院長インタビュー

限られた資源をどう活かすか-美濃病院が目指した「効率的な病院経営」とは

限られた資源をどう活かすか-美濃病院が目指した「効率的な病院経営」とは
阪本 研一 先生

美濃市立美濃病院 病院長

阪本 研一 先生

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この記事の最終更新は2019年03月18日です。

美濃市立美濃病院は、1952年に美濃町公立美濃病院として誕生しました。122床という小規模ながらも、効率的な経営と地域のネットワークで、住民のニーズに合わせた医療を提供しています(2019年2月時点)。

経営面では、一時は赤字幅が広がり経営的に危ぶまれたにもかかわらず、2017年には自治体立優良病院総務大臣賞を受賞するほどに改善されました。ほどです。そのような流れのなかで、同院はどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。院長である阪本研一先生にお話を伺いました。

美濃病院 外観

当院は、地域の開業医との連携の中核となる病院です。医師数は常勤が10名、診療科数は11科と小規模ではありますが(2019年2月時点)、地域の医療機関と連携しながら、コンパクトで機能的な医療を行っているのが特徴です。

高齢化が進みつつあるこの地域のニーズに対応するため、在宅医療を支援するための整備も進んでいます。予防のための健診・ドックができる健康管理センターも備え、自治体病院として地域住民の皆さまが長く健康で暮らすための医療の充実を図っています。

災害時に備えた訓練の様子

当院の形を一言で表すと、「専門併設地域密着型病院」だと考えています。自治体病院として地域密着型の医療を展開しつつも、消化器疾患・整形疾患・糖尿病を中心とした生活習慣病の3つを得意分野として、広域に展開しています。

この3つの分野は、「健康で長生きする」という部分に大きく関わる分野です。そうした理由から当院は、外科系診療(外科・整形外科・眼科)を充実させて、糖尿病の治療に力を入れています。

これ以外の分野で専門的な治療が必要になった場合は、近隣の対応が可能な規模の病院に紹介する形をとっています。

救急搬送されてきた患者さんも軽度・中等度の患者さんは積極的に受け入れていますが、脳や心臓の疾患、全身外傷などの対応が難しい症例は、はじめから対応可能な病院へ搬送する地域システムが構築されています。そういった点で、地域での機能分化はしっかりとできています。

当院では、2014年に地域包括ケア病棟を1病棟つくり、2018年には2病棟に拡張しました。高齢者が増えてくる地域のなかで、限られた資源で求められる医療を行うには、どうしたらいいかを考えた結果、このような形をとることにしました。

2016年には「みの在宅医療支援センター」も開設しました。患者さんが退院後も安心して生活できるよう、継続して支援していくための施設です。そのほか、訪問看護や訪問リハビリテーションも行っています。地域の医療介護連携の中心としての役割を担っています。

美濃市を中心とした地域の開業医の先生から当院が相談を受け、何かあれば当院から岐阜大学を中心とした後方病院につなぐという医療ネットワークを形成しています。当院は、常勤医師の数などから見ても病院の規模は決して大きくありませんが、地域の「ハブ病院」としての役割を担っています。

 

当院は2003年に新築移転しました。しかし、そのころは経営的には非常に危機的な状況でした。赤字の幅が大きく、常勤医の数が減少しました。一時は周辺の自治体との合併の話も浮上していました。

そんな状況からV字回復を成し遂げ、2009年度から2017年度時点まで9年連続の黒字を達成しています。総務省の実施する自治体優良病院表彰では、2017年に「平成29年度自治体立優良病院総務大臣賞」もいただいたほどです。

当院は、「地域から選ばれる医療サービスの提供」 を病院理念としています。地域が必要としている医療ニーズに合わせて活動し、地域の皆さまに寄りそう「親身な病院」であることを目指しています。

当院のある中濃医療圏では医師が不足しており、当院規模の自治体病院は全国的に厳しい経営状況にあるとされます。当院では病院として向かうべき方向性を多くの職員が共有できていると思います。加えて、病院として理念を実現するためには、日々の業務の効率性と、その結果もたらされる経営面の健全性が必要であるという意識が全職員に浸透しており、当院の強みになっていると思います。スタッフ一人ひとりが、今の自分の取り組みが理念の実現につながっているという実感を持てる職場であることが当院での働きがいを創っています。

