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膠芽腫の最新トピックス ~遺伝子検査の発展や新たな治療方法の研究について~

膠芽腫の最新トピックス ~遺伝子検査の発展や新たな治療方法の研究について~
高橋 雅道 先生

東海大学脳神経外科 教授、東海大学医学部付属病院 脳神経外科 領域主任・診療科長

高橋 雅道 先生

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膠芽腫(こうがしゅ)とは悪性脳腫瘍の1つで、中でももっとも悪性度の高い腫瘍として知られています。膠芽腫などの悪性脳腫瘍は患者数が少なく、“希少がん”の1つです。また膠芽腫の場合、治療方法としては手術治療、化学療法、放射線療法、交流電場腫瘍治療システムなどを組み合わせた治療が行われますが、これらの治療を全て行った場合でも根治は難しく、“難治がん”の1つです。

今回は膠芽腫の検査・治療に関する最新トピックス(2022年11月時点)について、国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科病棟医長高橋 雅道(たかはし まさみち)先生にお話を伺いました。

膠芽腫は悪性脳腫瘍の1つです。脳腫瘍とは頭蓋内にできる腫瘍の総称で、良性と悪性(がん)に分けられます。脳腫瘍はその悪性度によってさらに良性腫瘍のグレード1から悪性腫瘍の2〜4に分類されますが、中でも膠芽腫はグレード4に位置するもっとも悪性度の高い腫瘍です。患者さんの好発年齢は50〜60歳代で、男女比はやや男性に多いといわれています。

膠芽腫の治療方法――テモゾロミドの登場により予後が改善

膠芽腫の治療としては切除や生検が可能な限り手術が第一選択となり、必要に応じて放射線療法や化学療法、交流電場腫瘍治療システムなどが組み合わされることがあります。膠芽腫は手術を行った場合でも根治が難しく、放射線治療以外に有効な治療がほとんどありませんでした。そのため、日本における2000年代前半の5年生存率は10%未満で、もっとも予後の悪い病気の1つとして知られてきました。

しかし、2005年に抗がん剤“テモゾロミド”が使用できるようになったことから、治療成績が徐々に改善され、2021年現在の5年生存率はおよそ16%といわれています。依然として根治の難しい病気であることには変わりありませんが、6人に1人は5年生存する病気になりました。今後も新しい治療法が続々と開発され、さらに治療成績が伸びることが期待されています。

近年はさまざまながんにおいて遺伝子検査が行われ、これまで分からなかった各個人のがんの特徴が分かるようになってきました。

2019年にはがんゲノムプロファイリング検査が保険収載され、がんにかかった人で異常が現れやすいとされる数百の遺伝子について、採取した腫瘍から1回の検査で遺伝子異常を調べることができるようになりました。膠芽腫をはじめとする脳腫瘍でも、手術などの標準治療が完了している患者さんやその後再発をしてしまった患者さんに対するがんゲノムプロファイリング検査が保険適用となっています。

がんゲノムプロファイリング検査の展望

がんゲノムプロファイリング検査は個々人のがんの特徴が遺伝子レベルで分かる検査です。しかしその一方で、検査の結果が治療薬やその臨床試験への参加に結びつく確率は全体の10%程度といわれているのが現状です。つまり、現段階では検査によって遺伝子に異常が発見されたとしても、多くの場合でそれに伴った治療方法がないという問題が生じています。

ただし近年の製薬会社では、医師と協力してさまざまな遺伝子異常をターゲットにした新薬の開発が行われています。そのため、今は治療方法の確立されていない遺伝子異常であっても、今後治療薬が開発され、その特徴に合った治療ができるようになることが期待されています。このように今後の治療薬の開発のためにも、がんゲノムプロファイリング検査は積極的に行うべき検査であると考えます。

膠芽腫の治療薬として、先に述べた抗がん剤の“テモゾロミド”が知られています。2005年から使用されるようになったテモゾロミドは手術後に放射線治療と併用され、以後4週おきに5日間の内服が行われることが一般的です。我々は12サイクル継続できた方については、原則としてそこで一旦テモゾロミド治療を終了しています。また、患者さんの状態によっては生活の質を維持する目的で“ベバシズマブ”と呼ばれる分子標的薬が投与されることがあります。

