院長インタビュー

高品質な医療の維持が基本−地域医療・救急医療を担ってきた福岡赤十字病院の歩みとこれからの展望

高品質な医療の維持が基本−地域医療・救急医療を担ってきた福岡赤十字病院の歩みとこれからの展望
寺坂 禮治 先生

寺坂 禮治 先生

この記事の最終更新は2017年07月18日です。

2017年現在、病床数511床・診療科目32科を有する福岡赤十字病院は、1952年に50床規模の病院から始まった歴史ある大病院です。5年前に病棟が全面的にリニューアルされたことで、地域住民との関係やスタッフ同士でのコミュニケーションに大きな変化が起こりました。今回は、患者さんを第一に考え、総合病院機能の維持に尽力されているほか、就任当初から地域との交流や病院内での情報共有を図れるよう奔走されてきた、福岡赤十字病院院長 寺坂禮治先生にお話を伺いました。

福岡赤十字病院外観

福岡赤十字病院は、日本赤十字社を母体としています。同法人は、全国に92病院を構えています。そのなかで、福岡赤十字病院は総合病院としての機能向上に注力しているほか、救急・地域医療への対応が充実している点も特色です。地域において最も求められている医療は24時間体制の救急医療です。また救急医療は全診療科の応用医学の上に成り立っています。

従って当院では、救急医療の実践にあたり『各診療科の本質的な医療の質の向上』を大前提として、重視しています。高度な応用医療である救急医療を提供するためには、各診療科の基礎的な部分をしっかりと固める必要があるということを念頭に置き、スタッフ一人一人が患者さんと向き合っています。

病床利用率は94%、患者延べ数は平均して月間14,000人ほど、外来は1日あたり約850人です。国の方針を受け、在院日数は少しずつ下がってきており、病床利用率は高くなってきています。また、昨年度より、最新の電子カルテを導入し、患者さんのあらゆるデータを効率的に蓄積しています。

・腎臓内科 腎疾患全域を、小児から大人まで幅広く診ています。血液透析、腹膜透析の実施、家庭血液透析の指導、さらには腎臓移植も行っています。

・循環器内科 循環器疾患を網羅的にケアしているほか、24時間体制の緊急カテーテル検査、PTCA, PTA, PPI、アブレーション治療を行っています。

糖尿病内科 同科の歴史は長く、数多くの患者さんが来院されます。合併症の多い糖尿病にも総合病院としての強みを活かした対応をしています。がんが発生した場合には、併行して手術的治療から化学療法、放射線療法まで細かで柔軟な対応をしています。

そのほか、婦人科緊急手術と分娩数で市内随一を誇る産婦人科。脳血管内治療専門医2名、指導医1名を手厚く配置している脳神経内科・外科。今年(2017年)4月よりリンパ浮腫の外科的治療(リンパ管静脈吻合)をスタートした形成外科など、強みを持つ診療科を整え、質の高い医療を提供しています。

上記以外にも多くの診療科を設けていますが、経営的な観点から考えると、これら多数の科を維持していくことはこの時代容易ではありません。しかし、当院では稼働の大小に関わらず、どの科であっても存続できるような経営環境を維持する努力を重ねてきました。

その理由は、体調不良の身体で来院された患者さんに対して「うちにはその診療科はありません」と、外部の病院へ突き放してしまうことの無いよう、患者さんの立場に立った診療を実践するためです。同時に、赤十字病院のあり方としても、患者さんを軽視した利益重視の運営はありえなかったからです。

当院が目指している病院は、まんべんなく各専門分野のプロフェッショナルを配置して、施設内で患者さんを包括的に診られる病院です。先にも述べましたが、困難は承知の上で、時代の流れに棹さしながら、総合病院としての機能レベルをどこまで保つことが出来るか、挑戦し続けます。

救急車

患者さんの病状が悪化し不安になるのは往々にして夜間です。これは、日没後の暗がりによって、人間の意識が自然と自身の体に集中するためです。そのため、地域の方々の要求に応えるには夜間も含めた切れ目のない医療を提供することが重要です。

また多くの患者さんは、自分の症状が軽傷なのか重症なのかわかりません。そのため当院の救急医療はER型で対応しています。即ち、ウォークイン(独歩など自力)で来る方も、救急車で来る方もすべて受け入れています。1次、2次はもちろんのこと、3次救急を受け入れることもあります。

高度な救急医療を担保するために、心臓外科、脳外科をはじめとして様々な診療科で緊急対応できるように準備しています。地域医療・救急医療は我々の使命なのです。患者さんからの求めにいつでも応じられるようにと、熱い志を持って日々の業務に従事しています。