やりたいことをやるためには、ベースとなるものをきちんとおさえ、目標をしっかりと設定して無駄なく進めていくということが大切です。さまざまな取り組みを介して、強みとなる風土を築き上げてきたことが、経営改善につながっているのではないでしょうか。

職員研修の様子

経営改革の初期段階で私が重要視していたのは、情報の共有です。収支や決算などの数値だけを見ても、病院がどういう状況にあるか、なかなかわかりません。まずは現状を把握することから始めました。続いて、病院として進むべき方向性と、その重要性をシンプルに伝え、そこに到達するためにやらねばならないことを具体的な目標設定とともに示しました。そして、新しい取り組みの成果をきちんと現場に返すようにしました。

成功体験を繰り返すことで、やればできるという気持ちになっていくものです。はじめは短期間で結果が出やすい課題をタイミングよく片付ける。モチベーションが高まってきた段階で、コストコントロールなどの地味な取り組みに着手するといったように、課題の選択を意識しました。

院内勉強会の様子

当院の最大の課題は、スタッフの確保です。これに関しては、早急に対策を打ち出さなければ、現在のシステムを維持できないと考えています。

特に、医師の確保が課題です。全国の病院をみても、自治体病院の医師不足は深刻であり、小さい病院ほどその傾向は顕著です。臨床研修医制度を基幹型で持っていない当院のような病院では大きな課題です。

当院は院長である私も副院長も、まだまだ現役です。しかし、それでも将来を考えると、県全体の医師を確保・配置するシステムを根本から変えるべきでは、と危機感を覚えます。

医師以外には、看護師の数も足りていません。看護師の確保のため、当院では24時間の院内保育所をつくりました。働いている看護師の方は、かなり利用されています。

「当院をかかりつけ病院として利用することで、健康で長生きが実現できるという実感が得られる」というのが理想です。

当院と開業医の先生方との連携はとてもしっかりしています。かかりつけ医である開業医の先生は対応が難しい症例をかかりつけ病院である当院に紹介します。私たちはそうした患者さんをスムーズに受け入れて、病状が改善したら逆紹介しています。

私のイメージする病診連携は美濃市のなかの医師が協力しあって、あたかも1つの医療機関であるかのごとく機能している状況です。そんな理想の医療環境を地域につくっていきたいと考えています。

地域住民の身近な病院として、学生見学なども受け入れている

当院は、臨床研修医制度の基幹病院ではありませんが、前期臨床研修で行われる1か月間の地域医療研修の協力病院になっています。受け入れる研修医の人数は、毎月2名程度です(2019年2月時点)。複数の専門医プログラムの連携施設にもなっています。

いつも私が研修医の方々に話しているのは、自分がどこでスキルを発揮するのかを考えてほしいということです。医療にはいくつかのフェーズがあります。予防や検診、外来、入院、在宅医療などです。入院にも、高度急性期、急性期から回復期、慢性期まであります。

そのフェーズのなかで、どこを自分は担当するのか、どこで活躍するのかを将来的には考える必要があると、常々お話ししています。

当院の提供するフェーズがフィットすると思ってくれる方が出てくれば、それを継いでほしいです。その思いも、積極的に発信しているつもりです。

また、若いときは専門性を求める傾向が強いですが、その時期でも複眼的に広い視野をもちつつ、自分のスキルを形成してほしいということもお話ししています。

当院はコンパクトですが、幅広い疾患とフェーズを対象としています。それゆえにいろんなことに携われますし、さまざまな場面で貢献できることが働きがいにつながります。

無理はしないように効率的に働き、休みはしっかりとろうという雰囲気も定着しています。そういったところも、知っていただけたらと思います。

地域の方々には、当院を長く利用することで、健康なまま長生きしていただきたいと思っています。

当院のような自治体病院は、自治体との協力体制がとても重要です。当院は美濃市との連携が非常に上手くいっており、行政にしっかりとサポートしてもらっています。

行政は、検診や、医療介護における連携、地域包括ケアシステムなどにおいて、大きな役割を担っています。当院は美濃市と一体となって活動することで、これらの分野においても重要な役割を果たしていくことを期待されています。

地域の疾患予防・早期発見を推進するために2016年に開設された当院併設の「みの健康管理センター」は市外の方にも利用していただいております。今後も、市の内外問わず、もっと広域に利用していただけるように努力していきます。

「美濃市が直営する公的病院であるがゆえのやさしさ(親身さ)」を大切に、より多くの方に頼りにされる病院をスタッフ一同で創っていきます。

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