22q11.2欠失症候群とは、染色体の異常によって発症する生まれつきの病気で、指定難病のひとつです。発症すると、ファロー四徴症などの心臓の病気や、精神発達の遅れなどが現れます。診断がついたら、小児科の医師と相談しながら適切な治療を行っていくことが大切です。
今回は、22q11.2欠失症候群の概要について、東京女子医科大学循環器小児科 中西敏雄先生にお伺いしました。
22q11.2欠失症候群とは、染色体*の一部が抜け落ちていること(欠失)によって発症する生まれつきの病気です。欠失がみられるのは、22番染色体長腕*の11.2(いちいちてんに)の領域です。
発症すると、主に精神発達遅滞(全般的な知能の発達の遅れ)、生まれつきの心疾患(心臓の構造に問題がある状態)、特徴的な顔貌などが現れます。
患者さんは4,000人~5,000人に1人の割合で生まれるといわれています。
染色体…生物の遺伝情報を伝える遺伝子を含む物質。
長腕…染色体の中心をはさんで長い方の部分。
22番染色体は、常染色体22本(男女とも持っている22対の染色体)のうちのひとつです。ヒトは23本の染色体(1~22番までの常染色体と、性別を決めるY染色体・X染色体のどちらか一方)を2セット、計46本の染色体を持っています。
染色体には短腕*と長腕があり、記号では短腕を「p」長腕を「q」と表します。染色体の短腕と長腕にはそれぞれ内側から番号が振られており、住所の番地のように場所を表します。
短腕…染色体の中心をはさんで短い方の部分。
22q11.2欠失症候群は、そのほか「DiGeorge(ディ・ジョージ)症候群」「円錐動脈幹異常顔貌症候群」「Shprintzen(シュプリンツェン)症候群」などの名前もついています。
原因が発見される以前は、世界で報告された症例について、それぞれ別の病名がついていました。これらの病気がすべて22番染色体長腕11.2領域の欠失によって起こることが判明してからは、22q11.2欠失症候群という病名が使われることが多くなってきています。
<病名の由来>
・DiGeorge症候群…心疾患に免疫異常などが合併する。症例をDiGeorge先生が報告。
・円錐動脈幹異常顔貌症候群…心疾患に複合する顔貌の特徴や精神発達遅滞がみられる。症例を高尾篤良先生が報告。
・Shprintzen症候群…心疾患に口蓋裂などが合併する。症例をShprintzen先生が報告。
などが挙げられます。
22q11.2欠失症候群は、22番染色体長腕の11.2に相当する部位の欠失が原因で発症します。どのようなことがきっかけで欠失が起こるのかという詳しいメカニズムは明らかになっていません(2018年時点)。
22番染色体長腕の11.2領域に欠失が起こることで、その部分に存在する約30~40個の遺伝子(遺伝情報)が失われます。そのなかでもTBX1という遺伝子が失われることにより、22q11.2欠失症候群のさまざまな症状が引き起こされるといわれています。
22q11.2欠失症候群は、突然変異(両親から受け継いだ変異ではなく、突然発生した変異)により起こる病気です。そのため、家系のなかで1人だけが発症している方が多くみられます。また、両親のどちらかが同じ病気である場合は、50%の確率でお子さんに遺伝する可能性があります。
ほとんどの患者さんに精神発達遅滞(全般的な知能の発達の遅れ)がみられます。同年齢の集団の平均IQ(知能指数)が100であるのに対して、この病気の学齢児童80名の平均IQ(知能指数)は76という報告があります。[注1]
[注1]…Michael Woodin, et al, Genetics in Medicine volume 3,pages 34–39 (2001)
先天性心疾患とは、生まれつき心臓の構造に問題がみられる状態を指します。患者さんの多くは、ファロー四徴症や大動脈離断症などの生まれつきの心疾患を持って生まれます。患者さんのなかには、心疾患が生じていない方や、大動脈が少し長いなどのごく軽い異常だけがみられる方もいます。
心臓に4つの特徴(心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右心室肥大)がみられる病気です。主にチアノーゼ(右心室から大動脈へ酸素濃度の低い血液が流れ、爪や唇が紫色になること)を伴います。他の病気などが原因でファロー四徴症を発症している方(22番染色体の微細欠失がない方)と比べて、22q11.2欠失症候群の患者さんはファロー四徴症の症状が重い傾向があります。たとえば、この病気の患者さんでは、肺動脈が細くなる肺動脈閉鎖という状態を伴う「極型ファロー」が生じることがあります。
心臓から全身に血液を送るための通り道である大動脈の一部が途切れた状態(大動脈離断)が起こる病気です。下半身への血流は動脈管という胎児期の血管に依存します。生後、動脈管が閉鎖すると生存できなくなります。チアノーゼや呼吸障害などの症状を伴います。
ほとんどの患者さんに共通して顔貌の特徴がみられます。たとえば、うりざね型の輪郭、小さな口、広い鼻根などが挙げられます。
多くの患者さんは胸腺の発達が悪く、免疫機能異常がみられます。免疫機能異常が起こると、風邪をひいたり細菌に感染したりしやすくなります。副甲状腺の機能低下がみられる方も多く、その場合は低カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が低いこと)が起こりやすくなります。
その他、起こる可能性がある合併症としては、生まれつきの口蓋裂(上あごに割れがみられる状態)、学習障害*、ADHD*(注意欠陥多動性障害)などが挙げられます。また、コミュニケーションの問題で人間関係の構築を苦手とする方が多く、成長してから社会的な活動に影響が出る可能性があります。
学習障害…読み書きなどの特定の能力の習得と使用に困難がみられる発達障害のひとつ。
ADHD…不注意、多動性、衝動性という特性がみられる発達障害のひとつ。
22q11.2欠失症候群は、特徴的な症状をみることで診断がつけられます。重視される項目としては、顔貌、心疾患、精神や言語発達の遅れ、低カルシウム血症、免疫機能異常、などがあります。これらを確認するために、心エコー(心臓超音波検査)、MRI検査*、CT検査*、血液検査(カルシウム値や免疫機能の検査)、などが行われます。
診断がつけられる時期は、主に新生児期(赤ちゃんのとき)です。新生児期に病気が発見されなくても、幼児期(小学校就学前)までには顔貌の特徴がはっきりしてくるため、遅くとも幼児期までに診断がつくことが一般的です。
MRI検査…磁気を使って体の断面を撮影する検査。
CT検査…エックス線を使って体の断面を撮影する検査。
22q11.2欠失症候群は、染色体検査によって染色体の欠失を確認することで診断が確定します。欠失のみられる領域が小さいため、顕微鏡を用いて調べるG-band法では検出が難しいとされています。
診断をつけるためには、染色体検査のなかでもFISH法が適しています。FISH法は、ターゲットとなる領域を絞って微細な欠失を調べる方法であるため、前提として症状や顔貌から22q11.2欠失症候群の可能性が考えられるときに実施されます。FISH法で染色体の欠失が確認できれば、診断が確定します。
また、染色体検査では異常が発見されなかった場合、原因となるTBX1遺伝子の喪失を調べるために遺伝子解析を行うこともあります。
東京女子医科大学 循環器小児科・成人先天性心疾患科
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