院長インタビュー

足利赤十字病院

足利赤十字病院
小松本 悟 先生

足利赤十字病院 院長

小松本 悟 先生

この記事の最終更新は2017年10月13日です。

栃木県足利市にある足利赤十字病院は、2011年(平成23年)7月に完成した新しい施設で地域に医療を提供しています。新施設の完成以来、採用されている革新的なアイデアが全国の医療従事者から注目を集めてきました。新施設に込めた思いや、完成に至るまでの経緯について同院の院長である小松本 悟先生にお話を伺いました。

当院は、28診療科・555病床数を有する地域の機関病院・急性期医療機関です。新施設完成以来、そこに採用されている省エネ化及び利用者の快適性を追求したグリーンホスピタル構想や病室の全室個室化といった革新的なアイデアが、全国の医療従事者からの注目を集めてきました。

2015年(平成27年)2月には、国際的な医療機関としての認定であるJCI(Joint Commission International)を取得しています。当院では、あらゆる取り組みが患者さんを第一にという思いのもと行われてきました。年に一度病院が独自に行っている満足度調査では、常に患者さんの80%以上が満足であると回答しています。

当院は、2015年(平成27年)2月付にJCIの認証を取得しました。JCIとは、米国に本部を置く「The Joint Commission」が国際的な医療機関としてふさわしい施設に与える認証です。当院は、日本の医療機関として9番目にJCIの認証を取得しました。

JCIの認証を取得するためには、「The Joint Commission」の1,146項にも及ぶ審査項目をクリアしなければなりません。その審査項目をクリアする過程で医療と看護の質が高められると考えられます。また、国際的な医療機関としてふさわしい病院であることが患者さんの安心につながるという思いから、認証取得に向けた当院の取り組みはスタートしました。

当院がJCIの認証取得に向けた取り組みをはじめた目的は、ふたつあります。

ひとつ目は、国際的な医療機関としての認証を得る過程で医療と看護の質を高め、病院のレベルアップを図るというものです。

当院は、2011年(平成23年)7月に現在の新施設へと移転してきました。国際的な医療機関としての認証取得をめざしたのは、新施設の設計を計画する以前のことです。新たに建設する施設へJCIの審査項目に即した設備を導入することで、高い水準で医療を提供することのできる施設設計をめざしました。

新施設移設後の2011年(平成23年)10月には、医療機関の機能を評価する日本医療機能評価機構よりバージョン6の認定を取得しました。当院は、それから1年ほどの準備期間を経てJCIへの認証申請を行いました。JCIの認証取得をひとつの指針として新施設や新施設での医療体制を整備していくことで、スタッフの意識も向上し病院全体のレベルアップにつながったことを実感しています。

ふたつ目の目的は、患者さんの安心につなげたいというものです。JCIの認証を取得するために設けられた1,146の審査項目は、すべて患者さんの安全面に関するものです。つまり、JCIの認証を得ているということは、患者さんの安全面に関して国際的な評価基準を満たしていることです。これが、患者さんにとって大きな安心につながると考えています。

さまざまな疾患をかかえる患者さんにとって、自分が入院している病院が信頼に値する場所かどうかという問題はとても重要です。質の高い医療サービスの提供を実現するためには、安心して入院生活を送ってもらう工夫が必要不可欠なのです。

アジア諸国、特に韓国やインド、シンガポールなどに比べ、日本にはJCIの認証を取得している医療機関がまだまだ多くはありません。しかし医療の質を向上させ、また患者さんの安心材料にもなり得るJCIの認証取得は今後、取得をめざす国内の医療機関がさらに増えていくことを願っています。

すべての患者さんに快適な入院期間を過ごしていただけるよう、当院では病室の全室個室制を採用しています。共同病室では、入院患者さん同士がお互いに気をつかわなければなりません。また、複数の患者さんが同じ部屋を利用すれば感染症のリスクも高まります。プライベートな空間で安心・快適に過ごしていただくことが、患者さんの満足につながっていると実感しています。

病室の全室個室制の採用と並行して、当院では混合病棟を設置し診療科ごとに分かれた病棟を撤廃しました。診療科にとらわれない混合病棟という考え方に基づき、35個の病室で1つの看護単位を形成し患者さんのサポートにあたっております。

入院中の患者さんにとって、もっとも重要なことは快適に入院生活を送ることです。より快適な入院生活を患者さんに過ごしていただくために、当院では診療科の垣根をなくした全室個室による35床1看護単位という病棟システムを採用しています。

当院が採用した全室個室・35床1看護単位によるサポート体制は、患者さんへの快適な入院生活の提供に留まらず、病院の経営面にも大きなプラスとなっています。当院では、ながらく病床稼働率を100%に維持してきました。これは、全室個室・35床1看護単位による混合病棟だからこそ実現できる数字です。

