2019年3月1日(金)~2019年3月3日(日) 、国立京都国際会館にて第46回日本集中治療医学会学術集会が開催されました。3日間を通じて多数の講演やシンポジウムが行われるなかで、2日(土)の第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)では、遠隔医療「Tele-ICU」をテーマにした発表・パネルディスカッションが開かれました。本記事では、その様子をレポートします。
大嶽 浩司先生(昭和大学医学部麻酔科学講座)
讃井 將満先生(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科・集中治療部)
髙木 俊介先生(横浜市立大学附属病院 集中治療部)
正宗 賢先生(東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学)
飯塚 悠祐先生(自治医科大学附属さいたま医療センター 麻酔科)
中西 智之先生(株式会社T-ICU 代表取締役)
小谷 透先生(昭和大学医学部麻酔科学講座)
まずは各先生方による研究報告が行われました。以下は、先生方の発表の一部を要約した内容です。
髙木先生:
日本集中治療医学会 遠隔ICU委員会(ad hoc)は2018年5月に設立されました。
私はこの日本集中治療医学会 遠隔ICU委員会(ad hoc)の立ち上げにかかわり、現在は委員長を務めさせていただいています。
近年は医師の働き方改革が多数取り上げられていますが、急性期医療の分野では、いまだに決定的な打開策が取れていない現状があります。また、集中治療ベッドに対する専門医の数は圧倒的に不足しており、多くの集中治療専門医が集中治療室に専従できていません。このような状況のなか、集中治療室の効率化を目指すための対策として、Tele-ICUは注目され始めました。Tele-ICUでは、複数の病院をネットワークでつなぎ、サポートセンターとなる病院で多拠点の病院の情報を伝えることで、遠隔医療に伴う空間的課題・時間的課題を解決します。
ICUの需要は年々高まり、2030年には供給に対する需要が圧倒的に多くなることが予測されています。一方で、Tele-ICUの導入には解決しなければならない課題も多々あり、課題解決に向けた整理をしている段階です。調査研究がまとまり次第、日本集中治療医学会のホームページにも結果を公表する予定です。
正宗先生:
私たちの研究グループでは、手術室内のさまざまな医療機器をネットワークにつなぎ、機器から出るデータを一元的に標準化・集約化して活用する「スマート治療室SCOT」の研究開発を行っています。
また、現在はSCOTと連携する臨床情報解析システムを作成しています。SCOTに集めた情報や術前電子カルテの情報を集めて分析することで、術前の患者さんの状態や、術中に起こりうる患者さんの体調の変化などを予測できるというものです。さまざまな課題は残されていますが、SCOTの仕組みを拡張し導入することで、ICUにおける治療効果を向上させたいと考えています。
飯塚先生:
2016年から2018年までの約2年間、厚生労働省医政局地域医療計画課救急・周産期医療等対策室病院前医療対策専門官を務めました。今回はそのときの経験を踏まえて、Tele-ICUに関する行政の取り組みについてご説明します。
人口の高齢化が進行する日本では、医療・介護・福祉サービスの生産性向上のために、国を挙げて人工知能やICTなどの活用推進を見据えた戦略を立てている段階です。Tele-ICUも働き方改革や生産性向上を目指すためのひとつの手段として、さまざまな議論がなされています。
ICUには全科横断的に診療科の集中治療医が常駐し、タスクシェアリングができている状態が理想的です。1人の集中治療医が複数の患者さんを担当し、遠隔で現場をサポートすることで、集中治療医や看護師、ICU患者の主治医などの負担軽減、ひいては集中治療の質の向上にもつながる可能性があると考えます。
今後さらに研究を重ねて有用性を発見し、Tele-ICUを導入する施設が増えていけば、場合によってはICUだけではなくHCUや病棟にもTele-ICUが導入される可能性もあります。これから学会には、Tele-ICUの有用性についてさらに発信していくことが求められると考えています。
中西先生:
私は現在民間企業の代表を務めていますが、もともとは医師であり、集中治療専門医として集中治療に携わってきました。
集中治療専門医不在のICUでは、不必要な長期間の人工呼吸管理やヘッドアップなしでの挿管など、専門医であれば選択しないような治療や予防策が行われているのが現状です。集中治療専門医が全国のICUに配置されていることが理想的ではあるものの、全国の登録施設数に対する集中治療専門医の数は不足しています。
