院長インタビュー

地域の中核病院として住民を支えるために-大和高田市立病院の取り組み

地域の中核病院として住民を支えるために-大和高田市立病院の取り組み
岡村 隆仁 先生

大和高田市立病院 院長

岡村 隆仁 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年09月06日です。

大和高田市立病院は、1953年に市民病院として開設されました。開設当初は病床数85床の小規模な病院でしたが、徐々に拡大し、1970年の移転と同時に320床を有する規模となりました。

地域の急性期病院として、永年住民を支えてきた大和高田市立病院では、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。院長である岡村 隆仁先生にお話を伺いました。

病院外観 大和高田市立病院

大和高田市立病院は、大和高田市を含む中和医療圏を長年にわたって支えてきた伝統のある病院です。当院は開設以来、医療の高度化と医療ニーズの多様化に対応すべく、診療体制と医療施設の整備に積極的に取り組み、急性期型の総合病院として機能してきました。一方で、訪問看護ステーション、老人保健施設との連携、地域医師会との交流など、地域に根ざした病院として地域医療の貢献に努め、中和医療圏の基幹病院としての役割を担っています。

中和医療圏は東西に橿原地区と葛城地区がありますが、橿原地区には奈良医科大学が存在し、すでに二次救急輪番体制が整備されています。しかしながら、当院が属する西側の葛城地区(4市1町、人口23万9千人余り)は、当院が内科医師不足に陥り、当院単独で地域の救急医療を支えることが困難になったため、二次救急の空白地帯となり、救急医療体制の整備が喫緊の課題になりました。そこで当院が新たに二次救急輪番制度を提唱、近隣の5病院と連携し、2018年4月から、葛城地区二次救急輪番を試行的に開始し、さらに2018年10月から、行政と協同して本格稼働する計画です。今後は、地域の医療機関との連携を深めながら、住民が安心して暮らせるような医療の提供に努めたいと考えております。

当院は、外科・産婦人科・泌尿器科におけるがん診療の実績が豊富で、2014年から奈良県がん診療連携支援病院に指定されました。外科では、年間約800件*1の手術を行っています。なかでも侵襲の少ない腹腔鏡を用いた手術に積極的に取り組み、胃がん大腸がんに対する腹腔鏡下手術も早い段階から取り入れてきました。さらに消化器がんでは、2017年6月、奈良医科大学より肝臓・胆のう・膵臓外科の元講師が赴任となり、肝臓・胆のう・膵臓外科の高難度手術が安全に行えるようになりました。また乳がんの分野では、毎年100件以上*2の根治手術を行っており、奈良医科大学形成外科の支援により乳房再建手術も行っています。

手術だけでなく、がん治療に取り組む各診療科とも、化学療法や放射線治療にも積極的に取り組んでいます。特に放射線治療では、2016年に放射線治療センターを設立し、複数の画像誘導装置を有する放射線治療システムを導入、さらに2018年4月からは強度変調放射線治療(IMRT)を開始しました。

1 外科における手術総数 2016年1月~12月実績 817件
2 乳がんに対する手術件数 2016年1月~12月実績 110件

当院の取り組みでユニークなものが、「中和のがん撲滅を目指す会」を毎年開催していることです。当院と大和高田市医師会、奈良県薬剤師会、大和高田市保健センターが中心となり、当院の職員が講師になったり、外部から講師を招いたりして、2007年からさまざまな種類のがんに関する講演会を開催しています。開始当初は50〜60名ほどの参加者でしたが、2018年現在では200名ほどがいらっしゃるようになりました。講演テーマに取り上げるがんの種類にもよりますが、幅広い年齢層の方に参加いただいています。また、実際にご自身やご家族ががんを患っている方も多くいらっしゃいます。

当院では、年に2回、手術を受けられた乳がんの患者さんが集まる「さくらの会」を開催しています。この会は、実際に自身が乳がんの手術を受けられた、当院の副看護局長が2003年に立ち上げました。2018年現在は、毎回100名以上患者さんが集まり、乳がんに関するさまざまなことを勉強したり、ヨガやフラダンスをしたりして、みんなで楽しんでいます。また、会の運営にはボランティアの方にも関わっていただいています。