もともと医師は勤務時間が変則になることが多く、またこれまでの慣習から、頻回に一堂に会して情報交換をすることはほとんどありませんでした。その結果、患者さんの治療に専念している医師たちは、病院組織の主柱でありながら病院全体の出来事に疎く、様々な情報が最も届きにくい存在となってしまいがちでした。電子カルテ導入により、電子媒体による情報配信により幾分か情報共有は改善されましたが、これを見ない医師も多くいます。私自身、このことは由々しき問題であると長く思っていました。医師たちは、いち早く病院の動きを理解し、情報を正確に把握することで病院の核となり、強いイニシアチブを持って病院の運営に貢献すべきとの思いを抱き続けていました。

そこで、7年ほど前に医師のために「早朝連絡会」を開始し、毎朝8時20分から10分間、様々な情報を共有する場を設けました。同会は現在まで継続しており、毎朝100名以上のスタッフが顔を合わせ、夜間の出来事や救急部からの報告を聞いてもらい、その後に私たち幹部や各部署からの連絡事項を伝えます。最後に当直業務に当たった医師へ向けて感謝と慰労の意味を込めた拍手を送り、会を締めています。こうした取り組みによって、情報伝達の不備が大幅に改善されました。毎朝一番に顔を合わせることで、自然とスタッフ同士のコミュニケーション不足も改善されました。最近ではこの場を借りて、医療安全の啓発も行なっており、朝会のなかで声がけを行なっています。対面で接するという生のコミュニケーションが功を奏して、スタッフ一人一人の意識が目に見えて変わっていると感じます。

十字マーク

初期研修医は1学年あたり12名が在籍しています。当院が都会の好立地ということも重なってか、研修先として人気を得て研修医の倍率は4倍前後となっています。また、救急対応もプライマリケアから3次救急まで幅広い対応をしていることや、数多くの症例に接することが可能であることも研修医にとっては魅力の一つでしょう。これらが要因となり、九州大学のほか、主として西日本、九州、沖縄の医学部から優秀な人材が集まって来ています。また、日本赤十字社が看護大学を保有していることもあり、例年150名ほどの看護師研修生を受け入れています。

本部をスイス・ジュネーブに構える赤十字だからこそできる取り組みの1つとして、「赤十字の歴史を訪ねる旅」を企画しています。年に一度、若手の有望な医療従事者2名を選抜し、この旅に派遣しています。内容は、1週間かけてスイスの赤十字社本部を含め、イタリア、スイスの赤十字にゆかりのある地をバスで巡り、赤十字の歴史を学んでもらっています。派遣された皆さんには、とても勉強になっているようで「大変感動しました」という感想をいただいています。

当院の基本方針には「地域連携」を掲げています。もちろん地域医療連携も含んだ地域連携ではありますが、病院として、何かしら「まちづくり」に積極的に貢献していきたいという思いの表現です。

まず、病院新築の際に、アネックス棟(付属棟)を建てました。一階にコンビニとATMを設け二階に広い講堂を設けました。この部分は医療部分ではなく職員・患者のみならず地域の住民の方々にも利用してもらうためのものです。特に二階の講堂では、市民公開講座を開催し市民に健康情報を提供しています。また「笑いは健康の元」、「笑いで免疫能を上げる」のコンセプトで漫才、落語なども開催しています。

特に地域の先生方のいろんな集まりに講堂を使っていただき好評を博しています。次に、市民と病院との接点として、敷地内で『産直マルシェ』(産地直売マーケット)なるものを始めました。近場の「道の駅」にお願いし月に2回ほど、そこで販売している新鮮野菜の移動販売をしてもらっています。地域の方々には大変好評で、多くの方に気軽に病院内へ足を踏みいれていただいています。

福岡県の農業振興に貢献したとして県知事表彰を受けるというおまけもいただきました。そのほか、地域への貢献として病院敷地内に交番を誘致するなど、地域連携のために様々な取り組みを実践しています。これらの活動により、病院全体の雰囲気が明るく活性化しているように肌で感じています。今後も地域の方々と積極的に関わっていきたいと考えています。

寺坂禮治先生

若い医師に向けて伝えたいことは、リスクを恐れず、「胆力(たんりき)」を持って、患者さん第一の医療に一生懸命、身命をかけてほしいということです。次に、医療従事者全体に向けて心がけてほしいことがあります。医療は間違いなくサービス業ですが、「患者さんはお客さんではなく、パートナーである」ということで他のサービス業と異なります。患者さんとタッグを組んで病の克服のために協働するということです。このことを忘れず、日々の業務に励んでもらいたいです。

また、福岡赤十字病院は、職員各人が協働の精神と質の高いサービスマインドを維持できるような環境を整えていきます。地域において医療関係者からも、欠かすことのできない価値ある病院になれるようこれからも挑戦し続け、広く「まちづくり」に貢献していきます。