長野県松本市に位置する一之瀬脳神経外科病院は、脳神経外科に特化した医療機関として、地域住民の健康を守っている病院です。
救急を含む急性期から回復期、さらには在宅支援まで一貫して患者さんを支える体制を目指し、低侵襲(体への負担が少ない)なカテーテル治療の導入、3台のMRIを駆使した迅速な診断体制など、地域の安心を支えるための取り組みが多方面にわたって展開されています。
同院の理事長を務める一之瀬 峻輔先生に、病院の特徴や医療への思い、地域へのメッセージを伺いました。

当院は、1992年に脳神経外科医である父が開業しました。
開院当初から「最良で感動のある医療を目指す」という病院理念のもと、「救急を断らない」「地域からくも膜下出血をなくしたい」という思いを持って、患者さんの救急受入や手術を行っていました。脳卒中が発症した場合、発症からできるだけ早く、適切な治療を開始することが重要となるため、精度の高い検査機器等の設備を整えることや受入体制の整備に力を注いでいたと聞いています。開院当初からの「24時間365日断らない救急」という精神は、現在も変わらず職員に受け継がれています。
脳卒中は発症直後の数分、数時間が予後を大きく左右する、まさに「1分1秒を争う病気」です。

脳の細胞は一度壊れてしまうと元には戻りませんから、どれだけ早く診断し、早く治療を開始できるかがとにかく大切です。
早期治療を実現するためには、画像診断の精度とスピードが非常に重要です。当院では、MRIを3台配備しており、急を要する患者さんにも24時間365日、いつでも検査・治療ができる体制を整えています。脳卒中など、診断までの時間が治療効果に直結する病気において、この検査体制はとても大きな意味があります。
また、当院は脳神経外科を専門としているため、他の科が手術室を使用していて使えないということはほとんどなく、さらに救急室からMRI室や血管撮影室を1階に集めて動線を短くしています。検査から治療開始までがとてもスムーズなことも特長です。

治療においては近年、脳血管内治療、いわゆるカテーテル治療を導入しています。これは、従来の開頭手術に比べて体への負担が少ない低侵襲な治療法であり、患者さんにとっても選択肢が広がることにつながります。
脳血管内治療に対応できる専門医(日本脳神経血管内治療学会認定など)を含む体制を整え、常に新しい技術を取り入れながら、患者さんにとって安全かつ効果的な治療を迅速に提供できるよう努めています。
また当院は2019年より、「一次脳卒中センター(PSC)」の認定を受けております。一次脳卒中センター(PSC)とは、近隣医療機関や救急隊からの要請に対して、24時間365日脳卒中患者さんを受け入れ、速やかに診療 (t-PA静注療法を含む)が開始できる施設です。さらに、当院は現在、日本脳神経血管内治療学会の脳血管内治療専門医2名と3学会認定*の脳血栓回収療法実施医1名の合計3名が在籍し(2025年9月時点) 、カテーテルによる機械的血栓回収療法を常時行うことができる施設として、2024年に「一次脳卒中センター(PSC)コア」に認定されました。
この認定は、脳卒中の早期診断や緊急治療において、専門的かつ高い水準の医療を提供できる施設であることを示すものです。当院の認定は、地域の皆さんにとって安心して治療を受けられる環境がさらに整備されたことを意味し、職員一同、この成果を大変誇りに感じています。
*3学会認定:日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会の3学会

急性期治療が終わっても、症状によっては自宅退院までに至らず、長期間のリハビリが必要となることもあります。 そこで当院は、2019年に回復期リハビリテーション病棟を開設しました。 ここではリハビリテーション医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が連携して、365日リハビリを提供しています。我々は、「お家へ帰ろう」という合言葉を大切にし、早い段階から退院後の生活を見据え、リハビリ・家族サポートを行なっています。
また、病棟でのリハビリだけでなく、日常動作の中で体を動かせるような環境づくりも大事にしています。看護師や医療ソーシャルワーカーも含めた多職種のチームで、週に1〜2回のカンファレンスを行い、よりよい退院支援を目指しています。
退院後もサポートが途切れないように、訪問看護、訪問リハ、通所リハ、訪問介護、そして「シニア・メゾン エミレーツ」のような有料老人ホームも運営しています。2025年3月からは居宅介護支援事業所も加わり、ケアマネジャーとの連携もさらに強化されています。こうした体制があることで、患者さんもご家族も安心して生活に戻ることができると思っています。

近年では脳卒中に加え、頭痛・てんかん・もの忘れといった、日常生活に密接に関わる疾患に対しても専門外来を設け、診療に力を入れています。各分野の専門医が、患者さん一人ひとりに合わせた医療を提供できるよう努めています。地域の方が少しでも不安を感じたときに気軽に相談していただけるよう、医師やスタッフの専門性をさらに高め、安心して受診いただける体制づくりを進めてまいります。
当院にある3台のMRIは、脳疾患の診断にはもちろんですが、地域の整形外科や泌尿器科など近隣クリニックの先生方に「画像センター」として画像検査に利用していただいています。撮影した画像は、放射線医が読影して結果をお返しするなど、地域の医療機関同士の連携も積極的に進めています。こうした地域での連携も、地域医療を支えるための大切な取り組みです。
当院は、1分1秒、時間との闘いとなる脳卒中などの病気を診る病院として、開院当初から“救急を断らない”姿勢を大切に、地域に寄り添った診療を続けてきました。父の背中をみて医師を志した私も、地域の方々にとって“困ったときにすぐに相談できる病院”でありたいと常に考えています。
脳神経外科は、内科などに比べると馴染みがなく、“大きな病気に対して手術をする科”という、敷居の高いようなイメージを抱く方も少なくありません。しかし当院は、頭の困りごとならなんでも、気軽に相談に来ていただける病院です。
“頭が痛い”“最近もの忘れが気になる”といった日常的な不調こそが、重大な病気の前触れであることもあります。「こんなことで病院に行っていいのかな」とためらう方も多くいらっしゃいますが、どんな小さな気がかりでも気軽にご相談いただければと思います。
急性期脳卒中の専門病院としてスタートした当院も、回復期や生活期まで、脳卒中のどのフェイズの患者さんにも対応できる病院となりました。患者さんの声に耳を傾け、「最良で感動のある医療とは何か」を常に考えながら、医療の質向上とサービスの充実に取り組んでまいります。また、地域医療の発展に寄与し、皆さんに信頼される病院であり続けることを目指してまいります。
*写真提供……一之瀬脳神経外科病院
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