多床病室では男女を分ける必要があるため、すべての病床を埋めることが難しくなります。また、病棟を診療科ごとに分けるシステムでは、多くの場合特定の診療科に空き病室が発生してしまうのです。全室個室・35床1看護単位によるサポート体制ならばそのような問題をクリアできます。常に病床稼働率100%を維持でき、結果として当院の経営は安定しています。当院では、新施設の建設にあたり病床数を555床としました。

さまざまなシミュレーションから適正な病床数を算出することで現在、病床稼働率を100%に維持できているのです。

経営を安定させることは、病院を存続させるためる大切なことではあります。さらに医療の質を向上させるという面においても大切なことです。経営がうまくいっていれば医師たちの研究費を捻出でき、その研究の成果が日本の医療を進歩させるのです。加えて、医療設備を充実させることもできるためハード面での医療サービスの向上を実現します。

院長に就任した当時から、私は病院経営の大切さを訴えてきました。MBAを取得したのもそのためです。病院の進むべき方向を見極めきちんと経理を管理し、スタッフたちを導いていくことが大切であると考えています。

当院では、入院している患者さんをあらゆる面でサポートすることに加え、入院待機中の患者さんの管理やほかの医療機関との連携などを一括で行う部門である「入退院センター」を設置しております。この部門を正確に機能させることで病床稼働率100%を維持できています。

超急性期及び急性期医療を担当する当院では、慢性期に入った患者さんを地域の他病院へ紹介させていただいております。すべての入院患者さんの状態を完璧に把握したうえで、早急に入院が必要な次の患者さんのために病床を管理していく専門の部門である「入退院センター」が、病床をフルに稼働させていくためには必要不可欠です。

当院と地域の他医療機関との協力体制はまだ十分に機能しているとはいえません。超急性期・急性期医療に特化した病院と、慢性期の患者さんの受け入れを行う病院の連携がスムーズなものになることで、強固な地域完結型医療体制は実現します。今後は、さらに円滑な協力体制が構築できるよう、地域の医療機関に呼びかけを行ってまいります。

当院が採用している混合病棟は理想的なシステムでありますが、一方で当然リスクもともないます。もっとも高いリスクとなるのが医師の移動の問題です。診療科にかかわらず、あらゆる患者さんを35床1看護単位でサポートしているため、たとえば内科の患者さんが同じフロアに集まっているという訳ではありません。つまり、医師は自身のかかえる患者さんを診療するために、フロアを移動する必要があるのです。特に、患者さんの容態が急変し緊急を要する場合には迅速な移動が求められます。

新施設の設計で頭を悩ませたポイントはここです。混合病棟を実現させるうえで最大のネックとなるこの問題をクリアするため、当院はバックヤードの整備と高速エレベーターを採用しました。

特に、5機の高速エレベーターを自動で制御し、目的の階にもっとも早く到達する方法を算出するシステムの導入が、混合病棟の計画を現実味のあるものに変えてくれました。このシステムの導入により、スタッフが不満なく業務にあたることのできる混合病棟が実現したのです。

2011年(平成23年)7月に完成した当院の新施設には、省エネで安心・安全、患者さんやスタッフにもやさしい建築「次世代型のグリーンホスピタル」というコンセプトを導入しました。自然エネルギーの利用が可能な設備を設置することで省エネを実現し、また、院内の設計を患者さんやスタッフが安全に気持ちよく利用することのできるものとすることを目指したのです。

新施設に導入した、この「グリーンホスピタル」というコンセプトが評価され、当院は国土交通省より「住宅・建築物省CO2推進モデル事業」の採択を受けることができました。さらに、第27回空気調和・ 衛生工学会振興賞技術振興賞や第1回カーボンニュートラル大賞、第11回環境・設備デザイン(BE賞)など数々の賞を受賞しています。

また当院では、新施設の素晴らしい院内環境を維持することに努めてきました。患者さんにもスタッフにも綺麗な病院で気持ちよく過ごしていただけるよう、今後も環境の維持に努めてまいります。

小松本 悟先生

当院は、病室の全室個室制やグリーンホスピタルというコンセプトを採用することで患者さん第一の医療を実現してきました。どんな患者さんも断らない、すべての救急車を受け入れるという当院の思いは、今後も変わることはありません。

ひとつだけご了承いただかなければならないことは、病床稼働率が常に100%である当院では、急を要する患者さんが発生した場合に、容態が安定している入院患者さんに退院をお願いする場合があるということです。これはすべての入院患者さん及びご家族様にあらかじめご承知いただいています。当院を頼りにしてくださる方々を少しでも多く受け入れるために、どうかご協力をお願いいたします。

平素より当院の理想にご理解をいただいている患者さんには、この場を借りてあらためて御礼を申し上げます。当院は、これからも地域のあらゆる患者さんのために医療を提供していく所存です。お困りの際には、ぜひ当院を頼りにしていただければと考えております。

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