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黄斑上膜に対する硝子体手術――市立東大阪医療センターでの取り組み

黄斑上膜に対する硝子体手術――市立東大阪医療センターでの取り組み
高橋 静 先生

市立東大阪医療センター 眼科 副部長

高橋 静 先生

目次
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黄斑上膜は、眼鏡やコンタクトレンズによる視力矯正や、点眼薬による治療ができないため、現在のところ硝子体手術が唯一の治療法です。そこで今回は、市立東大阪医療センター 眼科 副部長 高橋 静(たかはし しずか)先生に、黄斑上膜に対する硝子体手術の概要と市立東大阪医療センターにおける硝子体手術の取り組みなどについてお話を伺いました。

黄斑上膜は網膜の黄斑部分に膜が張ることにより、ものが見えづらくなる病気です。黄斑上膜に対する治療法は、現在のところ“硝子体手術”と呼ばれる手術で黄斑の前にできた膜を取り除く方法しかありません。

当科では、まず眼球の中に手術器具やライトを入れるために、白目の部分に直径0.4~0.5mmの穴を4か所ほど開けます。

続いて、眼球の中を満たす硝子体を少しずつ取り除いていきます。硝子体が全て取り除かれると、黄斑のある網膜が露出するため、鑷子(せっし)というピンセットのような器具を使って黄斑の前に張り付いている膜を丁寧に取り除いていきます。その際に、再発の原因となる“内境界膜”と呼ばれる網膜と硝子体の境界部にある膜も一緒に除去します。

なお、当科の硝子体手術は眼球に開ける穴を極力小さくしているため、基本的に眼球の穴は自然に(ふさ)がります。また、硝子体は取り除きますが、その代わりに灌流液(かんりゅうえき)と呼ばれる人工の水に置き換えながら手術を行います。この灌流液によって眼球の形は保たれますので、硝子体を取り除いたことによる影響はほとんどありません。

黄斑上膜に対する硝子体手術にかかる時間は約1時間です。手術は局所麻酔をして行います。肌を触られる感覚や押される感覚などは残りますが、痛みを感じることはありません。また、意識がある状態で行うものの、頭上には強いライトがあってまぶしいと思いますので、カッターやピンセットなどの手術機器がはっきり見えて怖い思いをすることもまずないと思います。

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黄斑上膜に対する硝子体手術

回復までの期間は、手術時点の重症度などによるため個人差がありますが、おおよそ数か月間が目安です。黄斑上膜では、黄斑の前にできた膜が縮むことによって網膜自体に“しわ”ができており、それが見え方の質の低下をもたらします。硝子体手術では、その原因である膜を取り除きますが、網膜にできたしわが元に戻るには時間がかかるため、視力はゆっくりと回復します。

硝子体手術の主な合併症として術後の感染症や白内障があります。

感染症の予防のために、手術前から抗菌作用のある目薬を点眼し、術後は感染症の有無を確認しながら、必要に応じて適切な治療を行います。

一方、白内障は眼球の水晶体というレンズの部分が濁り、視力が低下してしまう病気です。白内障と診断されていない方でも、加齢によって多少の濁りがある場合も多く、この濁りは硝子体手術で進行することが多いとされています。そのため当科では、黄斑上膜の手術と白内障の手術を同時に行うことを基本としています。

なお、強度近視緑内障を合併している患者さんは網膜が弱い傾向にあります。これらの患者さんは、黄斑の前の膜を除去する際に網膜が傷つきやすく、視野障害が進行してしまう可能性があるため、手術の実施については慎重に検討する必要があります。

黄斑上膜という病気は進行しても失明には至らないことから、硝子体手術は必ず受けなければならないという手術ではありません。しかし、見え方の質に大きく関わる病気であり、見え方の質が落ちると生活の質の低下も招きますので、適切な時期に適切な治療介入をすることは大切です。当科では、病気の状態はもちろん患者さんが感じている不便さなども踏まえて、手術の実施を決定しています。

当科では、黄斑上膜を含む網膜硝子体疾患や白内障に対する手術治療に力を入れています。硝子体手術に関しては、年間120件ほど(2022年4月~2023年3月)実施しています。

患者さんへの負担が少ない手術を心がけており、硝子体手術には眼球に開ける穴がより小さい小切開手術を用いるとともに、膜を除去する際にできる限り染色液を使わないなどの配慮をしています。

初診時には、視力検査や眼圧検査のほか、黄斑の状態を眼底検査や光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)によって診断・重症度評価を行います。すぐに手術を行わない場合には、定期検査で黄斑上膜の進行や症状の変化などを経過観察しながら、手術を行うタイミングを検討していきます。

検査結果や患者さんの希望などを踏まえて硝子体手術を行うことが決まったら、手術に向けた検査を行います。麻酔を使用するため、眼科的な検査のみならず、血液検査や心電図検査、感染症の評価など、全身の状態を確認します。さらに、感染症の予防のために手術の3日前から抗菌作用のある目薬を点眼していただきます。

当科では、黄斑上膜に対する硝子体手術を入院で行っており、入院期間は4~6日程度です。手術は、入院当日に行います。術後は目を眼帯で覆い、安静を保つ必要がありますが、比較的自由に過ごしていただけます。翌日の診察で問題がなければ、透明の眼帯かゴーグルに変えることができ、手術をした目でものを見ることができるようになります。

なお、当科ではシャワーに関しては、首から下であれば基本的に術後3日目から行っていただけます。洗髪に関しては、汚れを含んだ水による感染に注意する必要があるため、医師の許可のもと看護師が実施しています。

手術後は3日ほど医師による経過観察を行い、異常がなければ退院になります。退院から1週間後と1か月後に術後のチェックを行い、経過が順調であればかかりつけの病院で経過観察を行うかたちとなります。

退院後にも感染症に注意する必要があり、術後1か月ほどは抗菌作用のある目薬を点眼し、ゴーグルを装着して生活していただきます。なお、手術から1週間が経過すれば、自宅での入浴も可能ですが、細菌・カビの多い環境(温泉・プールに入る、植物を扱うガーデニングなど)は、術後1か月程度控える必要があります。また、暑い時期には汗が目に入らないよう注意しましょう。

黄斑上膜に対する硝子体手術は、保険が適用される手術です。患者さんの病状や白内障手術の有無、入院期間などによって費用は異なりますが、当院の場合、おおよその目安は片目(白内障手術あり・手術費用のみ)で45万円程度*です。

*医療費負担割合別の支払金額:3割で約13万5,000円、2割で約9万円、1割で約4万5,000円

黄斑上膜に対する硝子体手術は、見え方の質を改善したいと考える患者さんにとって期待の大きな治療法だと思います。最近は手術機器の進歩などに伴い手技も洗練され、患者さんへの負担も軽減していることから、より身近な治療法になりました。

その一方で、硝子体手術による視力回復の程度は手術前の重症度などにより異なるため、手術のタイミングの見極めには、患者さんが求める“見え方の質”――たとえば「仕事のために細部までハッキリ見ることができるようになりたい」「日常生活へ大きな影響がなければよい」など――も関わります。私たちは、患者さんを取り巻く状況や価値観などを十分に踏まえて治療方針を決定し、見え方の質を少しでも改善するお手伝いをしたいと考えています。黄斑上膜の治療に関して、相談してみたいことや心配なことがございましたら、ぜひ当科にお越しください。

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