病と向き合うだけではなく、どう生きるかに向き合う。そうした理念を持ち、これまでの病院のイメージを大きく変えていく病院が愛媛県にあります。四国の中央に位置し、地域の医療を支え続ける、社会医療法人石川記念会HITO(ひと)病院です。
HITO病院の理事長/病院長を務めるのは二代目院長の石川賀代先生。父親がこの土地に創立した「石川病院」を、2013年4月に新病院へと生まれ変わらせ、「病院らしくない病院」をコンセプトに新たなスタートを切りました。
移転から5年を迎え、HITO病院の魅力やこれまでの特色ある取り組み、そして今後の展望について、石川先生にお話をお伺いしました。
当院は2013年に257床の新病院として開院しました。病院のコンセプトは「いきるを支える」で、病院の名前も数ある候補のなかから「HITO(ひと)」を採用しました。
HITOには、
•Humanity
患者さまを家族のように想い、温かく接します。
•Interaction
患者さまとの対話を尊重し、相互理解に努めます。
•Trust
技術と知識の研鑚に努め、信頼される医療を目指します。
•Openness
心を開き、患者さまと公平に向き合います。
という意味が込められています。
病院名を決めるとき、他にも様々な候補がありました。これまでの「石川病院」という名前には、どうしても石川さんが作った病院、という創立者中心のイメージが強くなってしまう印象がありました。そこから一歩抜け出し、より公平性を出すためにも、セオリーでない病院名を採用するに至りました。
この「HITO」という言葉には、患者さん、つまり人を真ん中にして医療を考え、病を診るだけではなく人を診る医療を提供したいという思いを込めています。そしてこの病院名をスタッフが口にするたびに、その理念や行動規範を意識できるものにしたい、という思いもあります。
また、当院は内装に関してもくつろげる空間を意識し、病院らしくないデザインを意識しました。院内にあるレストランや喫茶・コンビニは病院サービスをご利用いただくなくても、ご利用が可能ですので是非一度お立ち寄りください。
当院は、愛媛県の東の端、医療圏で言うと宇摩(うま)圏域と言われている「四国中央市」にあります。四国中央市はその名の通り香川県、徳島県、高知県の県境に接しており、四国4県どの県庁所在地へも1時間程度で行くことができる「四国の中央」にあります。そのため当院へは、県内の患者さまだけでなく香川県や徳島県からも患者さまが来られます。圏域をまたいだ広い地域の医療を支える役割を担っています。
私の父が約40年前、この地域に石川病院(石川外科医院)を開設しました。そして5年前、県立病院からの病床移譲を期に病院を建て替え、今のHITO病院があります。父が病院を開設する前は、この地域には救急病院が少なく、救急搬送はすべて香川県に頼らなくてはいけない状況にありました。「これでは助かる命も助からない、この土地に救急病院が必要だ」と父が考え、開業したのが石川病院です。そのため当院は創立時よりこの地域の急性期医療を担っているのです。
こうした創立の経緯があることから、急性期医療は当院の大きな基盤となっています。
それと同時にこの地域では回復期医療を担う病院が少なく、転院が難しいという現状があります。そのため当院は急性期医療だけでなく、回復期リハビリテーション病棟50床、地域包括ケア病棟53床を備えることで、回復期の医療を自院で提供できる体制を整えています。
高度急性期から急性期、回復期、慢性期とあらゆる病床を持ち備えるケアミックス病院として、患者さんに安心して入院していただけるような環境を整備するだけでなく、地域の他病院からも後方支援病院として役立てていただけるようになってきています。
また、急性期治療と回復期治療は本来密な連携が必須となるものです。たとえば脳卒中の患者さんでは、超急性期からしっかりとリハビリを行い、寝たきりになってしまうことを防ぎ、在宅復帰に導くことがとても重要です。こうした理想的な脳卒中治療を行うには、急性期治療と回復期治療の連携をきめ細かく進めていく必要があります。そうした意味でも、回復期リハビリテーション病棟を備え、在宅復帰へとしっかり導いていける体制があることは、当院の大きな強みの一つであると考えています。
こうした急性期と回復期の連携をとるためのケアミックス体制は、前身の石川病院時代より続くものです。患者さんの、また地域のニーズに応えるケアミックスという体制は、当院が昔から有する非常に大きな特色です。
当院は病床数257床、標榜科目は2017年現在下記のとおりです。
地域の診療ニーズに答えていけるよう、診療科の充実にも力を入れています。ここでは数ある診療科のなかでも特に特色ある診療領域についてご紹介します。