Tele-ICUには、Tele-ICU用の電子カルテ、および病院の生体情報モニターと電子カルテを閲覧するシステムという2つのシステムが最低限必要になります。当社は、これらのシステムを独自開発しました。
Tele-ICU導入におけるメリットは、診療アドバイスによって各ICUにおける診療レベルの向上が期待できることです。また、Tele-ICUでは、集中治療専門医がそれぞれの医局を超えて集まっている状態ですから、医師は他の専門医の対応を知ることができます。このため直接的な診療アドバイス以外に、専門医の診療の標準化にも寄与する可能性があります。
一方で、Tele-ICUの導入には課題も残されています。まずは、Tele-ICUの有効性に関するエビデンスをしっかりと構築していかなければなりません。また、施設が所有するリソースにも違いがあるので、一つひとつの施設に応じた細かい対応が必要とされます。
小谷先生:
すでにアメリカでは、Tele-ICU導入後の在院死亡率の低下、在院日数の短縮、医療事故や医療訴訟の大幅な減少など、多数の実績が報告されています。これらの実績は、日本におけるTele-ICUでも診療目標となる可能性があります。一方で、Tele-ICUは対象となる施設のシステムや支援の受け入れ体制に依存しているのが現状です。日本では高齢化が進行して医療人口が減少し、ベッド数が特定の地域に偏重していることが問題になっています。こうした状況の日本ではTele-ICUをどのように活用すれば診療成績の改善につながるかを考える必要があると考えます。
Tele-ICUには、現場の医療従事者の求める支援をタイムリーに行うことに意義があります。そのためには、Tele-ICUの拠点となる支援センターに、医療記録、生体情報モニター、医療機器からのリアルタイム情報などがしっかりと提供されることが大切です。
2018年4月より、昭和大学附属2病院に設置されている5つの重症病棟の間で、ビッグデータ型Tele-ICUを本格的に稼働開始しました。これは、専門解析ツールを用いることで、約50名の患者さんの状態を同時管理できるシステムです。
今後、収集したビッグデータを活用することで、ICUのサポートや地域連携、医療の標準化を目指しています。
各先生方による発表の後は5名全員が登壇し、パネルディスカッションが行われました。参加者の方々からの質問を受けて、先生方が回答します。
約20分間にわたり、医師や看護師などさまざまな職種の方々から質問があり、Tele-ICUの導入の課題や現場への教育などに関して活発な意見交換が行われました。
パネルディスカッションを終え、先生方より一言ずつコメントがありました。
髙木先生:
医療情報セキュリティに関する課題はまだまだ山積みの状態です。だからこそ、さまざまな職種や立場の方の意見をいただき、今後も日本集中治療医学会と連携して遠隔ICU委員会としての取り組みを進めていきたいと考えます。
正宗先生:
工学系専門家の立場として、技術は着実に進歩していると感じます。今後は、この技術をいかに社会とマッチングさせていくかが大切です。このためには、多方面の方々からの意見が重要になるでしょう。企業や行政とも協力して、一丸となって取り組んでいく必要があると考えます。
飯塚先生:
今後も集中治療の現場における労働環境の改善を目指し、集中治療医の意見をしっかりと聞いていきたいです。
中西先生:
民間型Tele-ICUを運用する立場としては、費用がもっとも大きな課題です。しかしながら、実際にはこれまで面識のない先生からも、一緒にTele-ICUを運営していきたいというご連絡を多数いただきます。そのような現場の思いを広げていけるように、安全な活用を進めたいと考えます。
小谷先生:
ビッグデータ型Tele-ICUの研究に参加していただける施設を募集しています。多くの施設と協力して取り組むことで、ビッグデータ型Tele-ICU現実化の可能性が上がります。今後は昭和大学内のみならず、大学外とも関係をつないでいきたいと考えています。
最後に座長の大嶽浩司先生より、今回のセッションにおける総評が行われました。
大嶽先生:
かつて日本でこれほどまでに集中治療に注目が集まったことはないでしょう。集中治療と最新の遠隔医療が結びついたTele-ICUは、厚生労働省からも着目されています。
今後、Tele-ICUそのものの普及はもちろん、Tele-ICUはあくまで集中治療医療の質を高めるツールですから、Tele-ICUを活用した教育も併せて進めていく必要があります。Tele-ICUが、ひいては集中治療の質の改善につながれば理想的です。
今回は非常に多くの参加者にお集まりいただきました。ここまで足を運んでいただいたことに感謝いたします。ありがとうございました。
このようにして、「遠隔医療 Tele-ICUの可能性」は終了しました。
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