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災害時における共助と企業の役割−第15回都市防災と集団災害医療フォーラム参加レポート

災害時における共助と企業の役割−第15回都市防災と集団災害医療フォーラム参加レポート
有賀 徹 先生

独立行政法人労働者健康安全機構 理事長 、学校法人昭和大学 名誉教授

有賀 徹 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月10日です。

2018年5月21日、一般社団法人日本医療資源開発促進機構(MRD)が主催する第15回都市防災と集団災害医療フォーラムが開催されました。フォーラムには、企業や病院、自治体などさまざまな立場の方が参加され、災害時の共助(きょうじょ)について情報共有を行いました。今回はフォーラムで基調講演を務められた有賀徹先生(独立行政法人労働者健康安全機構理事長・昭和大学病院前院長)のご講演内容をお伝えいたします。

はじめに、一般社団法人日本医療資源開発促進機構代表理事である横山孟史先生と衆議院議員の安藤高夫先生よりご挨拶がありました。

横山孟史先生は、いつ巨大地震が発生してもおかしくない日本において、災害発生時の国の援助には限界があるため、自らの地域における共助と自助が重要であるというお話をされました。そして、そのためには企業との連携は欠かせないとのことです。

安藤高夫先生は、災害時における病院や施設における課題を提示されました。災害時には、災害拠点病院に指定されている急性期病院だけでなく慢性期病院、介護施設などにもたくさんの方々が押し寄せます。そのため、地域が一体となって災害に備えるべきであるとお話しされました。

急性期病院…病気が始まり、病状が不安定かつ緊急性を要する患者さんを中心的にみる病院

慢性期病院…病状は安定しているが、治癒は難しい状態が続く患者さんを中心的にみる病院

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一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムの理事長を務める有賀徹先生からは、ヘルスケアBCPにおいて、企業や地域のあらゆる組織との共助が重要であるとのお話がありました。以下、有賀徹先生のご講演内容です。

BCP(Business Continuity Plan)…事業継続計画のこと。災害発生時などに重要業務を中断せず事業を継続し、万が一事業が中断したときには重要な機能を復旧して、損失を最小限にとどめるためのもの。医療界(医療や介護福祉)におけるBCPをヘルスケアBCPとよぶ。

2017年3月、災害拠点病院におけるBCP策定が義務化されました。医療におけるBCP(ヘルスケアBCP)を策定するうえでは、院内外でどのような災害が起こるのかを予測し、その対応について考える必要があります。

病院内で災害が発生したとき

病院で発生する主な災害は火災です。また、火災の発生原因のうち約30%は放火によるものです(2012年〜2016年 東京消防庁管内の病院・診療所における火災)。したがって、院内の火災は病室や診察室、廊下など院内のあらゆる場所で起きる可能性があります。

このような想定をしたうえで、まずは自分が勤務する病院の防火区画(火災を部分的に止め、他への延焼と煙の拡散を防ぐためのもの)や防火戸(防火区画を区切るもの)を把握する必要があります。

そして、正しい避難誘導方法についても知っておく必要があります。病院には、高齢者や重症者など自分で避難することが難しい方が多くいます。そのため、病院における避難誘導は水平方向に避難する水平避難や、安全な場所にとどまる籠城避難(ろうじょうひなん)が基本です。

非常階段などで上階から下階へ避難する垂直避難では、1人の患者さんに対して複数の人員が必要です。しかし、災害発生時にそれだけの人員を確保することは現実的ではありません。そのため、防火区画を把握したうえで、水平避難や籠城避難の訓練を行う必要があるでしょう。

病院の被災や広域災害が起きたとき

自らの病院が被災したとき、自分たちだけで対処することは難しいため、周りの組織との連携が非常に重要になります。たとえば、病院が何らかの医療法人グループに属しているときには、グループ病院同士の連携を取り、支援を行う体制を整えることが大切です。

また、広域災害が発生して周辺の病院がすべて被災したときには、被災地内外のあらゆる組織で連携を取ることが重要です。あらゆる組織とは、病院に限らず、行政や各病院のDMAT(災害派遣医療チーム)やJMAT(日本医師会災害医療チーム)、各企業などです。

また、地域包括ケアシステムのなかで、地域メディカルコントロール体制(以下MC:医療統括体制)の機能を強化し、MCの主導を担う医師を育成することも重要です。また、昨年度の日本医師会救急災害医療対策委員会において、救命救急士を登録・組織化して、災害発生時の医療に積極的に関与してもらうことも協議されました。

日本では高齢化が急速に進み、私たちを取り巻く状況は大きく変化しています。

このような状況のなかで、経済界は高齢化社会をチャンスと捉えるべく、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などの最新技術を駆使したサービスを生み出そうとしています。これによって、新しい雇用が生み出され、消費と生産が増大すれば、社会保障も活性化していくでしょう。

このように、経済界がさまざまな取り組みをしているなかで、医療界もしっかりと社会の変容を捉えて、安心して暮らせる社会づくりをしていく必要があります。

日本の世帯構成は大きく変わっている-社会連帯の重要性

日本では、単身世帯や高齢者単身世帯、ひとり親世帯が増加しています。人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2013年1月推計」によると、2035年には単身世帯が約3世帯に1世帯、高齢者単身世帯がおよそ7世帯に1世帯、ひとり親世帯がおよそ9世帯に1世帯になると予測されています。

このように、社会との関わりが希薄になりつつあるなかで、私たちは社会連帯の重要性について再認識する必要があります。社会で連帯関係を構築しないと、社会は解体し、いずれ崩壊していくでしょう。

高齢者の貧困も増加

さらに、生活に困窮する高齢者も増加しています。貧困の背景は、「低年金や無年金で収入が低く、貯蓄もない」「働いていない子どもを養っている」「病気を持っていて医療費がかさむ」「離婚して単身である」などさまざまです。また、生活保護を受給している65歳以上の世帯は、2015年には約80万世帯にのぼります。そして、そのうち約8割は単身世帯という現状もあります。

このような、苦しい生活を送っている高齢者を支えるために、社会の仕組みを整えることは日本に課せられた大きな課題といえるでしょう。

安心して働き、安心して暮らせる社会をつくるためのセーフティネットを

超高齢化社会、単身世帯の増加、高齢者の貧困…などさまざまな課題を抱える日本では、社会のセーフティネットとして地域包括ケアシステムを充実させることが重要です。また、一般企業とスクラムを組みながら、実効的なヘルスケアBCPを策定していくこともとても大切です。このようなセーフティネットを作ることはそれ自体が災害対策といえますし、安心して暮らす社会をつくることにつながります。そして、安心して暮らすことができる社会ができれば、総労働力の維持や社会保障制度の充実、最終的には国の繁栄にも寄与すると考えます。

ヘルスケアBCPは、病院や医療に特化した枠組みでは成り立ちません。災害発生時に医療を継続していくためには、製薬や食料品、インフラなどを供給する企業との協力が欠かせません。そして、そのためには日頃から経済・産業界と密な情報交換を行い、連携を取りながらヘルスケアBCPを発展させていく必要があります。

また、医療と企業が連携を取ることで、企業が持つ技術を使った新しいサービスが生まれ、企業にとってもさまざまな利益をもたらすと考えます。このような複合領域が生み出されることで、新しい枠組みへ進化していくことも期待できます。企業をはじめ、さまざまな組織と連携した地域に根ざしたヘルスケアBCPは、社会の発展につながることでしょう。

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