知覚過敏(象牙質知覚過敏症)とは、歯ブラシや冷たいものなどの刺激が加わったときに感じる一過性の痛みで、虫歯や歯髄炎などの歯の病気が見られない場合を指します。正式名称は“象牙質知覚過敏症”ですが、一般的には知覚過敏という呼び名が広まっています。知覚過敏の痛みは一時的なもので、短時間のうちに痛みがなくなることが一般的ですが、重症の場合は痛みが長時間にわたって持続することもあります。
知覚過敏の痛みは、歯の象牙質と呼ばれる部分に刺激が加わることで生じます。通常、この痛みは2~3秒程度のもので、長くても1分以内に消失するといわれています。
それよりも長く痛みが続いたり、短時間でも非常に激しい痛みを感じたりする場合は、知覚過敏が重症化した状態であると考えることができるでしょう。
歯の表面はエナメル質と呼ばれる成分でできており、象牙質はそれよりも内側に存在します。日常生活の刺激はエナメル質を越えて伝わることはないため、痛みなどの症状が現れることはありません。知覚過敏が現れるのは、何らかの原因で象牙質が露出したときです。しかし、象牙質が露出したからといって必ずしも痛みが現れるのではなく、象牙質の内部まで刺激を伝える象牙細管と呼ばれる構造が塞がっているときは痛みを感じないこともあります。
知覚過敏が重症化する原因にはさまざまなものがありますが、たとえば以下のものがあります。
知覚過敏は、軽症の場合は歯磨きを十分に行うことで自然に症状がなくなることもあります。これは、象牙細管が唾液や歯磨き剤の成分によって塞がってくるためです。しかし、歯磨きを怠ると歯の表面にプラークが付着し、歯の表面を溶かすことで知覚過敏が重症化する原因となります。
歯の部位のうち、歯茎(歯肉)の内部に位置する歯根部にはエナメル質がなく、象牙質がむき出しの状態になっています。歯肉が健康であれば歯根部は歯肉内にあるため痛みを感じることがありませんが、歯肉が下がることで歯の根元が露出し象牙質に刺激が伝わりやすくなります。歯肉が下がることは加齢に伴い多くの人に起こりますが、若い人でも過度なブラッシングや研磨成分の強い歯磨き剤を使用することで下がりやすくなります。
軽症の知覚過敏の場合は、歯磨きなどのセルフケアで症状が治まることもあります。しかし、症状を放置して知覚過敏が起こりやすい生活を続けていると、重症化して激しい痛みが続くようになることもあります。このような状態ではセルフケアでも効果がないことも多いため、医療機関を受診するようにしましょう。
歯科医院では象牙細管を封鎖する歯科材料を塗布して、象牙質をコーティングする治療を受けることができ、重症の知覚過敏にも高い効果が期待できます。基本的には歯を残す治療が行われますが、生活に支障をきたすほどの痛みがある場合は歯の神経を抜く治療が検討されることもあります。
歯に激痛などがある場合は、知覚過敏以外の病気が原因となっているかもしれません。知覚過敏は歯の痛み以外には病変が見られないものを指しますが、歯の病気には知覚過敏と症状が似ているものや知覚過敏の原因になっているものもあります。
歯の表面が酸で溶かされ、穴が開いてしまう病気です。虫歯が象牙質近くまで達すると、ちょっとした刺激で痛みを感じやすくなります。痛みの性質が知覚過敏と似ているため、虫歯の痛みと知覚過敏の症状を自分で見極めることは難しいでしょう。虫歯の場合、治療を怠ることで徐々に症状が悪化し、刺激を加えなくても痛みが持続するようになります。
歯周病は歯周組織の炎症によって歯肉や歯を支える骨が失われていく病気です。歯肉が下がって知覚過敏が起きている場合、その原因が歯周病である可能性があります。歯周病の特徴としては、歯肉の腫れや出血、歯の動揺(歯がグラグラすること)などが挙げられます。
歯髄炎は歯のもっとも内側にある歯髄が炎症を起こした状態です。重症化した虫歯や外傷によって起こります。持続的な強い痛みが特徴で、重症化した知覚過敏と症状が似ていることもあります。歯髄炎の症状はさまざまですが、刺激がなくても強い痛みが持続し、数十分以上にわたることもあります。さらなる刺激が加わることで痛みは増大します。
知覚過敏の重症化を防ぐためには日頃から歯のケアを怠らず、プラークコントロールを徹底するようにしましょう。虫歯や歯周病を予防することは知覚過敏の対策にもなります。ただし、間違ったブラッシングは知覚過敏の発症・悪化につながることもあるため、適切なブラッシングを心がけるようにしましょう。
知覚過敏の症状が出たら放置することなくセルフケアを行い、それでも改善しない場合は歯科医院を受診するようにしましょう。
明海大学 歯学部 保存治療学分野 教授
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