新しい治療薬を求めて――免疫チェックポイント阻害薬・分子標的薬など

前述の遺伝子検査の結果やそのほかの内容を基に、治療薬に関してもさまざまな研究が行われています。近年、膠芽腫に限らず多くのがんの治療薬として注目されているのは、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬と呼ばれる治療薬です。

免疫チェックポイント阻害薬とは、がん細胞がその人の本来持っている免疫を抑制してしまう仕組みにはたらきかける治療薬のことをいいます。

免疫チェックポイント阻害薬の中でも、膠芽腫の治療薬として注目されているのは“ペムブロリズマブ”という治療薬です。この治療薬は現在さまざまながんの治療に用いられており、2018年には標準治療が難しくMSI(マイクロサテライト不安定性*)検査という検査でMSI-highと判断された固形がんの方を対象に保険収載で用いることができるようになりました。

しかし、残念ながら膠芽腫でMSI-highとなる患者さんはごく一握りです。手術を行う前にペンブロリズマブを使用するとよいという臨床試験の結果も発表されており、今後、免疫チェックポイント阻害薬の研究が進み、膠芽腫の治療薬としての可能性が示されることを期待しています。

また、特定の遺伝子異常に着目した抗がん薬の開発も進められています。現在、特定の遺伝子異常を有する再発した膠芽腫の患者さんが参加することが可能な治験も国内で複数行われています。たとえば、がん全体のわずか4%と少ないながらもFGFRという遺伝子に異常を持つ場合には、がんの種類にかかわらず悪性脳腫瘍の患者さんでも参加できる治験もあります。

*マイクロサテライト不安定性:細胞分裂の際のDNAの配列ミスを修復するはたらきが低下していることを指します。このはたらきが低下すると、細胞内に遺伝子異常が頻発し、細胞ががん化する可能性があると考えられます。

膠芽腫の治療方法では、そのほかにもいくつかの研究が進められています。以下では、新しい放射線治療やウイルス療法の研究についてご紹介します。

放射線治療の1つ“ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)”とは?

膠芽腫の治療方法として承認を目指し、研究が行われている“ホウ素中性子捕捉療法(以下、BNCT)”とは、放射線治療の一種である粒子線治療の仲間です。ホウ素の含まれた薬剤を点滴で投与して腫瘍にホウ素を取り込ませた後、腫瘍に“熱外中性子”という特殊な放射線を照射します。

熱外中性子はホウ素を取り込んだ細胞だけを死滅させる効果を持つため、正常な範囲へのダメージを少なくし、腫瘍のある部分だけを攻撃することができます。BNCTには特殊な医療装置が必要なため、承認されても実際に治療を受けられる医療機関は限られますが、新しい治療方法として期待されています。

ウイルス療法とは? ――がん治療用ヘルペスウイルスG47⊿

また膠芽腫の治療方法の1つとして、 “ウイルス療法”の研究が進められてきました。ウイルス療法とは、がん細胞の中だけで増えることのできる遺伝子組み換えウイルスを投与することによって、がん細胞を破壊する治療方法です。

膠芽腫をはじめとする脳腫瘍においては、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型の遺伝子を改変して作られた、がん治療用ヘルペスウイルス“G47⊿(じーよんじゅうななでるた)”を用いた治療の研究がされ、2021年6月に厚生労働省より承認されましたが、現在十分な量の製剤が市場に流通しておらず、一般的に使用される状況にはなっていません。このウイルス療法は、腫瘍に直接薬剤を到達させるために毎回手術が必要になります。発売後すぐに日本全国どこでも治療が可能になるわけではなく、最初は一定の要件を満たす限られた施設でのみ治療が行われる予定です。しかし、多くの患者さんがこの治療を受けるように、治療が可能になる施設も増えることが期待されます。また、このウイルス療法の作用機序を考えると、必ずしも脳腫瘍だけに効くものではなく、今後新たな治療方法として脳腫瘍だけではなくさまざまながんにも活用されるようになるでしょう。

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