院長インタビュー

博愛記念病院

博愛記念病院
武久 洋三 先生

平成医療福祉グループ 代表

武久 洋三 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

日本はこれから更なる高齢化社会へと進んでいきます。そのため政府は、医療費削減のために様々な政策を打ち出しています。医療制度が変われば、病院経営も変えていかなければなりません。武久洋三先生は「日本一の慢性期病院を目指す」理念のもと博愛記念病院を立ち上げられ、現在では急性期も含めて26病院を率いる理事長として日々地域の方に医療を提供し続けておられます。今回は武久洋三先生に、急性期病院・慢性期病院の現状から、これからの病院のあり方、武久洋三先生が最初に立ち上げられた博愛記念病院の理念と取り組み、その歩みについてお話をうかがいました。

病院のベッドで眠っている高齢の患者さん

現在病院に入院されている患者さんの8割以上が、75歳以上の高齢者の方々です。高齢者の方は、回復のスピードが遅いぶん、手術などの急性期の治療を終えた後も療養が長く続きます。そのため、急性期の治療が終了し、病状が安定した患者さんには、急性期のベッドである一般病床から、慢性期の病床へ移っていただくのが自然な流れです。そのため、短期間な急性期の病床よりも、長期間な慢性期の病床のほうが数を多くする必要があります。

しかし実際には、慢性期のベッド数は、急性期のベッド数の3分の1しかありません。なぜこのような状態でも成り立っているのでしょうか。それは、急性期医療を終え慢性期の病床に移るべき患者さんが、そのまま急性期の病床で入院を継続しているからなのです。

急性期の病床から慢性期の病床へと移行できていない理由は、急性期の患者さんは入院期間が短いために、皆が慢性期へと移ってしまった場合、多数のベッドが空いてしまうという病院側の考えが影響しています。

多くの患者さんから支持を得ている急性期病院であれば、また直ぐに患者さんが入ってきてくれるため、ベッドが空くということはありません。しかし、なかなか入院患者さんが入ってこない病院は、患者さんを急性期に留めることで、なんとか経営を成り立たせているというところも率直に言えばなくはないと考えています。

しかし、急性期の一般病棟は、慢性期医療の地域包括ケア病棟などに比べると、入院治療費が高くなります。そのため、高齢化が加速していく状態で、このまま急性期の治療が必要ない患者さんを病床に留めておくことは、医療費増加の面で非常に問題視されているのです。

介護施設

急性期医療を終えた高齢者の患者さんを、慢性期の病床に移行させれば、医療費は大幅に削減されます。また、慢性期の療養病床のなかにも、病状が極めて軽い方や、社会的入院(本来入院する必要のない患者さんが、引き取り拒否など家庭の事情から病院で生活をしている状態)の患者さんは多くいらっしゃいます。

そういった方々の入院期間を短縮して病床数を削減させるために、現在政府は、病床転換政策を進めています。病床転換政策とは、介護療養病床と25対1医療療養病床を介護医療院という名称に変更し、患者さんが退院した後も生活できる新類型の施設を病院内に作り、病院のベッドを転換させるというものです。2018年の4月に発足します。

病床転換政策によって、病院の3階は回復期リハビリテーション病床、4階は療養病床、5階は介護医療院の施設といったことが可能となります。そして、患者さんの移行もスムーズになり、病院内でベッドを効率的に活用できるのです。

また、病床転換政策が実行されることにより、急性期の病床にいる患者さんの数を絞り、慢性期の病床へと移行させます。そして、慢性期の患者さんのなかでも、治療があまり必要でない患者さんは、病院内の介護医療院へとシフトする一連の動きが強まっていくと思われます。

しかし、どこの病院でも病床転換として新類型の施設を配備し、退院後の生活も病院内だけで完結してしまうと問題も出てきます。今まで、病院から退院した患者さんが移動していた施設などに、患者さん集まらなくなってしまうという点です。病床転換政策により、課題が全て解決するというわけではありません。

DPCとは、2005年から導入された制度で、誰にいつどこでどのような治療を行ったのかといったデータを、1つのITシステムにまとめるというものです。現在は、急性期・慢性期共に、病院側がDPCのデータを厚労省に提出することで、加算の資金が支給されるようになっています。

DPCを導入したことによって、1人の患者さんが、急性期医療から在宅医療にわたるまでいつどこでどのような治療を受けてきたのかがわかるようになり、診療方針の決定がしやすく、効率的に治療が行えるようになります。

また、病院が良質な医療を提供していくことにもつながります。病院における治療の過不足についてもわかりやすくなりますし、末期がんなどであまり治療を行っていない患者さんは、病院ではなく施設に移るように助言することも可能となります。このように、病院における治療がみえやすくなり、そこからより質の良い医療を目指していくという利点もあると考えています。これからは、過不足のない適切な医療を提供する病院がより評価されるようになるのではないでしょうか。

悩んでいる人

2000年頃までは、病院のベッド数よりも患者さんの数のほうが多い時代だったため、病院が入院する患者さんを選んでいる状態でした。しかし近年、地方では人口がどんどん減少しており、病院のベッド数と患者さんの数は逆転し、患者さんが病院を選ぶ時代となりました。

地域のニーズに合わせた医療を提供しながら、短期間でよい治療結果を出さなければ、患者さんには選んでいただけません。なかなか退院させてもらえず病状もよくならないという病院では、患者さん同士のなかで口コミが広がり、地域からの信頼を失ってしまいます。地域からの信頼を無くした病院の存続は厳しいものです。

現行の診療報酬は「成果」や「アウトカム」を評価する形式ではほとんどないのが現実です。そのような中で、手術を1回で成功させて患者さんに良い結果をもたらしても収入が増えないなどという矛盾が起きていました。しかし、これからは少しずつ診療報酬体系も変わっていくと考えます。患者さんにとってきちんと成果の出るよい医療の提供をしていかなければ評価はされません。

2016年から今年にかけて、回復期リハビリテーション病床にアウトカムの評価(リハビリを行うことで生まれた成果を評価する)が導入されました。アウトカムが評価される中でこそ、本当によい医療が生まれていくのではないかと私は考えています。

私は慢性期医療を充実させ、日本一の慢性期病院を作るという決意のもと徳島県で博愛記念病院を最初に設立しました。第一に、博愛記念病院の理念は患者さんを決して見捨てないということです。どんなに重症の患者さんがいらしても、常に良い医療やケアが提供できるように最善を尽くしています。また、入院患者さんは病床に空きがあるかぎりは絶対に断らないことを目指しています。これは病院設立当初からずっと変わらずに行っていることです。そのため、徳島赤十字病院などからは、博愛記念病院ではどんな患者さんも受け入れてくれると、多くの患者さんを紹介してもらっています。

このような取り組みが功を奏し、博愛記念病院に行けば質の良い医療やケアが受けられるという話が広がり、地域の病院からの紹介が増えました。また、患者さん自身も複数ある病院のなかから博愛記念病院を選択してくださっています。素晴らしいスタッフと共に、コツコツと地道に患者さんの治療にあたってきたからだと考えます。

誠実に仕事を続けていく中で、さまざまな病院から「経営を見て欲しい」と頼まれることが増えてきました。今ではグループ全体で急性期も含めて26病院で全国さまざまな地域において患者さんに良い医療を提供するべく邁進しています。初心を忘れずに病院を運営していくと共に、日本全体として医療を持続可能にしていくためにはどのようにすればよいのかを考え続けていきます。

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