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看護師の働くフィールド―訪問看護師としてのやりがい・喜び・大変さ

看護師の働くフィールド―訪問看護師としてのやりがい・喜び・大変さ
山本 幸子 さん

医療法人小磯診療所

山本 幸子 さん

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この記事の最終更新は2019年02月19日です。

「看護師が働いている場所」と聞いて、病院をイメージされる方は多いのではないでしょうか。確かに病院は看護師の勤め先の中心ですが、看護師の働くフィールドは病院だけにとどまりません。緩和ケアを行うホスピスや、訪問看護を実施する在宅医療の場でも看護師は大切な役割を担っており、多くの看護師が活躍を続けています。今回は、看護師の働くフィールドのひとつであり、在宅医療と共に今後の発展が期待される訪問看護についてご紹介します。小磯診療所で訪問看護師を務められている山本幸子さんに、実際のご経験を交えながらお話しいただきました。

訪問看護とは、看護師が在宅医療を受けておられる方のご自宅を訪問して行う在宅ケアサービスです。主治医の指示に基づき、病気や障害の程度に応じて健康状態の観察やリハビリテーション、点滴、服薬管理、生活のお世話、ご家族からの療養生活に関する相談受付・アドバイスなどを行います。

また、自宅で最期を迎えたいという方が安心して療養生活を送っていただけるように、看取りの相談を行っていることも訪問看護の特徴です。

病院から在宅医療に移行する場合は、原則的に退院したその日(即日が難しければなるべく早め)にご自宅を訪問しています。初診時には医師と看護師でご自宅をご訪問し、紹介状の内容に基づいてご本人の容体確認やバイタルチェックをします。初診で医師と相談のうえ、今後の看護の方針を決めたら、2回目以降の訪問看護は原則的に看護師のみが患者さんやご家庭の状況に応じた頻度で訪問します。もちろん、主治医やケアマネジャー、薬剤師、歯科医師などとも連携体制を築いており、医師の診察が必要と判断される場合には連絡を取ることができます。

病棟看護との最大の違いは、やはり看護師が直接患者さんの家に伺うということです。直前に退院カンファレンスを開いているとはいえ、ほとんど初対面の相手がご自宅に来ているわけですから、ご家族の方は緊張されていることが多いです。そのため、私は訪問看護の際、まずはご家族の緊張を和らげるように意識しています。

たとえば会話の中に雑談を交えたり、明るく挨拶したりするだけでも、緊張がほぐれてリラックスしていただけることがあります。私たちとご家族の間に緊張した空気が流れていては、ご本人が安心して生活できなくなってしまうので、ご家族と親しい関係を築くことは重要なことだと考えています。

また、訪問看護と病棟看護では療養環境にも違いがあります。病棟看護の場合、患者さんは真っ白な病室の景色と、家族以外の人に囲まれながら生活することになります。一方、訪問看護の場合は、馴染みのある自宅で療養するので、「自分の家に戻ってこられた」という安心感が持てます。また、家族と一緒にご飯を食べたり、ペットと触れ合ったりと、身内とコミュニケーションを取る頻度も必然的に多くなります。

訪問看護のメリットは、前述したように、入院前の生活に戻って療養できることです。いつも聞いていた生活音や家族の声、見慣れた風景に囲まれて生活することは、患者さんの安心に、ひいては生活の質の保持につながると考えています。

訪問看護のデメリットは、夜中や早朝などの緊急対応が、病棟看護に比べて遅くなってしまいがちな点にあります。

病院の場合、ナースコールを押せばいつでも看護師が患者さんのもとに駆け付けますが、訪問看護の場合、すぐにはご自宅まで伺うことができず、時間帯や状況によっては電話での対応になります。もちろん、電話でできる限りのことをお伝えしますが、直接的な対応は原則的にご家族にお願いしています。このようなデメリットについては、ご家族の希望や気持ちを汲み取りながら丁寧にご説明して、ご理解いただくように努めています。

訪問看護のやりがいは、何といっても患者さんやご家族から温かい言葉をいただいたときに集約されます。

たとえば当診療所の場合、末期がんの患者さんの訪問看護では、週に4回程度とかなり頻繁にご自宅に伺います。訪問頻度が多ければ、患者さんやご家族と接する回数も増えます。このとき、「毎日来てくれてありがとうございます」「待っていました」「看護師さんに来ていただくと安心できます」といったお言葉を頂戴することがあります。

また、看取りの後には、ご家族が当診療所まで直接挨拶に来てくださったり、遠方にお住まいの方からは自筆のお手紙をいただくこともあります。こうした声を聞けたときは非常に嬉しいですし、訪問看護のやりがいを実感します。

当診療所の場合、患者さんの容体が安定しているときの訪問看護の頻度は月に2回程度ですが、容体が悪化した場合は訪問頻度が増えていきます。しかし終末期がんによる末期症状などの場合、訪問の回数を増やしても回復が難しいことがあります。

患者さんの痛みや苦しみを何とかしてあげたいと、医師と連携してあらゆる方法を試みますが、力が及ばないこともあるのが現状で、看護師として患者さんの力になれないことが悔しくてたまりません。この際には、事実をご家族にお伝えします。

説明を聞いて、頭では理解できていても心が受け入れられず、どうにかして治したいとおっしゃる方もいます。そうしたご家族や患者さんの「元気になりたい」という気持ちに応えることができないときは、心が強く痛みます。

最近お看取りした患者さんに、とてもお話好きな方がいらっしゃいました。

私たち看護師や医師がご自宅に伺うたびに、楽しく日常のお話を聞かせてくださった方で、体調がよいときにはお散歩や旅行もできるほどお元気でした。しかし、2018年末、急激に容体が悪化し、回復も難しくなってしまいました。

私は、その方に悔いなく最期を迎えていただけるように、「何かやりたいことはありませんか」とお聞きしました。するとその方は、「やりたいことは全部やったし、痛みもとってもらった。自分の望んだとおり最期まで家にいることができるのだから、やり残したことはありません」と迷いなくおっしゃったのです。これほどはっきり満足したと断言してくださるケースは少ないので、今でも強く印象に残っています。

年が明けて間もなく、その方を看取りました。患者さんは亡くなってしまいましたが、奥さんもとても感謝してくださり、最後に一緒にお手製のお雑煮を食べたことも思い出に残っています。この患者さんとご家族が、満足できる形で最期を迎えられたのならば、それは看護師としてとても嬉しいことです。

こうしたエピソードとは対極に、ご本人やご家族の協力をどうしても得られないケースもあります。部屋の中に足の踏み場がない、ご家族が介護できる状態ではないなどの療養環境の問題だけではなく、看護行為そのものを拒否されてしまったこともありました。このときは、訪問するたびに同じ説明を繰り返してその都度ご納得いただいてから看護を行いました。

訪問看護は人と人が関わる行為ですから、ひとつとして同じ看護は存在しません。それぞれのご家庭に、それぞれのエピソードがあると感じています。その折々でいただく温かい言葉やお気遣い、皆さんの笑顔に、働く元気をもらっているのかもしれません。

小磯診療所、山本幸子さん

訪問看護は、住み慣れた自宅で安らかに生活していただくために挙げられる選択肢のひとつです。看護師がご本人のケアはもちろん、ご家族の悩みや相談にも応じているので、お困りの際はご家族で抱え込まずにお気軽に相談してください。

訪問看護は人の命にかかわる仕事であり、ここでお話ししてきたように、大変なこともたくさんあります。ただ、その大変さを超えるやりがいもあると私は感じています。訪問看護に関心を持っている方、まずは一歩踏み出してみてください。きっと新しい世界が開けるはずです。