概要
膠芽腫とは脳に発生する脳腫瘍の1つで、原発性脳腫瘍の7.3%を占める非常に悪性度が高い腫瘍です。原発性脳腫瘍とは脳の細胞や神経、脳を包む膜などから発生した腫瘍のことをいいます。これに対し、肺がんや乳がんなど別の臓器にできたがんが脳に転移してできた腫瘍は転移性脳腫瘍といいます。
原発性脳腫瘍はグレード1〜4に分類され、数字が大きくなるほど悪性度が増しますが、膠芽腫はその中でももっとも悪性度の高いグレード4に位置します。多くは成人に発生し、50〜60歳代に多いです。また、やや男性に多いです。
膠芽腫は脳の中のさまざまな部位に生じることがあり、生じた場所によって現れる症状が異なります。また、非常に早いスピードで増大することが懸念され、週単位など短時間のうちに症状や病状が変化することも少なくありません。
膠芽腫は難治がんとして知られてきましたが、2005年に抗がん剤“テモゾロミド”が使用できるようになったことをきっかけに治療成績が改善され、5年生存率は10%未満から16%程度へ延びました。いまだ根治の難しい病気ではありますが、がんの遺伝子検査の発展や新しい治療方法の開発などが盛んに行われています。
原因
膠芽腫が発生する原因は明らかでない場合が一般的で、親から子へ遺伝するものではないことがほとんどです。
膠芽腫やその他の神経膠腫の発生には、腫瘍細胞において多くの遺伝子異常が関連しているといわれています。一方で神経線維腫症I型やLi Fraumeni症候群などといった、生まれつき遺伝子に異常を有する病気に関連して膠芽腫の発症に至ることもありますが、その総数は全体からみるとごくわずかです。
症状
脳の機能異常
膠芽腫をはじめとする脳腫瘍は、生じた場所によって異なる症状が現れます。具体的には、大脳周辺に腫瘍ができた場合は、手足の麻痺や言語障害、記憶障害、けいれんなどの症状がみられることがあります。
また、小脳周辺に腫瘍ができた場合にはめまいや平衡感覚の乱れ、脳幹周辺に腫瘍ができた場合には眼球運動異常や顔面神経麻痺などの症状が現れることがあります。
頭蓋内圧亢進症状
膠芽腫に限らず脳に腫瘍ができてそれが大きくなると、頭蓋内の圧力が上がり頭蓋内圧亢進症状が現れることがあります。頭蓋内圧亢進症状とは、主に頭痛や吐き気、意識障害などの症状を指します。
腫瘍が肥大化し、呼吸機能などに関与する部位である脳幹にまで負担がかかると、呼吸停止など命に関わる症状があらわれることもあります。
検査・診断
膠芽腫の診断では、画像検査と病理検査が実施されます。
画像検査
画像検査では頭部MRI検査が行われることが一般的です。MRI検査とは磁気を用いて、体のさまざまな部分の断面図を撮影する検査です。
膠芽腫などの脳腫瘍の場合、頭部MRIの画像を通して腫瘍が脳のどこに位置しているのか、どの程度の範囲に広がっているのかなどを確認します。
また、MRIとは異なる情報を得る目的で頭部CT検査が行われることがあります。たとえば、CT検査では同じ脳腫瘍の一種でよりグレードの低い乏突起神経膠腫の特徴である石灰化が鮮明に確認できることがあります。
病理検査
実際の脳腫瘍の組織の一部を採取し、顕微鏡で確認する病理検査は治療上必須の検査と考えられています。
脳腫瘍は150種類もの分類があり、病理検査を行わない限り最終的な診断ができません。脳腫瘍の組織を採取するためには手術を受けることが必要となり、術中の病理検査ではじめて診断がつくことになります。
病理検査では膠芽腫の診断のほか、どのような遺伝子異常が存在するかを確認することが可能です。
遺伝子検査
がんの遺伝子検査とは、がん細胞にどのような遺伝子異常が生じているか調べる検査です。どのような遺伝子異常が生じているかが分かることによって、より効果のある治療薬を選ぶことができる可能性があります。
しかし、現段階では遺伝子の異常が分かったとしても、それに対応する治療薬がないという場合もあります。現在はさまざまな治療薬の開発が行われている最中です。
治療
膠芽腫の治療では、手術治療・放射線治療・化学療法を組み合わせた治療が行われることが一般的です。また、場合によっては交流電場腫瘍治療システムが併用されることもあります。
前述のとおり、病理検査をして診断を行うためには手術が必要となるため、初回治療としてまずは手術を検討します。その後、確定診断をもとに放射線治療や抗がん剤による化学療法の治療方針を決定します。
手術治療
膠芽腫など脳腫瘍の手術治療では、病理検査を行うとともに脳の機能を温存しながらできる限り腫瘍を取り除く治療が行われます。
しかし、実際には正常な脳組織に腫瘍が浸潤しており、全摘出が困難な場合もあります。無理に腫瘍を取りきろうとすると、脳の機能を損ない神経学的な後遺症が引き起こされることがあります。そこで、手術中に麻酔から覚醒して脳機能を確認しながらできるだけ腫瘍を摘出する“覚醒下開頭腫瘍摘出術”が行われることもあります。
放射線治療、化学療法
手術時の病理検査の結果や手術の際に確認した腫瘍の状態などから、放射線治療や抗がん剤による化学療法をあわせて行うことがあります。放射線治療・化学療法は再発を防ぐことを目的に行われることが一般的です。
交流電場腫瘍治療システム(TTF)
交流電場腫瘍治療システムとは、2017年に保険収載となった比較的新しい治療方法です。
医療装置を用いて脳内に電場を発生させ、腫瘍が増えてしまうことを防ぐ治療です。腫瘍の成長速度を遅め、再発するまでの期間を長くすることができます。手術で膠芽腫の確定診断がつき、放射線治療や化学療法を行った後の患者さんに対して行われます。
対症療法
積極的な治療介入を行った場合でも、膠芽腫の生命予後は非常に厳しいといわれています。
たとえば、年齢的な要素、治療開始前の症状などによっては、治療による効果が十分期待できないケースもあります。このような場合には、積極的な治療介入を行うのではなく、対症療法が選択されることもあります。
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