2014年に救急外来・ハイケアユニット(HCU)を開設し、迅速で手厚い救急医療が行えるようになりました。宇摩圏域の救急搬送の約4割を当院にて受け入れています。
ハイケアユニットでは、救急外来からの急病や重症のため緊急入院が必要な方、全身麻酔の手術をした方、一般病棟で容態が悪化し重症管理が必要な方などが対象となります。ベッドサイドには高機能モニターを設置し、24時間患者さんの確認ができ、異常の早期発見や急変時の迅速な対応が可能です。
患者さんは、急な入院で受け入れ難い状況のなか、厳重な安全管理のもと様々な医療機器に囲まれた特殊な環境で、不安を抱えて入院生活を送られます。だからこそ私たちは患者さんやご家族の不安の緩和に努め、その人らしい入院生活が送れる援助を心がけ、一日も早い回復を目指して努力しています。
特に当医療圏の脳卒中や心疾患の救急診療を広く担っています。人口約9万人の四国中央市でのなかで、心疾患に対するPCI(経皮的冠動脈形成術)が可能、または脳疾患対応が可能である病院は当院のみです。
発症後の早期の対応が非常に重要となり、「時間との勝負」ともいえる疾患は、その圏域の中でしっかりと受け入れることができるよう、特にこの二つの疾患には力を入れ、地域の循環器疾患・脳卒中を治療する最前線としての役割を担っています。
当院には全部で5つのセンターを備えています。
これらはこれから増えていくと予想される疾患に対して、多職種の医療従事者がチームアプローチを実践し治療を行うというコンセプトで計画されました。重症化すると網膜症や透析に至る糖尿病、高齢者に多い股関節の悪化など、これから増えていく疾患に対してしっかりチーム医療で横断的に支えていこうという取り組みです。
例えば統合型歩行機能総合センターでは、総合診療医のトリアージから始まり、多職種のアプローチによって患者さんの歩行困難の原因をみつけ、患者さんにあった治療やリハビリを行っていく取り組みを行っています。
患者さんの「歩きにくい」という訴えに対しては、発熱によって歩けないのか、腰が悪くて歩けないのか、リウマチ症状によって歩けないのかなど、さまざまな可能性が考えられます。一体どのような要因が歩行を困難にしているのか、多方面から判断していきます。
人は歩けなくなると認知機能が低下し、日常生活も困難になっていきます。特に高齢の方が歩行困難となると、自立して生活することができなくなります。そのため「歩ける」ということは生活を営む上で非常に重要なことです。統合型歩行機能総合センターではHAL®医療用下肢タイプも導入し、総合診療科(院内標榜)、整形外科、脳外科、神経内科、内科の医師、看護師、リハビリスタッフなど多職種のメディカルスタッフが介入し、患者さんの「歩く」をサポートしています。
今、日本の医療はそれぞれの治療用域の専門性を高める動きが強まっています。専門性を高めることはより質の高い医療を提供できることに繋がる一方、患者さんが「歩きにくい」というご自分の症状に対して、どの診療科にかかればいいのかわからなくなってしまっている現状もあります。診療領域の軸ではなく、患者さんの症状軸で治療を考えていくことも重要です。
当院では、「センター」という組織横断的な組織を作り、歩けない患者さんに対して多職種・多領域の視点から診断・治療・リハビリテーションを組み立てているのです。
2016年には「HITOフェスタ」を開催しました。本フェスタは、さまざまな医療に関する体験を通して、未来を担う地域の子どもたちに、「医療」を身近に感じてもらうと同時に、この地域にお住まいの方々とふれあい、交流を深め、HITO病院の魅力や機能を知っていただきたいという思いで開催しています。
昨年のフェスタでは、手術室など病院の一部を開放し、医療体験ツアーを開催しました。その他にも地元出身医師とのトークショー、視力・聴力・筋肉量などの健康チェックができるコーナー、当院の制服を着ての写真撮影コーナー、緊急車輌の乗車体験なども実施しました。こうした取り組みで医療に興味もつ子どもたちが増え、少しでも当院のことを知ってもらえたら嬉しいと思います。本フェスタでは、普段お世話になっている企業の方や、地域の皆様に、飲食や物産展の出店のたくさんのご協賛やご支援をいただきました。当日は1,000名以上の方々が参加してくださり、イベントは大盛況のうちに終えることができました。
病院は、病気を治すだけの場所ではないと考えています。例えばHITOフェスタのようなイベントや、病気の予防、健康づくりの取り組みを通じて、様々な年代のみなさんと関わっていきたいと考えています。私も、創立者の父もこの地域が出身で地元です。そうした思い入れのある地域のみなさんに、病院は病気を治すだけの場所でないことを知ってもらって、当院のことをもっと身近に感じてもらいたいと思っています。地域のみなさんに対して私たちができることを考え、これからも取り組んでいきます。
