、当院ではがん治療にヴァリアン社の「TrueBeam™」という最新の放射線治療装置を導入しています。放射線治療装置の活用により、安全で高速かつ高精度に治療することが可能になり、がん治療の成績が格段に向上しました。
2016年より、現在10あるオペ室(手術室)すべてをモニターによって一元管理しています。モニターでオペ室の手術状況、患者さんの状態をリアルタイムで確認できるため、手術を安全かつ円滑に行うことが可能です。現在、全国的に麻酔科医の数が不足傾向にあるのですが、当院ではオペ室のモニター管理によって麻酔科医が複数の手術をスムーズに兼任することが可能になりました。
「病院のエンジン」とも呼ばれるオペ室を潤滑に運営し、安全かつ効率性高く手術を行うことは、患者さん、病院どちらにとっても非常に重要だと考えています。
2015年から藤沢市エリアの小学生と親御さんを対象に、夏休みの期間で病院内体験ツアーを行なっています。病院内体験ツアーでは、院内を案内しながら手術や検査について解説し、病院内の職業や入院などを体験します。
病院内体験ツアーを開催する目的
病院では、医療者全員が助け合って地域の患者さんを支える必要があります。医師はもちろんですが、看護師、栄養士、ソーシャルワーカーなど、様々な分野の医療者が機能分担をすることで、初めて病院は患者さんに医療を提供できるのです。
病院内体験ツアーを通して子どもたちが病院・医療を身近に感じ、将来的に医療に興味を持つきっかけになることを期待しています。
当院には、特定看護師に認定された看護師が1名在籍しています。特定看護師とは、医師に限られていた特定行為について代行権利を有する特殊な看護師資格で、現在その資格保有者は全国でも113名のみです。
希少な資格である特定看護師ですが、医師が不足しつつあるなかで、今後は医療現場においてニーズが高まっていくでしょう。当院でも、医師の負担を減らし、よい医療を円滑に行うために、特定看護師の活躍を推奨していきます。
当院は急性期医療を担う公的医療機関として、患者さんを幅広く受け入れる役割を担っています。将来的に回復期のベッドが不足すると予測されるなかで、地域医療支援病院として地域内の病院と連携し、回復期に移行した患者さんの転院先を確保することは非常に重要な課題です。そのため当院では地域内の病院とともに定期的に相談会を実施し、病床の機能分化・連携を進めています。
藤沢市民病院は2018年7月頃を目処に改装・増築を完了し、新病棟のグランドオープンを予定しています。改装後は駐車場エリアを拡大し、最寄りのバス停を病院の正面玄関前に設置するため、アクセスが良好になります。また新病棟には24時間営業のコンビニエンスストア、レストランカフェ、オペ室(2室)、内視鏡センター、会議室なども新設されます。
新病棟の完成図 藤沢市民病院よりご提供
今後、日本の国民皆医療保険制度が崩壊するかもしれないという問題が迫っており、将来的には医療費の高騰・個人負担化によって、医療を受けたくても受けられない患者さんが発生することが予想されます。私たちはそのような状況においても、公的医療機関として、医療を受けたい患者さんに医療を提供し続ける使命があると考えています。
よい医療を提供するためには、人が大切です。病院は人次第といっても過言ではないかもしれません。ですから職員がやりがいを持って働ける環境を作り、提供できる医療の質を向上させることが大切です。
「病気になったら、ぜひ藤沢市民病院で治療を受けたい」と地域の方々が思えるよう、私たちはこれからもよい職場環境を整え、患者さんによい医療を提供し、地域の方々を守り続けます。