日本では10人に1人の赤ちゃんが、2,500gに達しない低出生体重で生まれてくるといわれています。赤ちゃんの低体重には、妊娠中のお母さんの食生活が深く関わっていると考えられます。また、低体重で生まれた赤ちゃんは成人後に生活習慣病のリスクが高まることがわかっているため、早急な対策が必要です。
今回は赤ちゃんの低体重化の原因や対策、生活習慣病との関わりについて医療法人河内友紘会 河内総合病院 副院長の高屋 淳二先生にお話を伺いました。
日本は、出生体重が2,500gに達しない低出生体重児が多いといわれており、2005年以降およそ10人に1人が低出生体重児として誕生しています。これは、先進国の中でも日本だけにみられる特徴です(2018年時点)。
また、1995年イギリスのBarkerらが、大規模な疫学調査を行ったところ、「低体重で誕生した赤ちゃんは、成人になってから生活習慣病にかかりやすい」ということがわかりました。そのため、日本ではさらなる生活習慣病の増加が懸念されています。
生活習慣病とは、以下のような病気です。
<出生時の低体重で発症リスクがあがる病気>
赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で胎盤から栄養をもらって大きくなります。そのため、妊娠中のお母さんはバランスのよい食事で十分な栄養を摂取し、お腹の中の赤ちゃんに必要な栄養素を届けることが大切です。しかし、近年では、食生活の乱れや偏りから十分に栄養を摂れているお母さんが少ないため、赤ちゃんの出生体重が低下していると考えられています。お母さんの食生活が乱れた原因として、大きく2つのことが考えられます。
近年、日本では「やせて美しくみられたいという願望」の強い女性が多く、過度なダイエットをしている方もいます。このような女性の中には、妊娠してもなお十分な食事を摂取しない方もいます。また、食生活の欧米化や、さまざまな食事法の提唱などで無意識のうちに食事が偏り、食事をきちんと摂っている自覚のある方でも栄養素が不足していることもあります。
その結果、赤ちゃんにも十分な栄養が行き渡らなくなり、低体重で誕生してしまうのではないかと考えられています。
さらに以前は、妊娠中に起きる「妊娠高血圧症候群」という病気を予防するために、医療の世界でも、妊娠中のお母さんに対し、摂取カロリーを制限し、体重を増やしすぎないよう指導していました。妊娠高血圧症候群は糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病を持つお母さんに多いと考えられている病気です。第二次世界大戦中にオランダで飢饉が起きた際、一時的に減少したことから、摂取カロリーを抑えることで予防ができると考えられたのです。
しかしながら、2018年5月現在、妊娠中のお母さんの摂取カロリー制限は、妊娠高血圧症候群の予防にはつながらず、むしろ生まれてくる赤ちゃんが将来的に生活習慣病にかかりやすくなるなどの悪影響があると考えられています。そのため、厚生労働省でも2006年に「妊産婦のための食生活指針」において、妊娠中は過度な摂取カロリーの制限を避け、適切に栄養を摂取することを勧めています。
では、低体重で誕生した赤ちゃんはなぜ成人後に生活習慣病にかかりやすいのでしょうか。その理由のひとつとして、マグネシウム不足が挙げられます。ここでは、まずマグネシウムの役割についてご説明します。
マグネシウムは、カルシウムや鉄と同じミネラルの一種で、体の中でさまざまなはたらきをしています。そのはたらきは幅広く、体内の300種類以上の酵素反応やエネルギー産生に関わっているといわれています。たとえば、骨や歯の形成を助けたり、血圧の過度な上昇を防いだり、神経の興奮を抑えたりする作用があります。
生活習慣病との関わりも深く、マグネシウムの摂取不足は肥満や糖尿病に結びつくことも分かっています。
2007年、私は赤ちゃんの出生体重が臍帯血(へその緒の血)の細胞内マグネシウムと相関していることを報告しました。低体重で誕生した赤ちゃんは、正常の体重で生まれた赤ちゃんと比べて臍帯血の細胞内マグネシウム量が少ないということがわかりました。つまり、低体重で生まれた赤ちゃんは、生まれながらにマグネシウム不足であることが伺えます。
胎児期に細胞内のマグネシウム量が不十分な赤ちゃんは、お腹の中にいるときからすでにインスリン抵抗性*が始まっており、将来的に糖尿病にかかりやすいと考えられます。
インスリン抵抗性……細胞にブドウ糖を取り込むうえではたらく「インスリン」に対する感受性が低下し、インスリンが作用しづらくなる状態。インスリン抵抗性があると血糖値が下がりにくくなり、糖尿病を引き起こすことがある。
以上のことが明らかになり、妊娠中のお母さんがバランスのよい食生活を送ることで、お腹にいる赤ちゃんの将来の生活習慣病を予防できることがわかりました。では、バランスのよい食生活とは具体的にはどのような食事でしょうか。定義はさまざまですが、今回はマグネシウムの摂取に着眼し、ご説明します。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によれば、成人女性(20歳以上)のマグネシウム摂取推奨量は1日270〜290mgです。また、妊娠時はさらに40mg程度上乗せして摂取することを推奨しています。つまり、1日300mg以上の摂取が理想的です。
マグネシウムは自然の食品から摂取することが望ましいです。たとえば以下のような食品に多く含まれます。
<マグネシウムを多く含んだ食品>
ご覧のように、日本食(和食)で用いられる食材が多いことが特徴です。調理方法によってマグネシウムが喪失することもあるので、その点も注意が必要です。たとえば、米は精製される前の玄米の状態で摂取したほうが、より多くのマグネシウムを摂取できるといわれています。
また、以上のような食品を摂取していても、食事の全体的な割合が脂肪や炭水化物に偏っていたり、インスタント食品や清涼飲料水、アルコール類などを多く摂取していたりするとマグネシウムの吸収が妨げられてしまいます。また、過度なストレスを感じることも、マグネシウムが多く失われる原因となります。
今回はマグネシウムと生活習慣病の関連性に注目して、妊娠中のお母さんの食生活の重要性をお話しました。しかし近年、お父さんの肥満が赤ちゃんの生活習慣病を招く可能性もあるということが動物実験で明らかになってきています。そのため、ご結婚や妊娠を機に一度ご家族全員で食生活を見直すのがよいでしょう。親御さんがさまざまな食品をバランスよく食べることは、生まれてくる赤ちゃんの「食育」という観点からみても大切ではないでしょうか。
また、実際にはマグネシウムだけでなく、鉄やカルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、亜鉛など、その他のミネラルも赤ちゃんの発育に重要な栄養素です。これらをバランスよく摂取することも、赤ちゃんの健康につながります。
河内友絋会 河内総合病院 副院長
高屋 淳二 先生の所属医療機関
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