当院では現在、5疾病であるがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、認知症、救急医療、緩和ケアのチームを立ち上げています。それぞれの専門性を発揮し、患者さん中心の看護を提供するために、チーム医療は欠かせません。 当院では医師を中心に、看護師、薬剤師、放射線技師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフ、医療クラークなど職種を超えたチームを編成し、カンファレンス、勉強会などを通して情報共有をしながら、きめ細かい医療の提供を目指し取り組んでいます。
当院では昨年(2016年)に、患者さんの状態を総合的に判断し診察できる総合診療医が着任しました。そして来年からは総合診療専門医の養成プログラムを行えるよう準備を進めています。地域で働く医師は地域で育て、輩出していきたいと考えています。
初期臨床研修医の先生方に対しては、急性期治療から慢性期治療までを幅広く診られることが当院の魅力だ、ということをお伝えしたいです。
当院は地域に密着した病院で、救急医療から在宅医療まで幅広く、チーム医療を実践しながら医療に関わっていくことができます。医師となって早い段階でこういった環境に触れられることはとてもよい経験であり、こうした環境を経験することにより、その後の医師のキャリア形成に大きな違いが現れてくるのではないでしょうか。これからは高齢者が増え、様々な疾病の治療の重要性が高まってきます。どの専門領域に進むとしても、様々な疾患を抱えた患者さんを治療していく対応力が非常に大切でしょう。当院は、そういった診療の目を養っていただく場としては非常に良い環境ではないかと思います。
医療従事者の方々は若いときには忙しく、がむしゃらに働くことができると思いますが、いずれは結婚や出産など、自分のライフスタイルによって、それぞれが求める仕事の形が変わっていくことが考えられます。特に看護師は女性が多く、そうしたライフイベントによる仕事への影響を大きく受けやすいと思います。当院は、グループ全体で多様な働き方があり、人生の様々な段階においてその人らしい生活を重視しながら、仕事でのやりがいも一緒に実現できる環境だと思います。ライフイベントとの折り合いをつけながら、仕事を継続的に取り組んでいきたいと考えておられる方に来ていただけたら嬉しいです。
当院のコンセプトは「いきるを支える」です。これからは地域の方々とどうかかわっていくかを考え、人々の生活を見据えた支点がさらに重要になることでしょう。病気になったときにだけ病院にかかるのではなく、普段からの生活や健康を支えていくということがこれからの医療には必要です。おそらく私たちの医療のあり方も、この10〜20年で大きく変わっていくでしょう。そうしたときにICT(情報通信技術)活用して疾病予防や健康管理に役立てていくなど、予防や健康管理で生活を支えるということが重要になってくると思います。
そして急性期医療から在宅医療までの連携の強化がさらに求められ、それにかかわるスタッフの協力体制もおのずと定まってくるでしょう。こうした人々の生活を支えること、そしてそれを実現し、継続的に提供し続けられる体制を整えていきたいと思っています。こうした生活を支えるということが「いきるを支える」ということです。
今後もこの「いきるを支える」というコンセプトを軸に、父が創り上げてくれたこの病院を残していく、継続していく、ということが私の一番の役目として取り組んでまいります。
社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長・病院長
社会医療法人石川記念会 HITO病院 理事長・病院長
日本肝臓学会 肝臓専門医日本内科学会 総合内科専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本消化器病学会 消化器病指導医
1992年東京女子医科大学卒業後、同大学病院へ入局。1999年より大阪大学微生物学教室非常勤講師を務め、2000年医学博士取得。2002年に医療法人綮愛会石川病院(現社会医療法人石川記念会HITO病院)入職。2005年副院長、2010年院長に就任。2012年HITO病院開設。HITO病院の理事長・病院長として、「Human 1st.」の精神を忘れず、幅広い世代の方々のご意見に耳を傾け、患者さんの「いきるを支える」医療を提供しつづけることを目指している。
石川 賀代 先生の所属医療機関
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。