地域の高齢化が進み、自宅で療養される方も増えてきています。そこで、在宅療養の患者さんやご家族を支えるために、2007年に在宅医療支援科を立ち上げ、「メディカルショートステイ」というサポートシステムを確立しました。「メディカルショートステイ」は、当院で編み出した造語で、全国的にも使われるようになりましたが、いわゆるレスパイト入院のことです。在宅療養中に困ったことがあったとき、ご家族がケアに疲れてしまったときや用事でご自宅にいられないときに、当院で一時的な入院を受け入れています。

当院では退院支援の一環として、「リハビリ強化プロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、まず入院時に退院支援の要否を評価する際、リハビリテーションの必要性についても検討します。そこでリハビリテーションが必要だと判断された患者さんに対して、ADL(日常生活動作)が低下する前の早い段階から、看護師が介入して身体機能を目的とした生活リハビリを始めます。さらに専門的なリハビリテーションが必要な方に対しては、理学療法士も関わり、他職種によるリハビリを行っていますす。リハビリ強化プロジェクトのスローガンは、「歩いて入院した患者さんは、歩いて自宅に返そう」です。入院していると、ADLが低下して寝たきりになってしまうことも少なくありません。患者さんが退院後も自分の足で歩いて自宅へ戻れるように、今後もこの取り組みを続けていければ良いと考えています。

当院の基本理念は、「市民から愛され、信頼される病院を目指すこと、また中和地域の中核病院として、地域住民の要望に的確に応える医療を行うこと」です。院内スタッフ全員が、病院理念に基づいて、患者さん中心のチーム医療を提供しています。たとえば糖尿病教室では、医師や看護師、薬剤師、栄養士など多職種のスタッフがチームとして、患者さんの治療や健康管理に従事しています。

市民の病院として、市民との触れ合いも大切にしています。毎年10月には「健康いきいきフェスタ」を開催し、市民と健康についての意識を共有しています。ボランティア活動も盛んで、病院登録のボランティアの方々は、院内案内や花壇の手入れなどの活動を、さらに市内の小中高校の生徒の活動、奈良芸術短大生によるホスピタルアートや高田美術協会の方々の絵画の展示など、それぞれの活動を継続的に行っていただいています。

いきいきフェスタの様子 大和高田市立病院ご提供
院内のホスピタルアート 大和高田市立病院ご提供

また、患者図書室「こもれび」は、全国50病院を対象とした「患者図書室プロジェクト」に公募で選ばれ、2012年設置に至りました。一般向けの医学書や一般書など1千冊余りの蔵書を有し、院内での癒しの空間を提供しています。

患者図書館「こもれび」の様子 大和高田市立病院ご提供

当院は、今後も中和医療圏(特に葛城地区)の基幹病院として、急性期医療と地域医療を担っていく責任があります。さらに病病連携や病診連携などの地域医療連携を推進したうえで、在宅医療や介護施設とのネットワーク化を図り、地域包括ケアシステムの構築に貢献できればと考えております。

一方、当院の近隣には奈良医科大学があります。奈良医科大学にもっとも距離の近い総合病院として、当院が医学生はもちろん、看護学生や薬学部の学生などの学びの場になれれば良いと考えています。近年の学生には、高齢者と接する機会が不足しています。そのため、健康な高齢者の方がどのように過ごしているかを知らないことが多く、退院後のイメージが難しいのです。そういった状況を受け、当院では学生のみなさんに普段の高齢者の生活を知ってもらおうと、奈良県立医科大学にアプローチしているところです。具体的には、当院の訪問看護チームと一緒に地域を回っていただき、生活について学べる機会をつくれればよいと考えています。

ご高齢の患者さんは、複数の病気を持っている場合が大変多いです。そのため、これからは総合的な診療ができる医師としての素養が必ず必要になります。そうでないと、軽い体調不良でいらした患者さんの診療も難しく、さまざまな診療科の医師に紹介することが必要になります。

初期研修医には、特に総合診療について学んでほしいです。若手の医師に関しても同じく、自身の専門を勉強しながら、総合的な診療を行える知識と技術を習得していってほしいと思っています。
 

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